湯に感謝して、湯に浸かる喜びを世界中の人々と分かち合う。そんなコンセプトのもと、放送作家の小山薫堂さんが提唱した「湯道」。映画『湯道』の公開も迫った2月3日、代官山・蔦屋書店にて「湯道展」開催記念イベントが行われた。新日本フィルハーモニー交響楽団による「湯」をテーマにした演奏、トークイベントの詳細をレポートする。
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打楽器で表現したさわやかな鳥の鳴き声と心地よいフルートの音色から始まったエドヴァルド・グリーグの『朝』。演奏している新日本フィルハーモニー交響楽団のメンバーの背景には、小山さん自身が撮影した日本各地の温泉や銭湯の画像があらわれる。観客の誰もが「湯」をイメージした音楽の世界観に一気に引き込まれた。
Pen本誌で連載中の「湯道百選」で撮影された日本各地の温泉や銭湯の写真の数々。その湯と四季を感じる写真からインスピレーションを受けたという選曲は、どれも素晴らしい。たとえば「アートビオトープ那須」の、深い森の中にひっそり佇む温泉に入浴する小山さんの後ろ姿。その写真とともに演奏されたのはピアソラの『タンゴの歴史』だ。軽快な曲調が、観客をメルヘンな森へトリップさせたかのようだった。誰もがその瞬間、小山さんといっしょに森の中のとっておきの温泉を楽しんでいた。
全6曲の演奏後、アンコールには『ビバノン音頭』が演奏された。ピアノ、フルート、チェロ、パーカッションで奏でられたおなじみの曲は、どこまでも洗練されていた。
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演奏により会場がまるでお風呂を満喫したあとのように和んだ中、小山さんと鈴木さんのトークイベントが始まった。『湯道』の試写を観て、お風呂への愛が詰まった映画だと評する鈴木さんに対して、「観るたびに落ち込んでます。もっともっと楽しくしたかった!」と小山さん。会場が沸いた。
トークはまず、小山さんが「湯道」の家元となったきっかけからスタート。小山さんが幼少のころからお風呂が大好きで、銭湯に通っていたエピソードを披露した。なぜ「道」に究めるまでに至ったかというと、そもそもの根本的なきっかけは、なんと小山さんが仕事として関わった2007年に首都高速道路の事故減少を目的とした「東京スマートドライバー」というキャンペーン。首都高速道路で事故が多いのは料金所付近で、誰もが先を急いてしまうために接触事故が起こってしまう。そこで、まずは小山さん自身が首都高の料金所で道を譲るという行為を実践。すると、小山さんにとって次第に首都高が“優しさ発生装置”となったのだという。
「世間はまったく変わっていないのに、視点を変えて自分がどう捉えるかによって、人は変わっていけるものなんだと発見したんです」
このときの体験が「湯道」を始めたことにつながっているという小山さん。自分にとって大好きなお風呂という文化が、多くの人にとっても“優しさ発生装置”になってほしい。「湯道」にはそんな願いが込められているのだ。
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「湯道」に共感して、誰もが日常的に使えるカジュアルなオリジナルお風呂グッズをつくりたいと考えた鈴木さんは、「お風呂に感謝を」をコンセプトに全国各地の生産者を訪れる。まずは洗うための道具に出あうために和歌山県の高野口町へ。
「高野口町は、織りと編みの地場産業で世界的にも知られています。ここでつくったお風呂を洗うためのスポンジと身体を洗うタオルは本当に素晴らしい。とくに和紙を織り込んだタオルは、使い込むほどにびっくりするほど柔らかくなって、身体になじんでくるんです」
濃紺の縁があしらわれたタオルは背中も洗いやすいサイズ感。マイクロファイバーの布を巻いたスポンジは、浴槽や洗面器を傷付けることなく、磨きあげることができ、きっちりと編まれた表面の質感に丁寧な仕事ぶりを感じさせる一品だ。
「僕も思わずスポンジを3個買いました」と小山さん。真っ白な地に濃紺のワンポイントデザインも粋で、誰もが使いやすいのも魅力だ。
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ビームス ジャパン(新宿)では、現在『湯道のススメ』展を開催中だが、鈴木さんがこのコーナーでもっとも気に入っているのが、給湯器メーカーのノーリツに別注してつくってもらったビームスカラーのポップな給湯器(非売品)だ。
「給湯器って家の裏など見えないところにありますが、今回みんなに見せたくなる給湯器をつくってもらいました。こんなにかわいい給湯器だったらみんなに自慢したくなりますよね」と鈴木さん。
小山さんは、「湯道」をひらくに際し、ノーリツの創業者の逸話も知ったのだという。創業者の故太田敏郎氏は、戦後の闇市でノーリツ釜を発見し、「これを日本中に広め、敗戦で沈んでいる国民に幸せになってほしい」と、給湯器の販売に勤しんだ。そんな人知れぬ苦労によって、日本では毎日家庭でお風呂を楽しめるようになったのだそうだ。
