マクラーレンが誇る高性能スーパーカー、マクラーレンGT。この春、オーナー向けのスペシャルイベントとして、日本各所の名所を巡るラリーが実現した。世界中から集まったオーナーたちは、京都、三重、富士山周辺など、初めて見る風光明媚な風景を、その車窓から大いに堪能した。
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「高額なツアーだけれど参加する人の8割がリピーターだよ。顧客は世界に300人。超のつくリッチピープルばかりだ。彼らは私たちにさえ任せておけば全て上手くいくということを知っている。面倒を自分でやりたくない人たちばかりだからね」。そうウィンクして話してくれたのは今回のスペシャルなツアーを企画し運営する英国の会社「ホワイトレーベルイベント」(WE)のレイ・ベルムだ。
レイは元レーシングドライバーでル・マン24時間クラス優勝の経験もあり、90年代後半にはマクラーレンF1GTRを駆ってヨーロッパの選手権で勝ちまくった男である。引退後、マクラーレンF1ロードカーのオーナーに呼びかけて「106ドライバーズクラブ」を立ち上げ、今では20億円以上の価値があると言われるF1ロードカーのイベントを数多く開催した実績をもつ。そんな彼が17年に娘のフロッシーとともに立ち上げた富裕層向けのカーイベントツアー企画会社がWEである。クルマと旅をこよなく愛する男にとってそれは最高のビジネスとなった。
今回、日本でのマクラーレンオーナーによるツアーを主催したのはマクラーレン・ビバリーヒルズ(オーガラ・コーチ運営会社)という全米でもナンバー1クラスのマクラーレン・リテーラーだった。主催者のマクラーレン・ビバリーヒルズのパリス・ムランもまたレーシングドライバーでありドライビングをこよなく愛するカーガイだが、サーキット以外のエクスペリエンスを顧客に提供したいと思い、“ジャパンツアー”を企画、そのパートナーにレイを選んだというわけだった。
当初は皆、自分たちの愛車、それもとびきり(=アルティメットシリーズのP1)のマクラーレンを日本へ持ち込む予定だったらしい。ところが新型コロナ禍とロシアウクライナ戦争で世界のロジスティックが不安定になり持ち込みを断念。とはいえ楽しみにしていた日本の道を走ることは諦めることができず、マクラーレン・オートモーティブとリテーラーがデモカーを貸し出しての開催となった次第。筆者もその恩恵に預かって、全一週間のツアーのうち地元京都と三重を中心とした最初の二日間を彼らとともに楽しんだ。モデルはもちろんマクラーレン。それも高性能と実用性を兼ね備えた稀有なスーパーカー、マクラーレンGTだ。
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マクラーレンオーナーたちはとにかく走ることが大好きなようで、初日、アマン京都から隊列を組んで出発したと思いきや、市内を抜けてワインディングロードに差し掛かる頃にはもうすでにめいめいが自分のペースで走りはじめた。ちょうど桜の時期とも重なって、時おり見事な花盛りに出くわすのだが、のんびり眺めることもなく、一目散に駆けていく。否、なかにはもちろん風景の良さそうなところでiPhoneを構えるチームもあったが、走り出すとまた結構なハイペースで目的地を目指す。その繰り返し。
初日は琵琶湖の周りを北からぐるりと巡り、2日目には伊賀越えでアマネム伊勢志摩を目指した。いずれの行程にも高速道路あり、日本の里山風景あり、カントリーロードあり、もちろん狭い田舎町ありで、海外からやってきたVIPカスタマーには物珍しさが先に立ったと思う。特に初日、雨が降ってしまって残念だったね、と発案者のパリスに言ってみたところ、「とんでもない。南カリフォルニアの砂漠からやってきたんだ。雨の方が珍しいし嬉しいよ」。そういえばサウジアラビアからやってきたVIPも屋外ランチで雨が降り出してもテントに入ろうとしなかった。「雨だよ!これ以上の恵みはない。当たらないでどうするの」、らしい。実に面白い。雨で申し訳ないなどと勝手に天に代わって申し訳ない気分になっていた私の方が罰当たりだったというわけだ。
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それにしても二日間を共にしたマクラーレンGTは、見事なまでに私の手足を繋がって、一体感のあるドライビングファンを提供してくれたものだった。もちろんGTにはこれまで何度もドライブした経験がある。私のなかでは最も好印象なマクラーレンの一台で、そう思う理由はミドシップスーパーカーらしい高性能もさることながら、毎日乗ってみたいと思わせる実用性の高さを兼ね備えているからだった。今回も勝手知りたる道に加えて初めて走るようなカントリーロードも多く、中には対向するのもやっとという狭い道もあったけれど、そんなところでも躊躇することなくドライブを続けることができる。車体との一体感がずば抜けてよいことと、他のスーパーカーのようにノーズが低くなく適度に上がっているから段差などをさほど気にしなくていいためだ。これは他の参加者も同じように思ったようで、とにかくその扱いやすさを褒めていた。
とはいえ、GTもマクラーレンのスーパーカーだ。カーボンモノコックボディをもち、よく動くサスペンションシステムと力強いV8ツインターボエンジンが備わっている。ドライブモードを大人しくして走らせても十二分に速く、特に中間加速といって例えば高速道路などで追い越しをかける時の加速とエンジンサウンドには何度乗っても目を見張る。個人的にはシンプルなスタイリングディテールもまた好みの理由でもあった。
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ジャパンツアーの一行は伊勢志摩からフェリーで愛知県に渡り、富士の裾野を走って東京でゴールしたという。今度はぜひ彼らの特別なコレクションで日本の道を走って欲しいものだ。
ちなみに参加者たちの感想でもう一つ、みんなが口を揃えていたのが日本のクルマたちの格好だった。小さくて四角いクルマばかり沢山見た!マクラーレンがとても大きいクルマに見えた!などとややコーフン気味に語っている。なるほど日本の軽自動車はさぞかしもの珍しかったに違いない。