かたちを変えて進化を続ける「藤井組」の強みとは? 映画『ヴィレッジ』の藤井道人監督に聞く

  • 文:SYO
  • 写真:齋藤誠一
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1986年生まれ。日本大学芸術学部映画学科卒業。大学卒業後、2010年に映像集団「BABEL LABEL」を設立。伊坂幸太郎原作『オー!ファーザー』(2014年)でデビュー。以降『青の帰り道』(18年)、『デイアンドナイト』(19年)、『宇宙でいちばんあかるい屋根』(20年)、『ヤクザと家族 The Family』(21年)など精力的に作品を発表。『宇宙でいちばんあかるい屋根』(20年)、『ヤクザと家族 The Family』(21年)『余命10年』(22年)など精力的に作品を発表。

映画『新聞記者』(2019年)で日本アカデミー賞最優秀作品賞を獲得し、その後も『ヤクザと家族 The Family』(21年)、興行収入30億円のヒットを記録した『余命10年』(22年)など、数々の話題作を手がけてきた映画監督・藤井道人。盟友・横浜流星と組んだ最新作『ヴィレッジ』(4月21日公開)では、「ムラ社会×転落劇」というダークなテーマを描いた。

今回のインタビューでは、他にはないキャストや製作陣との関わり方を実践する「藤井組」の強みや特徴について、また藤井が2010年に設立し、Netlixと5年間の戦略的パートナーシップを締結した映像集団「BABEL LABEL」について話を聞いた。

「映画の現場はこうあるべきだ」という考えがない

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©️2023「ヴィレッジ」製作委員会

―― 「藤井組」の強みとははなんだと思いますか? 僕自身も以前、藤井監督の現場に伺って、雰囲気の良さとスムーズさを感じました。

藤井:みんな仲がいいのでフレキシブルですし、やりたいことが明確だから混線しないんですよね。回路がひとつしかないといいますか。僕は監督として棟梁をやらせてもらっていますが、ひとつ提示したものに対して「自分は何をやればいいのか?」と迷っている人がいないのが強みかなと思います。

ただこれは1本で出来上がったものではなく、何年もかけてこの組を作ってきました。詳しくないのに言っちゃうと(笑)、『ONE PIECE』みたいなものかもしれません。港に立ち寄る度に色々な良い人材を船に乗せて、流動的に大きくなってきた組だなと自覚しています。

――藤井さんの作品が好きでエキストラに応募し、現場で直訴してスタッフに加わった方もいらっしゃるそうですね。

藤井:そうなんですよ。エキストラで潜り込んで助監督に話しかけて、翌週からカチンコを打っているような人もいます。そうしたフレキシブルさはいまの時代ならではですよね。と同時に僕自身、助監督経験がないまま監督になったので、「映画の現場はこうあるべきだ」という考えがないことも大きいかと思います。「なんで肉と魚の2種類しかないの?」ではないですが、疑問に思ったものはどんどん変えていきたい。現場にいるスタッフだけじゃなく、プロデューサーや宣伝チーム含めて「面白いことをやろうよ」と言ってくれる周りの人たち全員が藤井組だと思っています。

――『ヴィレッジ』の撮影監督は『名もなき一篇・アンナ』(『DIVOC-12』内)などで組まれた川上智之さんです。新しいクリエイターが加わっても機能するのも藤井組の強みではないかと思います。

藤井:僕はスタッフィングにおいて8:2~7:3のバランスを重視しています。7~8割は古参というか藤井組を知っている人たち。残り2~3割が初めましての人たち。最初の方は「馴染めているのかな?」と葛藤されるかもしれないけど、いざやってみたら僕の知らないところで古参メンバーと仲良くなってくれているので、僕は楽をさせてもらっています。

――藤井組に明文化されたルールのようなものはあるのでしょうか。

藤井:それはないのですが、大きく言うと「リスペクト」かなと思います。みんなの仕事をお互いに尊重し合って、忌み嫌わないようにする。美術部が助監督に対して強気とか、そういった昔からの悪しき文化を変えないといけないと思っています。それって年齢も大きな要因なので、最近はなるべく自分と近い世代のメンバーとつくることを徹底しています。  

―― ものづくりのやり方を変えようという意識は、藤井さんの世代に共通してあるものだとお考えですか?

