【東京車日記番外編〜クルマの細道〜】前編“まるで全員がアーマロイドレディになったかのよう!  電動化を進める最新のボルボを探る”

  • 写真&文:青木雄介
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ソリッドように見えるセージグリーンのボディカラーは、じつはメタリック塗装。クルマを特別な印象に見せる。

 

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フレームレスグリルでピュアEVであることを表している。

 

スターターキーがないことで、電気自動車だと気づく

ボルボが年々、売上台数を伸ばしている。特に新型が出たわけでもないのに現行型が年数を重ねるごとに相当な伸びを示している。たとえばSUVの中軸をになうXC60は発売翌年2018年の販売台数が2700台なのに対して、発売から5年経った22年では4003台と150%近い伸び。理由のひとつは認知度がゆっくり一般に浸透してきたスロースターターの側面と、もうひとつは同じ車台を使いつつEV(電気自動車)やPHEV(プラグインハイブリッド)、ハイブリッドと3つのパワートレインによるバリエーションが増えてきたことが、大きいらしい。

もはや、ボルボからは純然たるエンジン車は販売されていない。あらためて衝撃が走るんだけど、ここ3年ぐらいでボルボは「全車電動化(ハイブリッド含む)」ですよ。マジか…… 「新型XC40はガチでお洒落」とか言っていたのが18年のロシアW杯のときだから(笑)、コロナ禍の間になんという変わりようだ! SFコミック『コブラ』でいえば登場するレディがいつのまにか全員アーマロイドレディになったみたいな全ラインアップ電動化の衝撃(笑)。そのボルボの電動化を体験すべく、九州で4車種一気乗りする機会にめぐまれた。まずはいちばん気になるEVのXC40から。

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AWDツインモーターのパワフルな走りと最大484kmの航続距離を誇る。

フロントグリルがなくてボディと一体化している、いかにもEVな出立ち。XC40の前輪シングルモーターモデルはもう売り切れていて、試乗会に用意されていたのは、四輪駆動のツインモーターモデルのみ。

EVモデルを買うのは、まだまだ敷居が高くてEV専用車種だとその敷居がより高く感じられるもの。その点、XC40はEVモデルの販売も見越して、あらかじめ車台を共有するように開発された。コスパを抑えるのと同時に、購買層へEVへの違和を感じさせない導入の仕方をしている。プラグインハイブリッドを選ぶぐらいの軽い気持ちでEVを選ばせるし、EV専用車種のような前のめりな感じもない。いたって、すんなり運転席に座れる。始動するにあたってスターターキーがないことに気づき「なるほど」とうなずくぐらい自然なのね(笑)。

インテリアもエンジンモデルと多くのパーツを共有しつつも、バックライト付きのデコレーションパネルや瀟洒なクリスタルシフトノブなど専用のパーツが目につく。あくまでもボルボのEV化はソフトランディング。とはいえ、XC40のエンジンモデルが発売されて5年ですよ。その間、矢継ぎ早に新しいパワートレインを導入してきたボルボの姿勢には不退転の決意を感じるよね。

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よりエシカルにサステナブルな姿勢をみせる100%レザーフリーになったインテリア。

運転してみるとワンペダルドライブのEVらしいドライブフィール。アクセルをオフにすると作動する回生ブレーキの効きもほどほどで過度に抑制的ではない。ただエンジンモデルは伸びやかな加速フィールときびきびしたアジリティが魅力だったのに比べ、EVモデルの車体は重く、全体的に走りは抑制的な印象が強くなる。

回生ブレーキで少しでも電力を発生しようとさせるから、こればかりはどうしようもないし、気に入らなければワンペダルドライブをオフにすればいいんだけど、回生ブレーキを使わないようにするのと航続距離が短くなることになり、どうにも後ろめたさがつきまとう(笑)。

逆にEV化で手に入れているのがどっしりしたカタマリ感と静粛性能だね。車格が2段ぐらいあがった高級感を伸ばした走りをする。足回りは硬めで、路面が荒れると上屋が揺れるものの四輪でしっかりグリップ。跳ねも意識的に抑えている。

