自動車デザインのアイコンといえば、まっさきに思いつくのが米国のジープ。最新のコンセプトモデルのデザインが、とにかく、おもしろい。
ジープが7台ものコンセプトモデルを一堂に集めたのは、2023年4月初頭。1日から9日にかけてユタ州モアブのキャニオンランズ国立公園で開催されたイベントにおいてである。
「イースタージープサファリ」と題されたファンによるイベント。23年で第57回と、じつに根強い人気を誇る。
北米をはじめ世界各地から集まったジープ乗りたちが、キャニオンランズ国立公園のレッドロックと呼ばれる岩場を走り回り、ジープの走破性を楽しむイベントだ。
ジープは伝統的にその機会をとらえて、自社のプロダクトも紹介。このところ、ここでプロダクトの未来を垣間見せられるコンセプトモデルをお披露目するのが恒例となっている。
2023年のコンセプトモデルは、プラグインハイブリッドあり、ピュアEVあり、いっぽうでガソリン車あり、と多彩。なかには6リッター超のV8搭載のモデルまで、というぐあいだ。
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「1978ジープ・チェロキー4×eコンセプト」
米国独特のクルマ文化に”レストモッド”なるものがある。昔のモデルをレストレーション(修復)したうえで、自分なりのモディフィケーション(改造)をほどこして乗るたのしみだ。
ジープのデザイン部がレストモッドしたのは、ワゴニアの2ドアとして作られた70年代のチェロキーSJ。
当時のオリジナルは、ちょっと装飾過多(そこがいい、という意見も)だけれど、レストモッド版はレトロな雰囲気で、かつスタイリッシュ。
ルーフはチョップ(ピラーを切って短く)して、前後長を強調することで、すっと流麗な雰囲気も出ている。
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ただし、ボディはぶ厚い鉄板を使う。そのため開閉では金属どうしがぶつかる、なんだかなつかしい音がする。
私が「わざと?」と尋ねると、「ええそれも狙いなんです」。ジープのデザイナーがうれしそうに説明してくれた。
シャシーは、ラングラー・ルビコン4×e(フォーバイイー)なる2リッタープラグインハイブリッドのものを使う。
そこにさらに岩場でもグリップ力の高い大径タイヤを組み合わせてあるので、外観から想像できないほどよく走る。中身は最新なんだから、そりゃそうだよね。
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これを生産したら売れそうだ。ヘッド・オブ・デザインのマーク・アレン氏に伝えると、否定されてしまった。
「そういうコメントはたくさんいただいていますが、計画はないんです。ジープのヘリティッジを見せるのが目的に手がけたコンセプトなのです」
過去には、イースター・ジープ・サファリで高評価だった要素を量産車に取りこんだこともあるだから、否定されても、それでも期待しようではないか。
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「ジープ・ラングラー・マグニトー3.0」
1960年代の米国のSF映画から出てきたようなスタイル。2シーターで、ドアなし。さらに、巨大な40インチ径のタイヤ。映画だとこれで火星とか走っていそうだ。
フル電動化でジープのもつ能力を拡げていこう。2024年にはピュアEVモデルを発表するというジープが手がけた、BEV(バッテリー駆動のピュアEV)のコンセプトだ。
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マグニトー3.0の前に、22年のマグニトー2.0、さらに21年のマグニトー1.0が存在する。今回は進化形であって、最終形だという。
シャシーは2020年のラングラー・ルビコン2ドア。エンジンをとっぱらって、モーターによる駆動システムを搭載。最大トルクは1220Nm。「2.0」から20パーセント増しになっている。
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ドライブした感想は、パワフル! ダッシュボードのスイッチで、パワーを「285hp」と「650hp」2段階に切り替えられるが、285hpにしたって、かなりのトルク感だ。
おもしろいのは、6段のマニュアルギアボックスの搭載。電気モーターなのでクラッチ操作を間違えてのエンストはない。岩場だと3速いれっぱなしで、クラッチ操作は不要。
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「加速していくときにシフトアップする楽しみを味わってもらいたい」。デザイナーのアレン氏はそう説明してくれた。
「ジープ・スクランブラー392コンセプト」
遊び感覚あふれたエクテリアの造型と、あざやかなグリーンのカラリングをもつキュートなコンセプトモデル。
しかし……外観のイメージとは裏腹に、ドライブトレインは、6.4リッターのV8エンジン。ラングラー・ルビコン392(392キュービックインチ=約6.4リッター)がベースだ。
ラングラー・ルビコン392に対して、スクランブラー392コンセプトの提案は、さらなる悪路走破性と、同時にオープンによる爽快な運転感覚。
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40インチ径のスペシャルタイヤは、こちらもSF的な外観だ。もちろん現実世界では、どんな路面もものともしない走破性を誇る。
エンジンの低回転域からの大きなトルクと、エンジン回転を上げていったときの加速感を味わうと、やっぱり電気自動車とはちがう。
