異変を察知した「跳躍するつくり手たち」が、イノベイティブに未来への展望を提示する

  • 写真・文:中島良平

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セクションIV「リサーチ&メッセージ:未来を探るつくり手の現在進行形」展示風景より。A-POC ABLE ISSEY MIYAKEの異分野との協業プロジェクト「TYPE-II Tatsuo Miyajima project」より、『TYPE-II 004』(2023年、作家蔵)。現代美術家の宮島達男によるデジタル数字を再構築し、「時を纏う」という発想のもと、京都の伝統的な手捺染技術を応用して1枚のブルゾンを完成させた。

京都市京セラ美術館 新館 東山キューブを会場に、アートやデザインなどの枠組みに縛られず、20名(組)の多様な表現者が参加する企画展『跳躍するつくり手たち:人と自然の未来を見つめるアート、デザイン、テクノロジー』が6月4日まで開催されている。監修を務めるのは、ジャーナリストでキュレーターの川上典李子。21_21 DESIGN SIGHTでアソシエイトディレクターとして展覧会企画にも携わる彼女は、生前の三宅一生とも、ジャンルを超えた最先鋭のつくり手たちが集結した展覧会を実現したいといった趣旨の話を交わしていたといい、その思いがまさに実現したのがこの展示だ。

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セクション01「ダイアローグ:大地との対話からのはじまり」

展示は4つのセクションに分かれている。最初のセクションでは、木や土、石など、地球の自然から生まれた素材との対話を重ねる作家たちの作品が紹介される。

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セクション01展示風景より。画面手前が、漆を用いた石塚源太『感触の表裏 #29』(2023年、作家蔵)。液体である漆という素材が、「胎」と呼ばれる原型に塗られることで形ができあがるこの技法。作家は、漆を塗っては磨いてというプロセスの繰り返しで「皮膜のチューニング」を行い、空間に新たな輪郭の出現を目指した。
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セクション01展示風景より。西中千人(にしなかゆきと)は「呼継(よびつぎ)」と題する作品シリーズを出展。陶芸の金継ぎに着想し、複数のガラス器を一度叩き壊し、それらを再び溶解してつなぎ合わせることで、「生命」「再生」「循環」を表現する。

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セクション02「インサイト:思索から生まれ出るもの」

視点の複数性を念頭に置いたこのセクションでは、例えば、人類の活動が引き起こした環境や気候の変動を新しい地質年代区分として説明した、化学者のパウル・クルッツェンの「アントロポセン(人新世)」という概念を引用する岩崎貴宏や、2011年の東日本大震災をきっかけに、現代の死生観について考えを巡らす髙橋賢悟などの作品が並ぶ。

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セクション02展示風景より。岩崎貴宏が出品したのは、タオルなどをほぐし、鉄塔などとして再構築することで柔らかなランドスケープを生み出した画面左の『Out of Disorder (Layer and Folding)』(2018年、作家像)と、人新世より下の地層にある鉱物資源や化石燃料の強大な破壊力を備えたエネルギーを、清掃用具や壁面のドローイングの組み合わせで示唆する『アントロポセン』(2023年、作家蔵)。
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セクション02展示風景より。目[mé]がアクリル絵具や樹脂を組み合わせて制作した「アクリルガス」のシリーズを展示。地球を外部から長時間露光で撮影した画像をNASAのホームページで見たときの、「地球がまるっきりガス惑星だった」という驚きが制作の発端となったという。
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セクション02展示風景より。井上隆夫『ブロークンチューリップの塔』(2023年、作家蔵) ウイルスに感染し、畑から球根ごと抜かれて処分されることになったチューリップを用いたこの作品。人が排除しようとしても強かに存在し続けるものに惹かれ、そうしたものと現代社会の関係性を追求することへの興味が井上を制作に駆り立てた。
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セクション02展示風景より。髙橋賢悟『Re: pray』(2021年、井口靖浩氏蔵) 生花を型に埋め込んで焼成し、内部の生花が焼失した空間に溶けたアルミニウムを流し込むことで、白く輝く姿に蘇らせる「現物鋳造」の技法を発展させてきた髙橋。明治時代の金工家である鈴木長吉の「十二の鷹」に宿る生命力に感銘を受けて金工を学び、2011年の東日本大震災の被災地に足を運んだ際、絶望的な状況でも祈ることで精神を保った経験に裏付けられている。

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セクション03「ラボラトリー:100年前と100年後をつなぎ、問う」

伝統産業の担い手たちが、未来のものづくりに向けてどのような取り組みをしているか。茶道や武道において、「守破離」という言葉がある。千利休の語を引用したものだといわれているが、まず、師匠から型を教わり、「守る」ことから修行が始まる。型を習得したあとには研究を重ね、既存の型を「破る」ことで次の段階を目指す。やがて、師匠の型から「離れ」、新たな流派の創出へと前進していく。伝統産業の担い手と新たなテクノロジー、表現者との出会いから生まれた、「守破離」の実践を感じさせる作品がこのセクションに展開する。 