藤井:自分たちが20代のときに「これおかしいな」とか「なんでこうなっているんだろう」と思っていたことを、責任ある仕事をいただけて、自分たちの力で変えていけるようになってきたとは思います。30~40代で変えていかないと駄目なんじゃないかということをすごく意識しています。

――藤井さんは常々、ご自身ではなく「藤井組」のワークである、と強調されています。

藤井:やっぱりプロの技術者が集まっているという解釈なので、一人ひとりが表現者だと思っています。ライティングもこの人だからこうだし、撮影も今村圭佑ならこう、川上智之ならこうといった具合にその人の色が出るし、その人が持っている色を最大化させるのが監督の仕事だと思っています。僕が押し付けると結局こじんまりしたものになってしまうので、自分の色を楽しんで出してくれる人たちをなるべく選んでいます。一緒にやる前にを面談して、合うか合わないかを見きわめたりもします。

――藤井さんが感じる「合う」を言語化するとしたら、どういう部分でしょう。

藤井:組織を信じていない人が多いですかね。「いままでこうだったからこうします」じゃなくて「いままではこうだったかもしれないけど変わらないといけないし、もっとこうした方が面白くないですか?」というディスカッションができる人がやりやすいかな。『ヴィレッジ』で組んだ川上さんも、普段はスチールのフォトグラファーなのですがシーンの切り取り方や解釈が独特で面白くて「そんな引き出しがあるんだ」と思うことが多くありました。映像だけやっていたら絶対こうはならなかったと思います。彼は「俺は映像編集のことはわからないから、前後のシーンの繋がりがおかしかったら言って」とはっきり言ってくれるのですが、そういう風に自分の得意・不得意がわかっている人は一緒にやっていてすごく楽です。

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キャストとの新しい関わり方、つくり方

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――キャストとのコミュニケーションにおいてはいかがですか? 『ヴィレッジ』では横浜流星さんのように継続的に組まれてきたメンバーがいる一方、初タッグの方もいらっしゃいます。

藤井:あんまりリサーチしないようにしています。これはNetflixシリーズ『新聞記者』で米倉涼子さんとご一緒したときもそうでしたが、米倉さんのように世代を代表する方と組む際に過去作品をあんまり見すぎちゃうと、ただ恐縮しちゃうだけだと思うんです。だから基本的に過去作品は観ないし、傾向と対策を打たずにフラットに臨む方が上手くいくことが増えてきました。

逆に、先方が自分の作品を観て下さっていることも増えていて「藤井組ってこうだよね」と来てくださったのに「それは2年前のやつで、こちらはもうアップデート済みで芝居のやり方も変わっています」みたいなこともあるので、お互いフラットなほうがいいのかもしれませんね。とはいえ基本的に俳優部がやりやすいような場をつくる気持ちでやっているので、気持ちよくやってもらえているのではないかなと思います。

――横浜さんとはまさに「一緒にアップデートしてきた」関係性ですね。

藤井:そうですね。月に最低1回は会っているので、お互いが何を考えているのか、何をしたいのかは明確にシェアしています。だからこそ生まれるものは絶対にあると思います。

――横浜さんや綾野剛さんといった、常連のメンバーが新たに加わる方々との橋渡しを担われることもあるのでしょうか。

藤井:剛さんは俳優歴も長いので、他の俳優部のことを考えて、みんながリラックスできるように動いてくれることが多いです。流星は大抵1人でじっとしています(笑)。でも、『ヴィレッジ』の撮影現場で作間龍斗くんに接する姿を見たとき、作間くんも“緊張しい”で大人しい子なのですが、流星が自分から話しかけに行ったのを見て「大人になったな」と感じました。

――『ヤクザと家族 The Family』『箱庭のレミング』『最後まで行く』の磯村勇斗さんもそうですが、若手を入れて継続的に組み、"育てていく"のも藤井組の特徴ですね。

藤井:やっぱり、1回目より2回目の方が絶対うまくいくんですよね。1回目はお互い流派が違いますから。だからこそ完成した作品を観たうえでまた同じ組に呼ばれるというのは、役者的には嬉しいものみたいです。自分もそうした縁を大事にしたいし、「じゃあ次はもっと良くしよう」という気になります。黒木華さんのように1回目(『余命10年』)の時点で素晴らしい方ももちろんいますが、何回かやることで良くなっていくことが多いですね。

――『ヴィレッジ』は、横浜さんがロケハンや脚本のブラッシュアップ段階で参加されるなど、まさに「新しいつくり方」を追求した作品かと思います。

藤井:正直言って、事務所がいい顔するかはわからないとは思うんです。その日別の仕事を入れられたかもしれませんし。でも本人が「なんでいままでやってこなかったんだろう。もっとロケハンに行きたい」と言ってくれているのはすごく頼もしいです。「誘ってよかった」と思えますし、最近はコミュニケーションを取れている俳優に対してはロケ地の写真を事前にどんどん送るようにしています。現場の時間って限られているから、俳優部もイメージがついた状態で現場に来てくれた方が効率的なんですよね。

