暴風雨もクリアするジャケットを都会で!? 新生デサント オルテラインの一着を大解剖

  • 写真・文:一史
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デサント オルテラインの主力商品といえば、そう「水沢ダウン」です。
水沢ダウンをメジャーにした大きな成功要因は、スポーツショップでは売りにくい高価格商品をファッションのセレクトショップに卸したこと。
元は冬季オリンピック選手用に開発された防水ダウンにハイセンスな人たちが飛びついたことで、スタイリッシュなイメージが定着。
デサントのイメージを底上げした事情があります。

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デサントという会社

アシックス、ミズノ、グローブライド(ダイワ)、ゴールドウインらと並ぶ日本のトップスポーツ系メーカーのデサント。
2019年頃には社員の9割が反対したとされる伊藤忠商事による敵対的TOBでビジネスメディアを賑わせてました。
結果、伊藤忠が株式の4割を取得し、現社長、副社長は伊藤忠からやってきた人。
(企画を担当する「デサントジャパン」は別会社)
ビジネス素人のわたしには不明点が多いのですが、売上の半分を韓国に依存し、例の日本製品不買運動の影響もあった旧体制には不安要素が大きかったらしく。
一方で創造的で高品質な商品をつくり、ブランドを存続させることを優先させたいメーカーの論理と、数字の論理とは食い合わせが悪い側面もあるようです。
デサント オルテラインの店を取材したり、メディアで紹介したり、買ってもいるわたしとしては、会社の動きがここ数年気になってました。

揉め事が落ち着いたように見受けられるデサントはこの2023年春に、ブランドのあり方を変更する動きに着手。
テレビ東京のWBS(ワールドビジネスサテライト)でも新製品が取り上げられてましたね。

 

テレ東BIZ 公式youtube デサント スポーツウエア技術活用【WBS】(2023年2月9日)

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新製品のギフティング

このタイミングで付き合いの長いPR代行オフィスより、新生デサント オルテラインの服をギフティングでいただきました。
定価¥60,500(税込)する、本格的な防水シェルジャケットです。
「デサント オルテラインのなにかを送る」という事前告知メール一本のみで届き、封を開けたら想定外の豪華な品。
戸惑ったものの着てロングスパンで評価しようと考え、ありがたく頂戴することにしました。

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東京の街で7年間傘をささなかった男

今回は「都市や日常を含むすべてのフィールドで着用できる、技術を凝縮させたデサント オルテラインをお試しください」との文言つきで送られた新製品の大解剖をお届けします。
ご自慢の新製品のようです。

実はわたしは7年ほど傘を使わず、雨対応の服、シューズ、バッグを探しては身につけ、東京の街をびしょ濡れで闊歩してきた防水アイテム好き。
傘を再び使い出したのはここ2年ほどです。
アウトドアと街では、レインウエアに必要とされる素材、形、ディテールが大きく異なります。
カシミヤのセーターを愛用するような、身につけるものの心地よさを知る大人が選ぶ洒落着としてのレインウエアの基準も異なります。
山から街までの対応がテーマのデサント オルテラインは一体その目的に叶う服なのか?
タウンユースの目線で、よい点、イマイチな点を正直にレポートしていきましょう。
“利便性オタク”なもので神経質な捉え方が多い点はご容赦を!

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マテリアル

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素材は東レ(とうれ)が開発した防水素材の「ダーミザクス(DERMIZAX)」。
嵐に耐える耐水圧20,000mmの3層素材にしては柔らかさもあり、さすが東レ!
透湿性も10,000g/㎡/24hあります。
ただワークマンが独自開発したソフトなストレッチ素材のレインスーツ(上下¥4,900)が耐水圧20,000mm、 透湿度 25,000g/m²/24hと知ると「う〜む……」と思うものの、「ダーミザクスは長時間の使用に耐えて品質も長持ちする」、と信じたい。

生地は柔らかめでも、縫い目からの水の侵入を防ぐシール加工部分は固いです。
服の印象は、ガサガサするハードシェル。
一般的な街着と比べると着心地がいいとは言えないでしょう。
強い耐水性が必要な暴風雨の日はズボンもぐしょ濡れになりますから、街ではロングコートを着るのが必須。
このジャケットは山で活動するためのショート丈です。

もうひとつ、ブランド名が「デサント オルテライン」のはずなのにネームは「デサント」のみ。
プライスが書かれた紙タグの表記も「デサント」。
ブランド名はあくまでも「デサント」で、オルテラインは“ライン”にすぎない?
どうにもよくわからず。

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ファスナー

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素晴らしいのがこのファスナー。
全アパレルメーカーが真似てほしいクオリティ。
カチャカチャ鳴らずバネ性があり、リング状のパーツは固めのゴムで、手袋をしても掴みやすくファスナーを上げやすい。
開閉しにくい防水性のある「止水(しすい)ファスナー」に対応させたパーツです。

一方でわたしが、「街なかで生活するシーンが想定されてない」と感じるのが、フロントを素早く留められるボタンなどのパーツがついていないこと。
会社の近場でランチなんてとき、きっちりとファスナーを留めて外出する必要はありません。
首下だけ軽く留めバタつきを防げれば十分です。
(実体験にもとずく)
ファスナーだと固定させるのに時間が掛かり、一緒にいる同僚を待たせる結果になります。

