話題の映画『バビロン』でブラッド・ピットが見せた、完璧なタキシード姿

「大人の名品図鑑」ブラッド・ピット編 #1

80年代末にデビューし、以来第一線で活躍し続ける映画俳優ブラッド・ピット。美しい顔立ち、大人の色気を感じさせるその演技は“最後のハリウッドスター”と称され、プライベートで身に着けるアイテムは日本のメディアでも話題になるほど、ファッションにも敏感だ。今回は、そんな彼が数々の作品の中で披露した名品にフォーカスを当てる。

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多くのハリウッドスターの中でもレジェンド級と言えるブラッド・ピットの最新作が、2023年春に公開された『バビロン』だ。

監督は『セッション』（14年）、『ラ・ラ・ランド』（16年）、『ファースト・マン』（18年）などの作品で知られるデイミアン・チャゼル。ブラッド・ピットやマーゴット・ロビーといった豪華俳優陣を迎えてチャゼルが描くのが、1920年代のゴージャス、かつクレージーな映画の都ハリウッドだ。映画づくりに夢を求めてやってきたメキシコ出身のマニー（ディエゴ・カルバ）と新進女優のネリー（マーゴット・ロビー）が、サイレント映画を中心に活躍していた大物俳優ジャックと出会うことで、それぞれの人生が動いていく。

当時のハリウッドの映画づくりの様子を克明に描写、サイレント映画からトーキー、つまり映像と音声が同期した映画に移行していく中で、撮影方法に大きな変化が起きるだけでなく、俳優の生き方にも影響を与える。そんな変革期のハリウッドを見事に描いている。チャゼル監督がオリジナル脚本を手掛け、ハーバード大学で監督とバンドを組み、『セッション』『ラ・ラ・ランド』などの作品でコンビを組んだ作曲家ジャスティン・ハーウィッツが音楽を担当した。本年度のゴールデン・グローブ賞やアカデミー賞でも各賞にノミネートされている。

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ブラッド・ピットが演じた、サイレント時代のスター

この作品でブラッド・ピットが演じたのが、前述のジャック・コンラッド。サイレント映画ですでに頂点を極めた超一流の映画スターだ。「世界で最も高い興行収入を稼ぐ主演男優だ。まさにその瞬間にスターダムを極めた人物のひとりであり、映画スター界という概念が比較的新しかったこの時代に、彼が呼び起こすヒステリックな愛と称賛は、現代の我々には到底考えつかないものだ」とジャックのイメージを監督は話す。

当時のサイレント映画で活躍したジョン・ギルバート、ダグラス・フェアバックス、ルドルフ・ヴァレンティノなどのスターを彷彿とさせる役柄だが、「過去に遡り、勉強した。ギルバート、フェアバンクス、ヴァレンティノの作品をたくさん見たよ。彼らの演技には真の魅力がある」とピット自身も語る。サイレント映画時代は頼りになるのは台詞ではなく、たまに出てくる字幕だけ。「だから演技もそれに合わせたスタイルがあり、いまの僕らのものとは違うんだ」と話す。

アメリカ在住の映画評論家、町山智浩さんは昨年12月に放送されたTBSラジオ『たまむすび』の中で、この作品でのブラッド・ピットの演技を絶賛する。「俺、ヒーローだったのに。なんでそういう役が来ないんだ？—中略—自分はもう第一線のスターではない。それを静かに受け入れていくブラッド・ピットの顔の演技がいいんです！」と指摘し、「アカデミー賞をあげて欲しい」とも専門家の眼で褒めちぎる。ブラピ好き、映画好きならば、必ず見て感激し、そして泣けるエンタテイメント作品に仕上がっている。

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狂乱のパーティで着用したタキシード

そんな彼の最新作で注目したのは、ハリウッドスターらしい彼のフォーマルスタイル。映画の冒頭、ハリウッドの権力者が郊外にもつ邸宅でパーティが開かれる。招待客たちは豪華なファッションを身に纏い、会場にはジャズのダンスナンバーが流れ、本物の象まで持ち込まれる破天荒派なパーティ。そんな中、会場を訪れたのが大物俳優のジャック。クラシックカラーから降りてきた彼は上下ブラックのタキシードスタイルを着こなす。「スティッフ・ブザム」と呼ばれるイカ胸のウィングカラーシャツにブラックのボウタイ（蝶ネクタイ）という組み合わせ。

狂乱のパーティの後、自宅にマニーとともに戻ったジャックはすぐさまタキシードを脱ぎ捨てるが、ソックスが下がることを防ぐソックスガーターまで身に着けた完璧なまでのフォーマルスタイル。この時代、パーティに出席するためにはこのようなタキシードスタイルを着用する必要があったことがよくわかる。ちなみに「タキシード」はアメリカ流の呼び方で、イギリスでは「ディナージャケット」という言い方が一般的。諸説あるが、夜の準礼服であるこの服を「タキシード」と呼ぶようになったのは1886年のこと。アメリカのタバコ王、ピエール・ロリラード4世の子孫グリズウォールド・ロリラードが、ニューヨーク郊外のタキシードパーク創設を祝うパーティで着用した尻尾を切り落とした真紅の燕尾服がルーツと言われている。もちろん「タキシード」はこの公園の名に由来する。

今回紹介するタキシードは今年で創業100周年を迎えるアメリカを代表するブランド、バーニーズ　ニューヨークのオリジナル製品で、モデル名は「マンハッタン」と、同ブランドらしさが香るネーミング。内部の副資材を極力使わず、肩から裾まで最軽量の毛芯を使用した本格的なフルキャンバス仕立て。前からの見た目をすっきりさせるように、肩線を後ろに逃し、ウエストの切り替え線も後ろに倒した設計が秀逸だ。

上襟のつくりは一枚襟で、首に吸い付くようにフィットする。あらゆる職業の人が着用することを想定してロゴを内側に刻んだボタンを備え、日本の古くからあるテーラーが用いる白い裏地を採用する。細部に至るまでこだわりが満載され、要求される品格を備えながら、モダンな感性と職人的なテーラリングが融合されたタキシードだ。また映画でブラッド・ピットが見せているように、タキシードは上着とボトムスだけでなく、シャツ、ボウタイ、サスペンダー、アクセサリーなど、すべてが揃って初めて成立するスタイル。もちろんバーニーズ　ニューヨークではこれらのアイテムも用意されている。映画に登場した時代ほどではないにしても、現在でもパーティが日常的に開かれるアメリカ・ニューヨーク生まれのショップならではの品揃えが光る。

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