手取りが減っても扶養を超えて働けば何年で元が取れるのか? 試算の結果は…

  • 文:川畑明美
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配偶者が扶養を超えて働いた方がいいのか、扶養内で働く方がいいのか。よく聞かれる質問だ。特に社会保険の扶養を超える「年収130万円の壁」は大きなターニングポイントだ。こんなご質問をいただいた。

「ずっと社会保険の扶養内の130万円以内で働いていましたが、一昨年から、扶養を外して、また厚生年金に加入して働いています。正直、社会保険料を引かれると、かなり手取りは低く、17万円くらいです。厚生年金はかけていくのは率が低いと知人に言われ、それより個人年金でもっと貯めて行った方が将来的にいいと思うと言われました。扶養に戻して、自分で年金やらを支払い、iDeCoもかけられる金額が多くなるので、そういう形の方が将来的に得なのでしょうか?」

単純に手取り額が減るから社会保険の扶養に戻るというのは、短絡的な考えだ。厚生年金に加入すると保険料の支払い額は増えるが、国民年金と厚生年金という2種類の年金を受給できるようになるのだ。まず年金の仕組みを考えてみよう。年金の仕組みは、よく建物に例えられる。建物にたとえると国民年金は、建物の1階に相当する。厚生年金が2階部分に当たる。そしてiDeCoも加入しているのであればiDeCoは建物の3階部分になり、階数が増えるだけ年金の受給額も増えていく。

つまり、厚生年金に加入することで、将来もらえる年金の額を増やすことができるのだ。厚生年金に加入している場合は、現役時代の収入に応じた厚生年金を国民年金にプラスして受給できる。国民年金の支給額は定額だが、厚生年金の支給額は会社に勤めていた期間と給与額によって決まる。そのため一律ではないが、頑張って給与を上げることができれば、年金も増える。民間の個人年金と違って、一生涯支給がある年金額を増やした方が老後の生活は安定するのだ。

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厚生年金は1年働くと1万4,470円年金が増える

前提を理解していただいた上で、ご質問に回答しよう。まず、手取り17万円ということは、額面22万円くらいだと試算できる。ボーナスについての情報がないのでザックリした計算になるが、標準報酬月額が22万円として支払う保険料を計算してみよう。厚生年金保険料額表で22万円の標準報酬月額の保険料は、4万260円。この半分は会社が支払ってくれるので、実際に支払うのは2万130円となる。


現在厚生年金に加入して受け取れる年金額の概算は「平均標準報酬額 × 5.481/1000 ×加入期間」(※マクロ経済スライドは考慮せず)。計算式にあてはめると、22万円 × 5.481 / 1000 × 12ヶ月 で、1年間にもらえる年金額は、約1万4,470円となる。

国民年金を考慮しないとすると、1年間働くと厚生年金額は1万4,470円 増えることになる。厚生年金の支払い額が 2万130円 × 12ヶ月 で、24万1,560円。1年間働いて元を取れる年数は、24万1,560円 ÷ 1万4,470円 = 約17年 。17年間、年金を受給できれば元が取れる。

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概ね7年で元が取れる

ただしこれは厚生年金だけの話だ。厚生年金を支払っていれば、老齢基礎年金も支給される。厚生年金保険料には、国民年金の保険料も含まれているからだ。国民年金の令和5年の満額は、79万5,000円(※)。老齢基礎年金の受給額は保険料納付済月数に比例するので、国民年金保険料を1か月納付すると79万5,000円÷480か月=1,656円増える。1年納付すると1万9,872円。老齢基礎年金まで考慮すると24万1,560円 ÷ (1万4,470円 +1万9,872円)= 約7年で元が取れるのだ。概ね7年で元が取れてしまうのだ。寿命が長くなればなるほど民間の年金保険よりもずっと利回りも良くなる。


扶養を外れると支払う必要のなかった保険料を払うことになるので損した気分になるのかもしれない。しかし、社会保険に加入することにより将来もらえる年金額が増えるし、手厚い保険制度も受けられるようになる。単純に手取り額の減少だけで「損をした」と考えてはいけない。扶養内で働くということは、老後の保障よりも「今の生活費の足し」にしかならないからだ。

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社会保険の扶養に戻ってもiDeCoの掛金の上限は変わらない


また、ご質問ではiDeCoについても勘違いされているようだ。扶養に戻るということは、第3号被保険者になるということになる。第3号被保険者になると、ご自身で国民年金保険料を支払わなくても老齢基礎年金を受け取ることができる。iDeCoの掛金を増やすことができるのは、ご自身で国民年金を支払っている「第1号被保険者」の場合だ。その場合、月額6万8000円が掛金の上限になる。


扶養に戻って第3号被保険者の場合の掛金の上限は、月額2万3000円だ。現在厚生年金に加入していて、企業年金に未加入の第2号被保険者の場合、第3号被保険者と同じく上限は、2万3000円となので、iDeCoにかけられる金額は多くならない。

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社会保険の扶養を外れるメリットは?


社会保険の扶養になる場合、国民年金の支払いがなくなるというメリットはあるが、健康保険に制限がある。一方、社会保険の扶養を外れると、厚生年金とセットで健康保険に入ることができる。扶養のままでは受給できない傷病手当金など、保障が手厚くなるメリットは大きい。傷病手当があるなら、民間の医療保険も見直せる。注意点は、社会保険料を負担する場合155万円前後で手取り回復の分岐点がくる点だ。ご質問をいただいた方は、額面の月収は22万円と推測できるので、この点はクリアしているだろう。


また、厚生年金に加入していればiDeCoの加入期間も長くなる。扶養の範囲内の第3号被保険者の場合、年金の扶養は60歳まで。厚生年金に加入している第2号被保険者の場合は65歳までiDeCoに引き続き加入できる。iDeCoに加入することで所得税や住民税が節税できるメリットがある。さらに掛金が増えることと、期間が伸びるのでリスクを取った運用も可能となる。このメリットは、かなり大きい。

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65歳から70歳まで会社で働くと年金はさらに増える


また65歳以降も厚生年金に加入して働くと70歳まで毎年、年金額を増やすことも可能だ。国民年金は、60歳になると加入資格がなくなるが、厚生年金は会社で働いていれば70歳まで加入できるからだ。働いている間は、年金を受給できる年齢になってもずっと会社と折半で保険料を納めることができる。


年金の改正によって、65歳以上の人が年金を受給しながら働く場合は、在職中でも毎年1回年金額の改正が行われるようになった。つまり、働いて納めた保険料によって、年金が年々増えていくのだ。たとえば標準報酬月額が10万円の方ならば、1年働くと7000円くらい増える。標準報酬月額が20万円の方だったら1万3000円ほど年金が増えるのだ。70歳まで働くつもりならば、年金の繰下げをしたらさらに年金額は増えるのだ。

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【執筆者】
川畑明美●ファイナンシャルプランナー 「私立中学に行きたいと」子どもに言われてから、お金に向き合い赤字家計からたった6年で2000万円を貯蓄した経験をもとに家計管理と資産運用を教えている。HP:https://www.akemikawabata.com/


※令和5年の年金額は、法律の規定により、67歳以下の方(昭和31年4月2日以後生まれ)は令和4年度から原則2.2%の引き上げ、68歳以上の方(昭和31年4月1日以前生まれ)は令和4年度から原則1.9%の引き上げになっているので、年齢によって金額は変わる。