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アウトポケット

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ポケットは両脇と内側にひとつのシンプルさ。
脇ポケットはミニマルに見せる努力が感じられる美しさです。
ただ内ポケットの数には一言あるのですが、後述します。

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袖のアジャストタブ

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マグネット式で水濡れ状態でも固定しやすく、ベルクロ固有の騒々しいバリッと音もしないアジャストタブ。
これもデサント オルテラインが得意とする素晴らしいパーツ。

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立体的な仕立て

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腕を上げても裾が持ち上がらない、複雑なカッティングによる立体的な仕立ても高級スポーツウエアらしいもの。
アウトドアシーンではストレスフリーな着心地になりそうです。
タウンだと電車のつり革を掴んだり、車の運転をするときなどに良さを実感しそう。

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取り外し式フード

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ときに邪魔になるフードを取り外せる仕様はとてもいいと思います。
着こなしのバリエーションも広がりますし。

ですがフード関連には幾つか疑問あり。
まず、フードにドローコードがついていません。
被ったとき先端が目まで下がるのを防止するためフィット感を調整するパーツは、本格レインウエアに必須の機能。
嵐を防げる生地と縫製のジャケットながら、視界が悪くなる点と風でフードがぶわっと外れる点がクリアされてないんです。

さらに、フードを外した状態で悲しげに露出するファスナーを隠す工夫もほしかったところ。
美しくないですよね、このままだと。

あともうひとつ。
公式販売サイトに載っている商品写真は、フードのタブ先端が袖口と同じマグネット式なのですが、届いた製品はスナップです。
流通している商品は、一体どちらが正解 !?

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内側ポケット

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左胸内側にオープンポケットつき。
美しいうえに使いやすく工夫され、ここも文句なしに素晴らしいです。
たぶん外したフードを収めやすくした形状なのでしょう。

一方で、右胸内側、またはほかにも内ポケットがほしかったところ。
雨のびしょ濡れ状態でアウトポケットにアクセスすると手が濡れ、収納したモノも濡れてしまいます。
乾いたまま取り出すのは至難の業。
街中で着るレインアウターには、水濡れで誤動作を起こすスマホ、革財布、ワイヤレスイヤホンなどを収納する内ポケットが重要なんです。
でもこのジャケットはフードを収めると内ポケットが実質ゼロになります。
(視界が狭く外の音が聞こえづらいフードは人混みの多い街歩きでは危険で、帽子で雨対応することがあります)
山ならアウターは気候に応じて頻繁に脱ぎ着する「羽織モノ」であり、内側に着たフリースジャケットにモノを収納するのでしょう。
タウンユースではアウトドアと異なる機能があるものです。

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総評

ビジネスシーンでも着やすい、どんな服にも合うシンプルなジャケット。
派手さのない本格防水アウターを望む人にはちょうどよさそうです。
フード周りや内ポケットなどは、ほぼ使わない人、わたしほど神経質でない人なら問題になりませんし。
さらに、いわゆるクオリティには一切の難なし。
(雨天での長期テストはしていませんが)

その一方で「これでもか!」と機能美が追求されたかつてのデサント オルテラインの姿が薄かったのは私的に残念な点。
他ブランドと見分けがつかないほどニュートラルな製品なのは、歓迎する人もいるでしょう。
ただわたしは、雨が滴り落ちる導線を促すテープを服の外側に張り巡らせ、“機能するグラフィック”を得意とした唯一無二なデサント オルテラインが好きでしたから。
街対応がイマイチなのはかつての同ブランドも同様でしたが、内部に収納できるスタイリッシュなフードや、手の甲を覆う斜めカットの袖口といった「ギミックマニア」涙モノの服でした。
(シンプルな服もありましたが)
世界に誇るニッポンここにあり!って感じの。

ヴェイランス(アークテリクス)、ゴールドウイン、ダイワ、またはヘルノ、ノルウェージャンレイン、マッキントッシュといった高機能ファッション勢と、今後どう差別化していくのでしょうか。
一般層にウケるベーシックに向かうなら、ユニクロ、ワークマン、無印良品だって競合になりそうです。

これまでの凝った服は、サイジングなどをアップデートしつつ継続販売されるようです。
コロナ禍で伸びたとされるアウトドア需要もあり、スポーツ系ブランドに勢いがある時代。
まだ転換途上のデサントの未来も、大いに気になるものです。


All photos&text©KAZUSHI

KAZUSHI instagram
www.instagram.com/kazushikazu/?hl=ja

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【画像】暴風雨もクリアするジャケットを都会で!? 新生デサント オルテラインの一着を大解剖

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マテリアル

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ファスナー

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アウトポケット

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袖のアジャストタブ

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立体的な仕立て

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取り外し式フード

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内側ポケット

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高橋一史

ファッションレポーター/フォトグラファー

明治大学&文化服装学院卒業。文化出版局に新卒入社し、「MRハイファッション」「装苑」の編集者に。退社後はフリーランス。文章書き、写真撮影、スタイリングを行い、ファッション的なモノコトを発信中。
ご相談はkazushi.kazushi.info@gmail.comへ。

高橋一史

ファッションレポーター/フォトグラファー

明治大学&文化服装学院卒業。文化出版局に新卒入社し、「MRハイファッション」「装苑」の編集者に。退社後はフリーランス。文章書き、写真撮影、スタイリングを行い、ファッション的なモノコトを発信中。
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