ダッフルバッグの名前の由来とは? ゴールドラッシュ時代から名品を作り続けるフィルソン

  • 文:小暮昌弘(LOST & FOUND)
  • 写真:宇田川 淳
  • スタイリング:井藤成一

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「48-HOUR TIN CLOTH DUFFLE BAG」というモデル。素材はオイル仕上げの「ティンクロス」を採用、雨風にも強い。外側にファスナー付きのポケットが2つ、中にはスマートフォンやデジタルケーブル、ペンなどが収納できるミニポケットまで装備する。グリップ付きのハンドルは肩に掛けて持ち運べる長さで、取り外しも可能だ。トロリーケースに掛けられるストラップも付いているので、長期の旅行のサブバッグにも適している。34.5リットル。H29×W48×D18cm。¥101,200/フィルソン

「大人の名品図鑑」アウトドアバッグ編 #5

普段づかいや旅行用のバッグとしてアウトドアスポーツに出自を持つもの、あるいはアウトドアバッグで使われる素材やディテールを備えたものを使う人が圧倒的に多い。これらのバッグは機能重視で使いやすく、丈夫で長持ちする。加えて個性やファッション性まで備えたものが多い。今回はそんなアウトドアバッグ、アウトドアテイストでつくられたバッグの名品を集めてみた。

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アメリカ・ワシントン州シアトルで19世紀に設立された、アウトドアブランドのフィルソン(FILSON)。アメリカのアウトドアブランドの中でも老舗的存在だ。同ブランドのウェブサイトによれば、創業者クリントン・C・ウィルソンはネブラスカ州で農業を営んだ後、鉄道の車掌としてアメリカ各地を放浪、90年代に入るとシアトルに住むようになったと書かれている。

当時、シアトルの北に位置するカナダ・ユーコン準州クロンダイク地方で金鉱が発見され、一攫千金を狙うハンターたち(アメリカでは彼らをフォーティ・ナイナーズと呼ぶ)が大挙してシアトルに集まってきた。シアトルはゴールドラッシュに沸くアラスカやカナダなどに向かう、玄関口だったからだ。金鉱までの広大で過酷な自然を相手に移動するためには、丈夫で屈強な服が必要だと考えたクリントンは自分で服を製作。港で売り始めたところ、すぐに評判を集め売り切れてしまった。そこで彼は1897年に自分の名前を冠した「C.C.FILSON PIONEER ALASAKA CLOTHING AND BLANKET MANUFACTURES」を設立、本格的なものづくりに乗り出す。これが老舗フィルソンの始まりだ。

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「どうせもつなら最上のものを」

1914年に発行されたカタログでクリントンはこう述べている。

「顧客の皆様へ:もし北へ向かうならば、当店の衣類を購入するべきです。北にいた数百にも及ぶ人たちの経験から、その地域で着るための最適な衣類に対する知識があるからです。品質が極めて重要であると知っており、素材は最高のものを使用しています」

例えば同ブランドの代表作「マッキノーウール クルーザージャケット」に使われているのは、100%バージンウール。スチームをかけて圧縮されたウール地は風を通さず、撥水性を備え、丈夫だ。厳しい環境での仕事を余儀なくされる、金鉱掘り師に愛用された名品。フィルソンにとって、自分たちがつくる服はおしゃれのためのものではなく、生き延びるための実用品だ。『命を救った道具たち』(アスペクト)を書いた探検家で著述家の高橋大輔は、氷点下30度のサハリン島で身体を包んでくれたフィルソンの「パッカードコート」を“命の恩人”と呼ぶ。これは24オンスのマッキノーウールを使ったモデルだ。

「どうせもつなら最上のものを」。これも創業者のクリントンが遺した言葉だ。ウールにおいては原毛を刈り取ってから製品として仕上がるまでに2年以上の歳月をかけるなど、品質重視の姿勢はいまも変わらない。多くのアイテムがハンターや林業従事者だけでなく、森林警備隊やアメリカ空軍や陸軍スタッフの一部にも愛用されている理由は、こうした姿勢にあるのではないだろうか。

