貯金ゼロ世帯がハマる心のワナにご用心 お金持ちになれない“心理的三重苦”とは?

  • 文:川畑明美
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私たちは毎日のように、何かしらのかたちでお金を使いながら生活している。ところが人間は、お金の使い方を無意識に分類しているのだ。学生時代のことを少し思い出して欲しい。「お年玉でもらった1万円」とアルバイトした「労働の対価の1万円」。どちらのお金を大事に使いたいだろうか? 多くの人は「労働の対価の1万円」を大事に使いたいと感じると思う。


これは心理会計ともいわれていて、お金の入手経路や使用目的ごとにお金の価値や重要度を分類しながら使っているのだ。ノーベル賞を受賞した行動経済学者のリチャード・セイラー氏によって提唱された。家計簿では、収入や支出を項目ごとに分類して管理するが、人間の心の中でも同じような会計基準があるという考え方だ。前述のように、働いて苦労して得たお金は大事に使おうと考えるが、簡単に手に入れたお金は気軽に使ってしまうというのは、心の中で「別のお金」と認識しているのだ。

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お金の心理的な三重苦とは?

例えばカフェでカフェラテを1杯飲む時に「そのラテ代で、将来買えるはずだった何かをあきらめることになっている」なんて考える人は、ほとんどいない。ところが、もしカフェラテを2回我慢したらファストファッションの洋服ならば購入可能だ。カフェラテを飲んでしまったら洋服は買えなくなってしまう。


ところが料金が表示されると財布のヒモも固くなる。人間は、お金が増えることよりも「損をする」ことに痛みを感じるので、電気代やガソリンの使用料金を一目瞭然に表示すると消費が抑制されるのだ。そして、お金持ちになれない人が心理的に持っているのが、お金の三重苦だ。心理的なお金の三重苦とは、次の3つ。


・お金を貯められない

・お金を使えない

・お金を受取れない


この3つの苦を心理的に持っているからお金持ちになれないのだ。

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お金の三重苦その1
お金を貯められない

まずは「お金が貯められない」という心理から解説しよう。そういう方の多くは、自分が何にお金を使っているのか把握できていない。そして次のような言い訳が多い。「今月は、お友達の誕生日にプレゼントをあげたから、いつもと違うんです」という。


実際にお金を使っているにもかかわらず、本当は使うはずでない支出だったから、この支出を費用として認められないのだ。または、自分に対するご褒美やストレス解消するための支出は、予算をオーバーしても「お金を使うしかない」と思い込んでいたりする。そしてお金を使えばいいことがあると思っているのだ。悪いことがあると占いや開運グッズに走る人もそういう傾向がある。

プレゼントするくらい仲の良い友人ならば、そもそも誕生日は把握しているはずだ。それを予算計上していればいいだけだ。そして、お金を使ったストレス発散は実はあまり解消にならない。まずは、十分な睡眠をとって、ゆっくりすることだ。お金に色はついていないのだから、友達のプレゼント代もストレス発散の飲み代も、単純に支出とカウントしよう。

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お金の三重苦その2
お金を使えない


お金を使ってしまう人とは逆に「お金を使えない」という心理を抱えている人もいる。節約をしなければならないという義務感や貯金をいくらしても足りないという不安や焦燥感から「お金を使うのが怖い」という心理だ。


このような人は、幼少期に問題があることが多い。お金に厳しい家庭に育った方は、自分の欲しいものを買ってもらえなかったりすると「お金を使う事=悪いこと」と、考えてしまうのだ。自分の好きを否定されたなどの経験が多い人ほど、「欲しい」という欲求に抑制をかけて成長していく。または、学歴や職業、恋愛など現在の自分に対する不満があった場合も過度な節約をする傾向がある。


それは「理想的でない自分」への不満を払拭してくれるのが「貯蓄額」と思い込んでいるのだ。「こんなにお金を貯められてすごいでしょう」ということが唯一の心のよりどころになっているのだ。大切なのはその認識を正していくことだ。「出費をするのは自分への投資」という考え方も持つこと。


学歴や職業に不満があるのならば、お金を投じて資格試験を受けるといい。恋愛だったら、お金をかけて自分磨きをすることでも自信が持てる。「好きな事ができた」「本当に好きなものを手に入れた」という喜びが「お金を使えない」という心理から脱却できるのだ。

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お金の三重苦その3
お金を受取れない

次に「お金を受け取れない」という心理について解説しよう。お金を受け取れないという方は「お金を得るのが怖い」と思っている、もしくは「お金を受け取るに値しない」という心理がある。こんなことを思ったことはないだろうか? 「お金を請求するのが申し訳ない」と感じてしまうのだ。お金を受け取る時に罪悪感を感じる方は「お金をもらう=奪った」と、感じてしまう。お金を支払うということは、購入したモノやしていただいたサービスの対価だ。奪うものではない。


他にも、収入が少ないことに悩んでいるにもかかわらず転職できない人も同様だ。「お給料は高くないけど、人間関係はいい会社だから……」「今の給料でもなんとか生活できているし」こんなふうに言い訳する人も心理的なブロックがある。そういう人ほど「景気が良くなれば給料も増えるのなぁ」なんてグチを言ったりする。景気は自分でコントロールできないので、「自分で給料を上げる」という行動ができなくなってしまうのだ。でも実際には、お給料は自分でもコントロールできるのだ。同じ仕事でも他の会社では報酬は違ってくるのだから、転職したら収入を増やすことができる。

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貯蓄ゼロ世帯は40〜50代に多い

金融広報中央委員会「家計の金融行動に関する世論調査[二人以上世帯調査](令和3年)各種分類別データ」を見ると金融資産非保有の割合、つまり貯蓄ゼロの割合をみると30歳代は22.7%だが、40歳代は24.8%、50歳代は23.2%となっていて、30歳代よりも40~50歳代のほうが貯蓄ゼロの割合が高い。


なぜ40から50代の方の貯蓄が少ないのか? その理由のひとつは、子どもの教育費だ。年齢的に考えると、子どもが大学生になっている頃だから、子どもの教育費の負担が多く貯蓄が少なくなっていることが上げられる。もうひとつは、現在40歳から50歳前半の方は、「就職氷河期世代」だということ。この世代は、正社員で就職するのが難しかった。その上お金の三重苦があったら、人生を楽しめない。心理が変わると、お金を増やすのは楽になる。心理を変えるには、行動を変えることだ。それぞれのお金の三重苦を外す行動を実践して欲しい。

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【執筆者】
川畑明美●ファイナンシャルプランナー 「私立中学に行きたいと」子どもに言われてから、お金に向き合い赤字家計からたった6年で2000万円を貯蓄した経験をもとに家計管理と資産運用を教えている。HP:https://www.akemikawabata.com/