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セクション03展示風景より。1688年創業の西陣織の老舗「細尾」12代目で、クリエイティブディレクターの細尾真孝が同社運営のHOSOO GALLERY研究開発プロジェクト第一弾として、2020年に発表した「QUASICRYSTAL—コードによる織物の探求」。その1作品である『Nocturne』(2020年、株式会社細尾蔵)は、数学者の巴山竜来との協働で数学的関数をベースに織組織を構築し、織物として形にしたもの。メディアアーティストの平川紀道もプロジェクトに参加している。
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セクション03展示風景より。八木隆裕(開化堂)+石橋素・柳澤知明/ライゾマティクス+三田真一『Newton’s Lid』(2023年、作家蔵) 1875年、イギリスから日本に輸入されたブリキを用いて「開化堂」の茶筒が誕生した。開けたときの心地よさと高い気密性を実現するために、蓋の自重で自然と閉じられる茶筒は現在も職人の手で作られている。もし100年後、人間が無重力世界を旅することになったら、懐かしむべきは地球の重力になるのでは? そんな発想から、未来のノスタルジックなアイテムとしての茶筒が生まれた。
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セクション03展示風景より。細尾真孝(細尾)、八木隆裕(開化堂)、中川周士(中川木工芸)、松林豊斎(朝日焼)、辻徹(金網つじ)、小菅達之(公長齋小菅)という京都の伝統工芸の後継者6名で結成したクリエイティブユニット「GO ON(ゴオン)」による『100年先にあり修繕工房』(2023年、作家蔵)。世界に誇る工芸都市である京都の100年後を想像し、京都市役所最上階に設置されてあらゆるものの修繕を行う「修繕工房」をインスタレーションとして視覚化した。

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セクション04「リサーチ&メッセージ:未来を探るつくり手の現在進行形」

暮らしを便利に、というデザインの目的も臨界点を超えたように感じられる現在、創造性を「引き出す」ことをデザインの目的と再定義したのは、TAKT PROJECTを率いるデザイナーの吉泉聡。テクノロジーを活用しながらも有機的な運動を感じさせる作品を手がけた。

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セクション04展示風景より。TAKT PROJECT『glow⇄grow: globe』(2023年、作家蔵) 素材は、光を受けることで固まる光硬化樹脂。プログラミングされたLEDの光と組み合わせることで、制御によって固まるプロセスを提示。光の表情が変わり続け、自然と人工的なコントロールの緩やかな融合そのものがデザインされた。
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セクション04展示風景より。TAKT PROJECT『black blank』(2023年、作家蔵) 人間と自然、テクノロジーの関わりを考えるために東北リサーチを行ったTAKT PROJECTは、宮沢賢治が紙とペンを携えて外に出て、自然に与えられて「心象スケッチ」というものを描く創造手法のことを知った。この作品では、鑑賞者の「心象」を喚起することだけを目的に、黒い磁性流体が柱を上っていく不思議な景色を具現化した。

A-POC ABLE ISSEY MIYAKEの宮前義之は、三宅一生から「一枚の布」で完成させる服作りの理念を受け継ぎ、京都の伝統的な技術と宮島達男の「時間」や「生命」の表現をブルゾンに込めた。最後の展示室に展開するのは、ニューヨーク在住のデザイナー、田村奈穂がヴェネツィアのガラス工房WonderGlass社とともに手がけたインスタレーション作品『FLOW[T]』。海と空の境をなす水平線をモチーフに、長く受け継がれてきた吹きガラスの技術によって、ものにあふれる現在に求められるものづくりのあり方をガラスの風景で提示する。

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セクション04展示風景より。A-POC ABLE ISSEY MIYAKEの「TYPE-II Tatsuo Miyajima project」では、写真家の吉田多麻希が写真のコンタクトシートにダンサーの辻本知彦の動きを閉じ込めるヴィジュアル表現を行った。
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セクション04展示風景より。田村奈穂『フロート』(2013-15年) ガラスは生きた素材だ。素材に耳を傾け、火と空気を操り、素材そのものの自然な流れに沿わなければ壊れてしまう。つまり、完全に人間がコントロールできる素材だとはいえない。水平線をモチーフとするインスタレーションは、ガラス工房が拠点とする水の都の景色を想起させる。

ときにアーティストは、カナリアに喩えられてきた。かつて、炭鉱夫が山に入る際、カナリアは一酸化炭素などの致死性のある無色無臭のガスの存在を感知するため(実際には、カナリアは呼吸器の構造と体の小ささからガスの影響を人間よりも早く受けて、目に見えて弱ってしまうためだが)、ガス探知機としてカナリアを連れて行ったことに由来する。アーティストは社会や環境の変化をいち早く感知し、それを表現に込める(=警報を鳴らす)存在として、カナリアに喩えられてきたのだ。

出品作家である「跳躍するつくり手たち」は、たしかにカナリアのように異変を察知して表現に展開しているともいえる。しかしそれは決して、悲観的なメッセージとしての表現ではない。察知したその異変、そこから生まれる未来への予測をきっかけに、新たな創造を行うことで鑑賞者の想像力を喚起し、存分にワクワクさせてくれる。記事で紹介しきれなかった作品も数多い。実際に会場に足を運び、出品作家の跳躍した先の世界をそれぞれに思い描いてほしい。

跳躍するつくり手たち:人と自然の未来を見つめるアート、デザイン、テクノロジー

開催期間:2023年3月9日(木)〜6月4日(日)
開催場所:京都市京セラ美術館 新館 東山キューブ
京都府京都市左京区岡崎円勝寺町124
TEL:03-5245-4111(代表)、050-5541-8600(ハローダイヤル)
開館時間:10時〜18時
※展示室入場は閉館の30分前まで
休館日:月(祝日の場合は開館)
入館料:一般¥1,800
https://kyotocity-kyocera.museum/