「給湯器って、縁の下の力持ち的存在ですよね。給湯器がなければ、家庭で毎日お風呂は楽しめない。じつは国連加盟国196カ国中、蛇⼝をひねって飲めるほど綺麗な⽔が出る国は、日本を含めたったの9カ国なんです。それには、ノーリツのような企業の努力があるんです。「湯道」を広めるとともに、そんなこともみなさんに知ってもらいたいです」
待ち遠しい映画『湯道』の公開は、2023年2月23日に迫っている。
じつは小山さん自身も映画のワンシーンに出演している。もし見つけたら「よっ、家元!」と劇場で叫んでほしいと、照れながら笑いをとる小山さん。
「ネタバレするので詳しくは言えないですが、笑って楽しくなるシーンもあれば、泣けるシーンもあって、観終わったら早く家に帰ってお風呂にはいりたくなりました」という鈴木さん。公開したらぜひ家族でもう一度観に行きたいという鈴木さんに対し、「ぜひ“追い焚き”してください」と小山さん。湯道をもう一度観ることを“追い焚き”と言ってほしいと、最後に会場をドッと沸かせた。
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『湯道のススメ』展:ビームス ジャパン(新宿)
「ビームス ジャパン(新宿)」1階の一角に設けられた『湯道のススメ』展。湯道文化振興会とビームス ジャパンがコラボした湯道入門グッズ5点を販売。日本工芸の魅力を伝える湯道文化振興会公認の「湯道具」も見逃せない。イベント期間中、対象商品を購入すると、先着で<ノーリツ>のメロディ付ミニチュア給湯器リモコンのガシャポンを回せる特典も。給湯器メーカーのノーリツの給湯器をビームズ ジャパン仕様にしたユニークな展示も必見だ。
銭湯セットがまるごと入るメッシュバックは、着替えた衣服や濡れたタオルを持ち帰るのにもちょうどいいサイズ感。さらに、自宅でそのまま洗濯機に入れれば、洗濯ネットとしての役割も果たしてくれる。
コンパクトに折り畳みが出来るプラスチック&シリコン製のソフト湯おけは、会社帰りの銭湯やサウナに大活躍。旅先の温泉にもマイ湯桶を持参して。折り目のつくりがしっかりとした日本製なので、長く使える。
畳縁を利用した、手のひらサイズのコンパクトな小銭入れ。ちょうど1回分の湯銭が入るぐらいの大きさを考えてつくられているのだそう。番台での湯銭の支払いも、こんな小銭入れがあればサッと粋に済ませられる。
浴槽や湯桶をピカピカにしてくれるお掃除用スポンジ。特許を取得した特別な編み方でつくられた超極細毛繊維クロスを使用した生地は、日本の技術を集約したクオリティの高さを実感。お風呂場だけでなく心も清めてくれそうだ。
綿と和紙を織り込んだおふろタオルは、泡立ちがよく、身体の余分な脂質だけをサッと洗い流してくれる。保湿感の残る気持ちいい洗い上がりを実感できるはず。速乾性が高く、使い込むほど柔らかい風合いとなる。
会期:~2023年02月14日(火)
開催場所:ビームス ジャパン(新宿)、ビームス ジャパン 渋谷、ビームス ジャパン 京都
ビームス公式オンラインショップ
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『湯道』展:代官山 蔦屋書店
代官山 蔦屋書店では、「湯道に使う道具」=「湯道具」をテーマにした展示・販売を開催中だ。日常の幸せである「入浴」に気づく装置となるような手帳、書籍、ポスターなどを展開している。上記の湯道文化振興会とビームス ジャパンがコラボした湯道入門グッズの一部も販売中だ。ぜひこの機会に足を運んでみては。
会期:~2023年2月24日(金)
場所:代官山 蔦屋書店3号館 1階 ブックフロア
時間:代官山 蔦屋書店の営業時間に準じる
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26(フロ)人のアーティストが描く「お風呂に飾れる富士山の絵」チャリティ販売:大丸東京店
アートを身近に感じて欲しいという想いで大丸東京店が企画する『ART ART TOKYO』。今回、日常の入浴文化を楽しく、優しさに包んで伝えたいという「湯道」のコンセプトに共感し、26(フロ)人のアーティストが描く「お風呂に飾れる富士山の絵」のチャリティ販売を開催。コラムニストの辛酸なめ子さんをはじめ、若手アーティストが自由な発想で描いた銭湯の原風景・富士山は必見。自宅の家のお風呂でホッとひと息つきながら、アートを楽しむのはいかがだろうか。
会期:2023年2月22日~2月28日(2月25日13時~13時30分「湯道&アートトークセッション」小山薫堂氏×大久保鉄哉氏(八犬堂)を開催)
場所:大丸東京店 1階婦人洋品売場横特設会場
※販売額の一部は若手アーティストを支援する「一般社団法人 JIAN」に寄付される。
湯道のススメ
湯道文化振興会 公式HP:https://yu-do.jp/
映画『湯道』 公式HP:https://yudo-movie.jp/