1971年にテレビ放送が開始された『仮面ライダー』。東映がテレビ局から制作依頼された子ども向け番組は、爆発的人気を得て、50年以上続くシリーズとなる。人気ヒーローへと変身したその舞台裏とは? 現在発売中のPen最新号『シン・仮面ライダー徹底研究』より抜粋して紹介する。
Pen最新号『シン・仮面ライダー徹底研究』では、映画『シン・仮面ライダー』の公開に合わせ、初期のテレビシリーズや石ノ森章太郎の功績を振り返りながら、庵野秀明監督をはじめとするクリエイターたちのこだわりや、仮面ライダーやサイクロン号などのデザイン、出演者たちの想いを徹底取材!
『シン・仮面ライダー徹底研究』
2023年4月号 ¥950(税込)
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1971年に放送が開始された『仮面ライダー』は、社会現象ともいえるブームを巻き起こし、現在も人気の等身大ヒーローものを一気に定着させた怪物番組であった。本作がスタートした70年代初頭を映像文化的に見れば、映画時代からテレビ時代へと移り変わった黎明期といえる。
そんな時期、土曜日の19時台後半の放送時間帯で苦戦していた毎日放送が、東映に対して子ども向け番組の制作を提案してきた。71年当時は、ピー・プロダクションの特撮ヒーロー番組『スペクトルマン』や円谷プロダクションの『帰ってきたウルトラマン』が人気で、第2次怪獣ブームの兆しが見え始めていた頃だ。また『タイガーマスク』や『巨人の星』など、泥臭いスポ根ジャンルも大人気だったので、その依頼は的を射たものであったのだろう。
そこで東映テレビ部プロデューサーの平山亨、企画プランナーで石ノ森章太郎のマネジャーでもあった加藤昇らがつくり上げた検討用企画が、体育教師・九条剛がヒーローになる『マスクマンK』だ。かつて人気を博した『月光仮面』や当時人気絶頂の『タイガーマスク』の要素を取り入れた「仮面ヒーロー」「変身もの」の企画であった。しかしその企画は実現せず、次に起案されたのが『仮面天使(マスクエンジェル)』。東映のヒット番組『柔道一直線』を手がけていた脚本家の市川森一と上原正三が招聘され、メインライターとなる伊上勝とともに基本設定をつくりあげる。この時、本郷猛の名や、恩師・緑川博士殺害の容疑、高圧電流を浴びて超人となるSF的設定が生まれた。
その後、毎日放送の編成局次長の廣瀬隆一の依頼で、主人公が「オートバイに乗る」設定が加わる。こうして生まれた『十字仮面(クロスファイヤー)』から、石ノ森が作劇にも本格的に参入。タイトルも『十字仮面 仮面ライダー』、そして『仮面ライダー』へと改められるのだった。
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ところが当時、東映は70年安保の影響を受けて泥沼化した組合問題で、番組制作が思うように進まなくなっていた。このため制作陣は労組の目を逃れるため、神奈川県川崎市郊外に生田スタジオを発足させ、東映京都撮影所から内田有作(映画監督・内田吐夢の次男)を招いて現場の統括を任せた。幸運なことに、斜陽を迎えていた映画界からもベテランの監督たちがこぞって参加することが決まったのである。
同時期に脚本の市川と上原が、古巣の円谷プロの『帰ってきたウルトラマン』に参加するために降板。この時点で最終的な『仮面ライダー』のスタッフや制作体制が固まっていった。
仮面ライダーは光線技もなければ、巨大化もしないヒーローだ。しかし、それらを補って余りあるのが、激しい殺陣やバイクアクション、怪人たちの不気味さだった。殺陣を担当したのは、まだ活動をスタートさせたばかりの大野剣友会やJAC(ジャパンアクションクラブ)、後に多くの東映特撮作品を担当するカースタントの室町レーシングという陣容だった。
そして番組のキーポイント、仮面ライダーや怪人の造形は、東宝の『ゴジラ』時代から特殊造形に携わってきた老舗エキスプロダクションが担当。第3話のさそり男の造形用デザインをエキスプロの三上陸男が、第4話のサラセニアン以降の怪人造形用デザインは、事実上の美術監督であった高橋章が手がけることになった。
こうしてプレハブ造りのバラックだった生田スタジオという梁山泊に集結した面々は、低予算ながらそれぞれの仕事でプロフェッショナルな実力を発揮。同時に玩具メーカーや菓子メーカーとの連携も強められ、児童雑誌では番組紹介記事だけでなく、石ノ森の「原作漫画」の掲載も決定。そして71年4月に放送開始した『仮面ライダー』は、ダイナミックなアクションの演出が好評を博し、関西地区では20・8%の高視聴率をマークしたのである。
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ところが青天の霹靂ともいうべきアクシデントが起こる。第9、10話の撮影中、主人公役の藤岡弘がオートバイで転倒し、全治6カ月の重傷を負ってしまったのだ。急遽、開かれた会議で出たのは、主人公を殺して別の主人公が登場する案、主演俳優の交代案などだった。だが結果的に採用されたのは、1号本郷猛が敵を追ってヨーロッパに転戦、日本を2号一文字隼人(佐々木剛)が守るという設定だった。雰囲気も明るい物語に転換され、変身ポーズが生まれたのも、この時である。
やがて72年元旦に1号が復帰、4月にリニューアルされて新1号として再登板すると、番組人気はさらに高まった。
怪我の功名ではないが、一連の主役交代劇で下した制作者の判断は大正解で、後のダブルライダーの登場につながるシリーズ化を後押し。73年2月、最終回を迎えた『仮面ライダー』は幕を閉じるが、人気の勢いは止まらず、続編『仮面ライダーV3』が制作されるのである。
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