ツインモーターによる大きなトルクで背中を押される加速感も魅力。シングルモーターが人気のようだけど、ツインモーターの強力な加速はEVならではの醍醐味であり、重量が増すから、いっそAWDらしい安定感のある走りを目指したいところ。ツインモーターもいいじゃないですか。コンパクトSUVといえども、しっかり高級性能を奢っていますよ。

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シート素材は上質さがきわだつオプションのテイラード・ウールブレンドシート。

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エンジンの存在感を消し去った、プラグインハイブリッド

ミドルサイズSUVであるXC60でEVはまだ販売されていないものの、主力はこのプラグインハイブリッド。かつてターボとスーパーチャージャーのツインチャージャーだったエンジンは、ターボのみとなり従来のスーパーチャージャー以上の役割をパワフルなモーターが担っている。魅力は低速からの伸びやかな加速と、大きすぎず小さすぎないジャストなサイズ感。

ドライブモードは3つあり「ピュア」がEV走行を軸にしたモーター最優先のもの、「ハイブリッド」がメインのモードでエンジンとモーター走行を上手に使い分ける。そして「パワー」はいわゆるスポーツモードでエンジンとモーターの最大出力値があがり、スタビリティ重視のAWDらしい力強い走りへと変貌する。

感心させられるのは、ハイブリッド走行におけるエンジンとモーターが混然一体となったシームレスな駆動感。ほんとなめらかで、「見事だなぁ」と思わずつぶやくほどなんだけど、理由はほぼモーターで走っているように錯覚させるところ。

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ワンペダルドライブを実現したXC60の画期的なプラグインハイブリッドモデル。

特に走り出しや加速は、まずモーターの駆動力で高いトルクをつくっておいて、エンジンがアシストしているイメージ。しっかり充電しておいてモードをハイブリッドにして走るのが、このクルマではベスト。静かに、しなやかに車体は滑り出し、高級感、ドライバビリティにおける情報量と解像度が、非ハイブリッドモデルと比較にならないぐらいあがっている。

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81kmのバッテリーによるEV走行が可能。燃料消費率は公表値14.3km/L。

毎日飲むコーヒーだから、それ相応の豆とコーヒーメーカーにこだわりたい。プラグインハイブリッドのXC60を選ぶ感覚って、きっとそういう当たり前のQOL(生活の質)をあげる感覚なのね。あきらかな重量増もミドルサイズともなると、逆にしかるべき重量と感じられるから不思議。

XC60はバッテリーだけで81km走れるポテンシャルはあるものの、いざ走行中にチャージしなければいけなくなるとエンジンの存在が嫌でも前に出てくる。難をいえばその点だけが残念だったかな。それぐらい、しっかり充電された状態でのハイブリッド走行は素晴らしい。ワンペダル走行でアクセルを戻す際の電気回生量を増やしたり、走りの質をあげる工夫も面白そうなクルマだった。

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自然なカーブを描くドリフトウッドパネルなどスカンジナビアデザインが映えるインテリア。

 

ボルボ XC40 Recharge Ultimate Twin Motor

サイズ(全長×全幅×全高):4440×1875×1650㎜
バッテリー容量:78kWh
最高出力:204ps/4350-13900rpm(フロントとリアともに)
最大トルク:330Nm/0-4350 rpm(フロントとリアともに)
駆動方式:4WD
航続可能距離(WLTCモード):484km
車両価格:¥7,390,000(税込み)
問い合わせ先/ボルボ・カー・ジャパン
www.volvocars.com/jp

 

ボルボ XC60 Recharge Ultimate T6 AWD Plug-in hybrid

サイズ(全長×全幅×全高):4710×1915×1660㎜㎜
エンジン:直列4気筒DOHCインタークーラー付ターボ+電気モーター
排気量:1968cc
最高出力:253ps/5500rpm
最大トルク:350Nm/2500-5000rpm
駆動方式:AWD
車両価格:¥9,900,000
問い合わせ先/ボルボ・カー・ジャパン
www.volvocars.com/jp