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独自素材のワックスを施したダッフルバッグ

今回紹介するラゲッジ&バッグラインは、フィルソンの歴史の中でも比較的新しく登場したものだ。1991年に機内持ち込み可能な手荷物用に導入されたコレクションだが、素材からデザインに至るまでフィルソンそのもの。最初にデザインされたのはショルダータイプの「FIELD BAG」や手持ち式の「BRIEFCASE」、数年後にはトートタイプやガンケースなども加わり、今回フォーカスしたダッフルバッグもこの時期にコレクションに加わったものと聞く。

1987年に発行された『MEN’S CLUB BOOKS 14 男のバッグ』(婦人画報社)によれば、「ダッフルバッグ」のダッフルは米語でキャンプ用具一式という意味と書く。「ダッフルバッグはキャンプ用品、あるいはアメリカン・フットボールなどの用具が一式全部入ってしまうような手提げバッグのこと」と解説されている。軍隊用にも使われることが多く、円柱状で取手が付いたダッフルバッグを持って軍用機に乗り込むシーンを映画などでよく目にする。

フィルソンは容量や目的に合わせていくつかのダッフルバッグを揃えているが、今回特にスポットを当てたのが「48-HOUR TIN CLOTH DUFFLE BAG 」と呼ばれるモデル。名前の通り、48時間=2日間程度の旅行に最適なようにデザインされている。素材に使われているのは、オイル仕上げの「ティンクロス」。この素材はティン=錫が頑丈さの代名詞だったころに命名された素材だ。上質なコットンだけを丹念に織り込むことで耐久性をアップし、その上にワックスを施して撥水・防風性を高めたフィルソンの独自素材。ハンドルなどに使われているのは、アメリカで最古にして最上のタンナーとして知られる「Wickett & Craig」社で鞣されたブライドルレザーだ。威風堂々とした佇まいにフィルソンの確かな歴史を感じる。

ダッフルバッグではないが、フィルソンのバッグが登場する映画がある。2014年に製作された『ヤング・アダルト・ニューヨーク』だ。監督と脚本はノア・バームバックで、主演をベン・スティーラーが務める。ナオミ・ワッツ、アダム・ドライバー、アマンダ・セイフリッドと共演陣も豪華だ。ニューヨークのブルックリンで暮らすドキュメンタリー映画の監督ジョシュ(ベン・スティーラー)と、彼の周りに集まってくる若い人たちの物語だが、そのジョシュがもっているのがフィルソンのオリーブグリーンのリュックサック。

過酷な自然を相手に考えられたのがフィルソンの製品の大きな特徴と言えるが、ニューヨークの大都会にも違和感なく馴染んでいることがこの作品からもよくわかる。フィルソンは本拠地シアトルだけでなく、ニューヨークにも大きなショップを構えている。筆者も取材やプライベートで何度も訪れたショップだが、朝からニューヨーカーが大勢やってきて、真剣に品定めをしている姿を目にした。最上のものを目指した創業者の姿勢とブランドへの信頼は、フィルソンのバッグや服を普段から使う人たちがいちばん理解しているのだろう。

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質実剛健なものづくりを身上とする、フィルソンらしいシンプルなデザインのロゴ。同ブランドのバッグやラゲージは日本でも愛用者が多い。

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ファスナーは真鍮素材を採用。タブはレザーのストラップ付きで開け閉めがしやすい。

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『ヤング・アダルト・ニューヨーク』でベン・スティーラーが背負っていたのがこのリュックサックで、「RUGGED TWILL RUCKSACK」というモデル。耐久性があり長持ちする特別なワックス処理を施した「ラギットツイル」という素材を採用している。ストラップや開閉口のファスナーのサイドに、ブライドルレザーが使われている。21リットル。H43×W38×D13cm。¥59,400/フィルソン

問い合わせ先/アウターリミッツ TEL:03-5413-6957

https://filson.jp

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