―― 映画によっては「俳優の準備の時間が全然ない」と聞くこともあります。

藤井:俳優部って最も孤独な部署だと思うんです。全員知らないところに急に入っていき「はい、じゃあここで泣いて下さい」みたいに言われて……。そういう中で「この組だったら自分の芝居を受け入れてくれる」という安心感を持てるか否かでパフォーマンスは確実に変わるでしょうから、そういった点を すごく大事にしています。

今って、なかなか“飲みニケーション”を取れない時代になってきたからこそ、こちらも対応策を考えていかないといけない。一緒に飲んだりタバコを吸ったり、雑談しているうちの@1%くらいがすごく意味がある」じゃないけど、そういったことの上積みが一番大事だったりしますが、それができない以上、じゃあたとえばキャラクターシート(キャラクターの設定が詳細に書かれた資料)を入念につくり込むとか、「俺はこういうことがやりたいんだ」が最速で届くように意識して取り組んでいます。

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いまより5倍良い仕事が、10倍ある会社にしたい

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©️2023「ヴィレッジ」製作委員会

――藤井さんが2010年に立ち上げ、現在では数多くのクリエイターが所属する映像レーベル、BABEL LABELについても伺えればと思います。今年、Netflixと5年間の戦略的パートナーシップを締結したことが注目を集めました。以前、世界的なヒット作を生み出す韓国の「スタジオドラゴン」や、独自の路線で注目を集めるアメリカの映画会社「A24」を目指すとおっしゃっていましたが、そのためにいま何が足りないとお考えですか?

藤井:超・根幹的な問題でいうと、人材不足。でもこれってすべてが循環していて、負のサーキュレーション(循環)が出来上がってしまっている。業界全体の問題として、労働時間が長い・仕事がきつい・仕事量にみあったギャラが欲しい――こんなやりがい搾取状態で、いい人材が入ってくるわけがないんです。3年以内に辞めちゃう人が多くいるなかで、残っている人たちとやらなくちゃいけない。

もちろん、残っている人たちが悪いわけではありませんが、クリエイティブの限界はどうしてもあります。となると人材の強化をしないといけない。そこでBABEL LABELでは「ライターズ・ルーム」を設立して脚本家を募りました。即戦力じゃなくて、自分たちで雇用して勉強してもらい、育てる。でもまだまだプロデューサーもディレクターも全然足りていなくて、そこが今後の課題ですね。

――「育てる」は本当に大事ですよね。しかし、自分の食い扶持も稼ぎながら後進を育てる、この両立はみんなができることではないのが現状かと思います。

藤井:そうなんです。だから、今より5倍くらい良い仕事が10倍くらいある会社にしないといけない。BABEL LABELにいれば寝ていても仕事が来るけど、寝ていたら1年でクビになるくらいの危機感をもってほしいし、同時に頑張ったら年俸が10倍になって、やりたかった企画もちゃんと通るくらい夢がある場所にしたいと思っています。

いま僕は「そういうブランディングを自分たちでしていくしかないんだ」と競争をけしかけています。その中で結果が出るメンバーもいますし、「ちょっと尻を叩かないと駄目だな」というメンバーもいる。なかなか難しいところではあります。

――身の回りからクリエイティブの意識を変えていく、啓蒙していくということですか・

藤井:そうですね。僕らは映画もテレビドラマもNetflixもやっていますが、全方位的に底上げないといけないと思っています。Netflixとパートナーシップを結んだからといって、依存していたら何も変わらない。結局は、BABEL LABELがどことどう組んで掛け算を生み出すかなんですよね。

僕は『アバランチ』でカンテレ(関西テレビ放送)と組みましたが、ちゃんとヒットさせれば「ローカル局がこういうことをやっているのか」「こういうジャンルもあるんだね」とほかの企業の企画会議でも話題に上るはず。実際『アバランチ』以降、マスクをかぶった作品が増えたなと思いますし、そうしたうねりや波みたいなものを自分たちが巻き起こせられればと思います。

――新しさを自分たちでつくるということですね。

藤井:人と違うことをやればいいんですから。いまって大体の企画会議で通るものは「これが流行ってるからこれをやりましょう」だと思います。でも視聴者サイドからしたらそうじゃないじゃないですか。流行りに乗った作品を観ても目新しくないんです。

僕らも同じで「観たことのないものをやらないと意味がないんじゃない?」と思っています。そこで重要になってくるのが、掛け算。例えば韓国の作品は「復讐劇×何か」みたいに、何と何を掛け合わせるかで新しさを創り出している。そうした発想や概念はとても大事だと思っています。

『ヴィレッジ』

監督・脚本/藤井道人
出演/横浜流星、黒木華ほか 2023年 日本映画
2時間00分 4月21日よりTOHOシネマズ日比谷ほか全国の劇場で公開。
©️2023「ヴィレッジ」製作委員会
https://village-movie.jp/