「海中100日間生活」フロリダの55歳大学教授、最長記録に挑戦中…高圧下は老化抑制に有効?

  • 文:青葉やまと

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アメリカの55歳の大学教授が、身体を張った挑戦を行っている。100日間の水中生活に挑戦し、高い圧力下で生活した場合、人体にどのような影響が及ぶかを調査する。

壮大な実験に挑んでいるのは、南フロリダ大学のジョセフ・ディトゥーリ教授だ。自ら水深30フィート(約9メートル)の海中に設置された居住区画で過ごし、健康状態のモニタリングを定期的に受ける。

海底では研究業務に勤しみながら、ネットワークに接続し、授業もリモートでこなしている。

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アメリカで唯一、海底の宿泊施設

教授はフロリダ州の先端に浮かぶキー・ラーゴ島に赴き、100日間の水中生活に当たっている。島のジュールス・アンダーシー・ロッジで3ヶ月以上を過ごす。

このロッジはアメリカ唯一の海中ホテルであり、宿泊客は海底に設定されたキャビンに宿泊する。キー・ラーゴ島からスキューバダイビングで潜り、客室にアプローチするというユニークなホテルだ。

このホテルはダイビング目当てで来訪する観光客にも人気だ。部屋に設けられた船窓のような円形窓からは海中が見え、室内にはソファや冷蔵庫など生活用品が一式揃う。

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狭い室内での100日間はいかに?

とはいえ教授の場合は、リゾート気分とはいかないかもしれない。狭い室内での100日間の連泊は、精神的にも一定の影響がありそうだ。

海中を臨む唯一の窓は、あまり遠くまでは見渡せず、やや閉塞感がある。室内も天井高が低く、圧迫感があるようだ。1泊から数泊ならユニークな宿泊体験を楽しめそうだが、数週間にわたる滞在では外の世界が恋しくなるかもしれない。

大学のプレスリリースによると、「心理学者と精神科医が、狭い隔離環境に長期間いることによる精神的な(宇宙旅行にも似た)影響を記録する予定です」という。

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「とことん科学してやる」乗り気の教授

各種の懸念があるものの、教授本人はかなりの乗り気のようだ。教授は100日間生活の初日、Instagramに動画を投稿した。「やあみんな、ディープ・シー博士だ」とニックネームで名乗った教授は、「これから100日間、海中の住居で暮らすことになるよ」と笑顔で報告した。

海の中で暮らしながら、バイオメディカル・エンジニアリング(医用生体工学)の研究や実験に没頭するのだという。室内に持ち込んだ大量の実験用アンプルをカメラに示し、「とことん科学してやる」とフランクな口調で意気込みを語った。

海底で生活する教授は、多忙なスケジュールをこなす。自らの身体をサンプルとしてモニタリングしながら、同時に、同僚が開発した病状判定のAI診断ツールの実証テストなど、医学・生体学分野の各種実験にあたる。

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100日間生活はおまけ、と語る教授

南フロリダ大学によるメディア向け動画配信に出演した教授は、100日間生活自体は大したことではないのだ、と事もなげに語り、研究を重視したいと意気込む様子を見せた。

現時点では2014年、テネシー大学の2人の研究者が樹立した73日間が水中生活の最長記録となっている。

高い圧力下では細胞分裂が促進され、5日に1回のペースで数が倍に増えるなど、健康に良い影響があるとの仮説がある。気圧の高い海底の部屋に長期滞在し、圧力と健康の関係を調べることが教授の目的のひとつだ。

人間の寿命の向上や、老化抑制への知見につながる可能性があると教授は考えている。

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仲間を救いたい気持ちから研究者に

技術解説サイトのインタレスティング・エンジニアリングによると、教授は米海軍で28年間、飽和潜水士として活動していた。

仲間の兵士たちの多くが外傷性脳損傷に苦しんでおり、それを救いたいとの思いが高じて研究に邁進する道を選んだのだという。

高気圧下で脳の血流が増加することがすでによく知られており、脳損傷の治療に利用できるのではないかという仮説が存在する。この効果の有無を調査することも今回の100日間生活でのミッションのひとつだ。

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最初の2週間、ちょっとした不便はあるがほぼ順調

教授は3月16日付のUSAトゥデイ紙に対し、2週間を過ごした所感を語った。現在のところ順調に暮らしており、予定通り6月の地上復帰を計画しているという。

ZOOM経由で同紙の取材に応じた教授は、とくに問題なく暮らしていることを明かした。しかし、高圧下のため火を使った料理ができないことがちょっとした不便になっているという。差し入れを食べて凌いでいるようだ。また、圧力との関係ははっきりと解明されていないが、トイレの回数が顕著に増えたとも語った。

加えて、備え付けの2段ベッドは教授には小さく、身体のこわばりと寝不足に悩まされているようだ。

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孤独が一番の敵

一番辛いのは家族に会えないことで、とくに5月に控える娘の大学卒業式に立ち会えないことを悔しがっている。

「どうしても何かを犠牲にしなければならなかったんだ」とビデオ通話で弁解するディトゥーリ教授だったが、当の娘は、父親が式に来ないことをまったく気にしていなかったようだ。教授は思わず舌打ちしたという。

教授の暮らす水中ホテルは、いまや地元のちょっとした名物となったようだ。近所の子供たちが素潜りで船窓への到達に挑み、教授の姿を一目見ようとしている。

先日、息を止めて潜ってきては15回ほど失敗を繰り返した小さな少女が、ついに窓の外に姿を表した。挑戦すれば必ず達成できるのだと、教授は大いに励まされたようだ。

ディトゥーリ教授の水中生活はまだまだ続きそうだ。

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