直島への旅がより多彩に。全室露天風呂付き旅館の「ろ霞」で、現代アートと和のもてなしに浸る

  • 写真&文:山下美咲
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宿の前庭では名和晃平氏による白いオブジェがゲストを迎える 写真提供:ろ霞

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客室タイプは3種類。どの部屋も寝室からリビングスペース、浴室へと景色がひとつながりとなった開放的な造り 写真提供:ろ霞

瀬戸内海に浮かぶ“アートの島”として、直島がグローバルにその名を轟かせるようになってから久しい。“気になっているけれどまだ行けていない”という初心者にも、“ひととおりは見てまわったことがある”というリピーターにもあつらえ向きな、直島で初の本格旅館「ろ霞(ろか)」のオープンについてはもうご存じだろうか。

アート作品と“暮らす”ことを視野に入れつつ泊まれるほか、島の素朴な自然もしっかりと感じられる、全室スイートの広々とした快適空間。洗練されていながら肩肘を張る必要のない、真に居心地のよい滞在を、直島での過ごし方の候補に加えてみてはいかがだろう。

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未来を感じるアートの刺激と、露天風呂の癒し

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枕元に飾られたアートは部屋ごとに異なる。エクスクルーシブな作品鑑賞の機会を提供 写真提供:ろ霞

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ロビー兼カフェ&バーエリアにもさまざまな作品が展示されている

直島の玄関口である宮浦港から送迎車で約8分。古民家を改修してアートを制作した「家プロジェクト」の作品群で有名な本村地区からほど近い里山の麓に、「ろ霞」はある。館内へ足を踏み入れると、空間と調和しながら新たな気づきを与えてくれるアート作品がそこかしこに。これまでの直島ではなかなかお目にかかれなかった、若手アーティストにスポットライトを当てたキュレーションが新鮮だ。客室に飾られる絵画は、時季によって変化。気に入れば購入希望の抽選に申し込むこともでき、日々の生活へアートを迎えることを視野に入れながら心ゆくまで鑑賞できる。

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広々とした浴室は、ガラス越しに外とも室内ともつながっているかのような錯覚を生む

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岡山県湯郷(ゆのごう)温泉の天然成分を濃縮したクラフト温泉入浴液 写真提供:ろ霞

旅館ならではの快適なステイを追求し、全室に露天風呂がついているのもうれしい。直島には温泉がないが、“少しでも日本古来の温泉気分を味わってもらえるように”と、溶かせば湯が温泉と同様の成分になる入浴剤をアメニティとして採用しているという徹底ぶりだ。

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個を尊ぶ“高級旅館”に、コミュニティスペースとしての役割を付与

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日没とともに囲炉裏で火を炊きはじめると、炭の香ばしい芳香とパチパチという音があたりへ漂う

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各部屋のエントランススペースはガラス張り。人々の生活が自然につながる、日本ならではの“長屋”をイメージしたデザイン

「ろ霞」がことさらに輝いて見えるのは、直島らしい“アート”の要素を持つ以外にも、旅館として意図する“もてなし”へのこだわりを随所に感じさせるためだろう。例えば、ロビーから客室棟へと向かう途中にあるアイコニックな囲炉裏スペース。これは旅人たちが僧侶の焚いた火のまわりへ集うインドの風景に着想を得て、心からのくつろぎの時間を演出するために設けられたそうだ。

従来の日本の旅館では“できるだけほかの宿泊客に会わせず、個を楽しませる”ことがセオリーとされてきた。だがそのスタイルにとらわれることなく、“交流する”、“相対する”といった新たなエレメントを積極的に導入。今まではタブーとされてきた“コミュニティ”としての宿の姿への挑戦を重ねることで、“旅館”というプラットフォームの未来の姿をも模索しているのだ。

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随所に光る郷土愛。昔ながらの風景を残して、愛でる

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庭園は里山の自然を守りつつ、随所に海外由来の植物も配置した斬新な造りとなっている。 写真提供:ろ霞

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各部屋に飾られた生花は日々スタッフが裏の里山から調達している

旅館の建物は平屋建てだが、これは島の持つ従来の景観を損ねないようにという配慮から。この近辺にはもともと棚田が広がっていたといい、そんな昔の文脈を受け継いだ建築設計が採用されている。部屋から見える庭には竹でできたアートが配してあるものの、それ以外の造園にはあえてできるだけ手を入れていない。“素朴な古き良き里山の風景を残しながら、そこに溶け込む旅館でありたい”との思いが反映されているのだという。 

さらに“自分たちのエリアの文化を伝えること”も、「ろ霞」の考える旅館の役割のひとつ。淡路島の土を使った土壁や京都の和紙職人が手がけた壁、広島に本社を構える「マルニ木工」のチェアなど、可能なかぎり瀬戸内地方のエッセンスを取り入れた内外装にも注目を。

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自由なツイストを効かせた和食と、オリジナルの薬膳酒に舌鼓

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ほどよい意外性に満ちた料理の数々は、見た目も味わいも秀逸

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バースペースにはローカルの薬草やハーブを漬けた薬膳酒がずらりと並ぶ 写真提供:ろ霞

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レストランにもアートを展示。モダンな空間とアットホームな接客が心地よくマッチする

館内のレストランで提供される食事においても、もちろん前述の理念が生かされている。「EN」では、地元漁師より仕入れた瀬戸内海の新鮮な魚や地産の野菜、小豆島のハーブなど、瀬戸内の食材が約8割を占めるという。月ごとに内容の変わる会席料理の品書きには、オーセンティックな和食を基本に西洋風の食材や調理法を自由なマインドで取り入れた料理が並び、外国人客も無理せず楽しめそうだ。

ここを訪れたら、オリジナルの薬膳酒もぜひ楽しみたい。「ろ霞」では「薬酒・薬膳酒協会」が監修した薬酒を100種近く常備しており、季節や体調に合わせたカクテルをオーダーできる。 

直島で楽しめるアートにさらなる振れ幅を与えつつ、その“場”ならではのもてなしの数々を創出し、心からのリラックスを提供する。「ろ霞」が選択肢に加わることによって、直島への旅の可能性がより厚みを増しそうだ。

ろ霞

香川県香川郡直島町1234
https://roka.voyage
https://www.instagram.com/rokanaoshima/