「大人の名品図鑑」ブレザー編 #4
正統な味わいとスポーティさを兼ね備えたトラッドアイテムの代表がブレザーだ。英国に出自を持ち、やがてアメリカに渡り、アメリカントラッドを象徴としての地位を確立する。日本にはアイビーブームのころに紹介され、何度かの流行を経て、いま再び注目を浴びている。今回は、世界各国から集めたブレザーの名品をお届けする。
前回、日本でブレザーの流行は50年代から60年代にかけてのアイビーブームのころからと書いたが、次に日本でブレザーが注目を浴びたのは80年代初頭からではないだろうか。
80年にリサ・バーンバックが書いた『オフィシャル・プレッピー・ハンドブック』(Workman Publishing)がアメリカで発行され、81年には翻訳本が日本でも出版されたことで、トラッドやアイビーにひねりを加えたプレッピースタイルが日本でも大きなブームとなった。プレッピーにふさわしい着こなしをまとめた同書の第4章では「紺のブレザー。ワードローブの基本とでも言えるアイテム。一着しかジャケットを持たないのなら、この上着を買うべきです。デザインは3つボタンのシングル。素材は冬用にソフト・フランネル。夏用はホップサックがあります」とブレザーについて言及されている。
また同章の「どこで買い物をするか」という項目では、今回取り上げるアメリカの老舗トラッドブランド、J.プレスが、プレッピー御用達のショップとしてリストアップされている。「ブルックス ブラザーズは流行を追いすぎるという超保守的な頭の固い人たちに、この店は1902年以来ずっと支持されてきました」とある。プレッピー志向の筆者たちからすると、当時のJ.プレスの品揃えはややクラシックに見えたのかもしれない。さらに同ショップに並ぶアクセサリーにも言及していて、あらゆる種類のクラブ・タイ、そして母校の紋章が飾られたブレザーボタンを“推し”ているのだ。
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流行語にもなった“プレスに行く”
J.プレスはアメリカ東海岸のニューヘブンのあるイエール大学の門前に開いたショップが始まりだ。創業者はジャコビー・プレス。彼の仕立てるスーツやジャケットはやがてアイビーリーガーたちから支持されるようになり、学長からも正式な場面で着用するローブの注文を受けるまでになった。学生たちの間では“プレスに行く”という言葉が流行にまでなったと聞く。J.プレスは“カレッジショップ”の走りとみていいだろう。だからスクールカラーのネクタイや学校の紋章入りのブレザーボタンを揃えており、それには当時に流行に敏感だったプレッピーたちも反応して同書に記しているのだろう。
そんな本国のJ.プレスのショップをイメージして東京・青山につくられたのが、「J.PRESS & SON’S AOYAMA」だ。オープンは2019年10月、創業以来の哲学を受け継ぎ、現代のトラディショナルスタイル、あるいはアイビーの新たな可能性を探求するブランドであるJ.プレス オリジナルスのコンセプトストアとして誕生した。そのコレクションはHPでも見ることができるが、驚くほど多くのブレザーが掲載されている。
J.プレスの定番とも言える3ボタン段返りのオーセンティックなシングルブレストモデルから、ビッグシルエットに仕立てられた「バギーブレザー」は、シングルとダブルブレストモデルを展開、素材もオーソドックスなウール(ウールだけでもバリエーションがある)、リネンからより快適な着心地をもたらすニットまで多彩だ。J.プレスにおいて、ブレザーは重要なアイテムで、その伝統の象徴するアイテムと考えてもいいのではないだろうか。
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ディガウェルとコラボした現代的ブレザー
そんな多彩なラインナップの中で、今回取り上げるのが、日本のファッションブランド、ディガウェルとの共同レーベルである「CRST(クレスト)」ラインのブレザー。2020年秋冬からスタートしたラインだ。
ディガウェルはデザイナー、西村浩平が手掛け、ひねりを効かせたユニークなデザインとクオリティの高さで定評がある。そんなブランドとコラボして出来上がったのが、サイズを大胆にワイドに仕上げたネイビーブレザー。3ボタン段返り、パッチ&フラップの脇ポケット、センターフックベントなど、J.プレスの象徴的なディテールを備えながら、身頃も袖もリラックスしたサイジングに仕上げている。大きめに着れば、流行のビッグシルエットスタイルが完成する。
ブルゾンやコート代わりに着ることも可能で、女性が着ても可愛い。素材に使われているのが、英国の政府機関や学校の制服などに採用されているユニフォームクロス。シワにも強く使いやすく、通年に着用できる。J.プレス オリジナルスの定番モデルをサンプリングしながらも、デザイナーらしいエッセンスを加えてモード寄りに仕上げている。ブレザーを取り入れても昔ながらのトラッド的には着たくないと思う人もいるだろう。そういう人には絶好の一着だ。
もうひとつ気になったのがニット素材を使ったブレザーだ。社会全体のカジュアル化の中、ニット素材をジャケットやブレザーなどの上着に採用するブランドが増えてきた。J.プレス オリジナルスがコラボレーションしたのは、メリヤス生地の生産量日本一を誇る和歌山で1964年に創業したカネマサ莫大小のオリジナルブランドのKANEMASA(カネマサ)だ。独自開発のサステナブル糸である“SRO糸”と、リサイクルポリエステルの糸を編み立てた、46Gという超高密度ニット生地で仕立てたブレザー。
編組織を自由に操ることができる独自のジャカード機により、ツイル組織の目を立てることで、今までに成し得なかったソラーロ(玉虫柄)をニットで表現することに成功している。しかも背抜きの裏地によりシーズンレスに着用可能。身幅にゆとりのあるボックスシルエットで、アームホールもやや太めにデザイン、カジュアルなスタイルにもマッチする。裏地にはJ.プレスのテーラードアイテムのアイコンのひとつである赤のパインピングが入っている。これもJ.プレスの伝統あるブレザーを再編集し、現代的にデザインした注目のブレザーではないだろうか。
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問い合わせ先/J.PRESS & SON’S AOYAMA TEL:03-6805-0315
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