【コラム】悪の組織「ショッカー」が象徴するものとは…? 当時の時代背景から考察

  • 文:坂口将史 (マンガ・特撮研究者)
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「悪の組織」の代名詞と言えるショッカー。CMなどでパロディされることもしばしばだが、『仮面ライダー』ではどのような存在として描かれていたのだろうか。マンガ・特撮研究者の坂口将史が解説する。

Pen最新号『シン・仮面ライダー徹底研究』では、映画『シン・仮面ライダー』の公開に合わせ、初期のテレビシリーズや石ノ森章太郎の功績を振り返りながら、庵野秀明監督をはじめとするクリエイターたちのこだわりや、仮面ライダーやサイクロン号などのデザイン、出演者たちの想いを徹底取材!

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仮面ライダー最大の宿敵、秘密結社ショッカー。『劇場版 仮面ライダーディケイド オールライダー対大ショッカー』(2009年)を筆頭に、ショッカーは数々の仮面ライダーシリーズの作品において複数の悪の組織を束ねる象徴的な名称としても使われており、はたまた現在する企業のCMにおいてパロディ的に扱われる事例まで散見される。その意味で、ショッカーはまさしく「悪の組織」の代名詞と言えるだろう。ではそんなショッカーは、原点である『仮面ライダー』(1971~73年)において、どのような存在として描かれていたのだろうか。

ショッカーの位置付けを明らかにするためにまず、仮面ライダーがなんのために戦っていたのかを確認したい。『仮面ライダー』では第5話よりオープニングの最後にナレーションが挿入されたが、そこでは「仮面ライダーは、人間の自由のために、ショッカーと戦うのだ」というフレーズが語られる。「正義のため」ではなく「人間の自由のため」に戦うというのが仮面ライダーのテーゼなのだ。そんな仮面ライダーと戦う存在であるショッカーは、なによりもまず「人間の自由を脅かす存在」だと言えよう。『仮面ライダー』第1話で改造直後の本郷猛がショッカーの手術台の上で目を覚ました際、開口一番発した言葉が「ここはいったいどこだ? 俺を自由にしろ!」だったことは、その事実を端的に表すものである。

ショッカーの位置付けの検討においては、仮面ライダーがどのような力を用いて戦っているのかにも注目する必要がある。仮面ライダーをデザインした石ノ森章太郎は、そのモチーフであるバッタという要素と、風の力で変身するという設定から、「歪んだ道を歩んでいる文明に警告を与える大自然の使者」の象徴としての位置付けを仮面ライダーに与えた。そしてそのライダーと敵対するショッカーに対しては、自然破壊や人口増加による食糧危機、ストレス増加による精神の荒廃などといった、「歪んだ技術文明」の象徴としての立ち位置が与えられたのだ。

石ノ森が執筆した漫画版において、ショッカーが経営する工場が排煙・廃液を垂れ流し、それに近隣住民が抗議している様子が描写されていることを見ても、同時代的な関心であった公害がショッカーの象徴するものとして特に念頭に置かれていたようである。

こうしたショッカーのもつ象徴性を端的に表す存在が、『仮面ライダー』各話の物語を盛り上げたショッカー怪人たちである。仮面ライダーもショッカー怪人も、同じショッカーのテクノロジーによって動植物と人間を掛け合わされた改造人間であり、両者を隔てているのは脳改造手術の有無、つまり本人の自由意思の存在だけである。ショッカーという悪しきテクノロジーによって自由意思を奪われた怪人たちは、まさしく「歪んだ技術文明」の末路を体現する存在なのだ。そしてその身体が、仮面ライダーと同じ技術でつくられているにもかかわらずモンスター然としたグロテスクな姿であることは、テクノロジーによって破壊された自然や、自由という人間の尊厳を奪われたが故の悲劇性を表していると言えるだろう。

以上のように、ショッカーは人間の自由を奪う、歪んだ技術文明の象徴として描かれてきた。ショッカーは『仮面ライダー』第80話よりゲルショッカーへと改組されるが、そこでは戦闘員たちが3時間ごとにゲルパー薬を投与しなければ死んでしまうという設定が語られている。これは、ショッカーがもつ象徴性、悲劇性を改めて番組内で提示する試みだろう。そして原作者の石ノ森は、自身が監督・脚本を手がけた『仮面ライダー』第84話の最後のナレーションで、そうしたショッカーらが象徴するものが「戦争の恐ろしさと同じ」だと総括したのであった。

だが一方で、こうしたショッカーらの恐ろしさは、怪人としてキャラ化されたことで、子どもたちの間でかつて流行した妖怪のように、恐怖の対象でありつつも、同時に興味や魅力を抱く対象へと昇華されることにもなった。このような意味で、ショッカーのもつ象徴性が怪人を通して子どもたちの心に訴えかけたことが、「仮面ライダー」が現代まで続く大人気シリーズとなった一因と言えるのではないだろうか。

坂口将史(マンガ・特撮研究者)

1991年、大阪府生まれ。日本経済大学経営学部経営学科講師。メディア芸術カレントコンテンツ・コアライター。論文に「成田亨がキャラクターデザインにもたらしたもの」(『藝術研究2017』)など。『ユリイカ2021年10月号 特集:円谷英二』などに寄稿。

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