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ジープのファンはこっちをより好みそうなので、ジープとしてもラインナップに残したいモデルという。合成燃料が実用的になれば、エンジン車が生き残る道があるのだけれど。どうなるだろう。
「ジープ・グラディエーター・ルビコン・サイドバーン・コンセプト」
グラディエーターとは、ラングラーのシャシーを使ったピックアップ。そのスタイルをベースにした、デザイン提案がグラディエーター・ルビコン・サイドバーン・コンセプトだ。
ボディ後半部のツヤ消し黒の部分は、カーボンファイバーとスチールで作られている。積載量は大きくカヤックだろうが自転車だろうが積み込める機能が強調されている。
フロントマスクは、やはりラングラー・ワゴニア20周年記念モデルと同じ意匠のもの。そこにグリルガードがつく。ここにも新機能が盛り込まれていて、下にヒンジがあって開くとベンチになる。
グラディエーター・ルビコン・サイドバーン・コンセプトは、3.6リッターV6エンジン搭載。このエンジンがいい。
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トルクの出かたとエンジンの回転マナーと、それに変速機のマッチングがよく、オフロードでも速度コントロールがしやすい。
さらに、短い平坦路では、ぱっとアクセルペダルを踏み込むと、クルマはすかさず加速。意のままに動いてくれる印象で、キモチいいのだ。
「グランドワゴニア・オーバーランド・コンセプト」
オーバーランドとは、林のなかとか野原や海岸などにクルマを駐めて車中泊の旅のこと。それを趣味とするひとは、オーバーランダーとよばれ、いま大きな市場に成長しつつある。
全長5.7メートルの大型SUV、グランドワゴニア(日本未導入)をベースに開発されたオーバーランダー向けのコンセプトがこれ。
最大の特徴は、快適にオフロードを走行できるところ。もうひとつは、RedTail Overland Skyloftというルーフトップテントだ。カーボンファイバー素材で軽量かつ頑丈。エアコンも装備される。
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ルーフトップテントがオーバーランダーに人気なのは、毒虫やヘビやサソリなどの危険から身を守れるため。
オフロードで高い走破性を発揮する大径タイヤを組み合わせることで、「快適にどこまでも走っていける」(アレン氏)ことを提案している。
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このコンセプトモデルが装着しているタイヤは特注であり、かつ大径なので、それを収めるため車体のタイヤハウスを拡大しているそうだ。なのですぐに量産化は出来ないという。
3リッター直列6気筒エンジンはパワフルで、オンロードで乗りたいというのが本音。でも、3500rpmで670Nmごえの最大トルクを発生するだけあって、比較的扱いやすい。
岩場を走るには、ボディ前後のオーバーハングがちょっと長すぎるため、「アプローチアングルとデパーチャーアングルに気をつけて」とジープのひとに言われた。
「ジープ・ラングラー・ルビコン4×eコンセプト」
「このクルマの最大の特徴はピンクの車体色です」。ヘッド・オブ・デザインのマーク・アレン氏はそう言った。
今回のコンセプトモデルのなかでは、もっともベースになったラングラー・ルビコン4×eに近い仕立て。ピンクというより紫に近い、派手めな車体色をのぞいては。
さきに、ピンク色のモデルを、「売れないから」というマーケティング担当者の反対を押し切ったところ、予想外に好調の売れ行きだったそうだ。それに味をしめての第2弾だそう。
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私が気に入っているのは、Bピラーは隠しピラー(黒色で目立たないようにしている)にして、ほかのピラーはとっぱらった開放的なボディのスタイル。
車高調節機能つきエアサスペンション装備で、使い勝手もよさそうだ。ベースになったルビコン4×eの悪路走破性の高さに加えて、このサスペンションと、専用開発のタイヤは大きな武器だ。
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気持ちよく風を浴びながら、岩山を登ったり下ったりして、いい気分になれた。これも生産に移したら売れそうなモデルだ。車体色もいいと思う。日本だとどんな色に見えるだろう。
「ジープ・ラングラー・ルビコン4×eデパーチャー・コンセプト」
やはりラングラー・ルビコン4×eをベースに開発されたコンセプトモデル。
特徴は、ジープをはじめとするステランティス(クライスラーやアルファロメオ等)の車両むけにアフターマーケットでパーツを提供する「モーパー」のデザイナーたちがかかわっていること。
スカスカと表現したくなるボディのスタイルが特徴だ。パイプで構成したチューブドア採用で、ガラスはウインドシールドだけ。これも可倒式。
「サイドバーンコンセプト」と同様、前後のガードがベンチに早変わりする。意外に喜ばれる装備かもしれない。
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かつ、荷室に入れられたスペアタイヤを、荷室を広く使いたいときなど、ほとんどワンタッチで、車外に出せるようマウントの設計が工夫されている。
多くのパーツがアフターマーケットで購入可能と聞き、米国の自動車文化ってホント豊かだな、と感心。改造が大好き、つまりクルマ大好き、なのだ。