グラミー賞にノミネートされた日本人、Masa Takumiとは何者なのか?【インタビュー】

  • インタビュー&文 :菅 礼子
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アメリカ東部時間の2月5日(日)に開催される世界最高峰の音楽の祭典「グラミー賞」で、自身の名前でノミネートされた日本人がMasa Takumiだ。今回「最優秀グローバル・ミュージック・アルバム」にノミネートされた「SAKURA」はMasa Takumi名義で昨年9月にリリースされたもので、収録曲の中には和楽器を中心としたサウンドとアメリカ人に馴染みのあるヒップホップのビートを掛け合わせた仕上がりとなっている。

Masa Takumiこと宅見将典は、作曲家、音楽プロデューサーとしてEXILEや西城秀樹など、幅広いアーティストの楽曲を手掛けてきた。2019年には作曲・編曲を務めたDA PUMPの「P.A.R.T.Y. 〜ユニバース・フェスティバル〜」が第61回日本レコード大賞優秀作品賞を受賞するなど、ジャンルに捉われないマルチな音楽活動を展開している。

2011年にもギタリストとして参加したバンドでグラミー賞のレゲエ部門でノミネートされた経験を持つ彼にとって、今回のノミネートは自身の名義ということもあり、特別な思いがあるはずだ。そんなMasaにグラミー賞に懸ける想いを聞いた。

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アルバム「SAKURA」でグラミー賞にノミネートされたMasa Takumi。幅広い音楽活動をすることで知られている。

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―音楽家、作曲家、プロデューサーなど、幅広いお仕事をされていますが、音楽に進まれたきっかけなどを教えてください。

小学校4年生の時にブラスバンド部でトランペットを始めたのがきっかけです。下手だったと思うのですが、音楽ってこんなに楽しいんだというのが記憶に残っています。その頃から休み時間に友達と楽器を交換したりして、色々な楽器を試していました。

中学になってバンドを結成し、ドラムを始めました。その当時からその当時からX JAPANのYOSHIKIさんに憧れていたので、自分も作曲を始めようと思って中学の時に初めて作曲をしました。

音楽業界ではもちろん専門分野を極める人も多いのですが、私の場合、ギターで現場に行ったらドラムの人を見て、他の楽器のことを学んでいました。日本人の武器というか、面白いものをピックアップして調整していくことは自分も得意なんだと思います。なので、作る音楽やプロデュースする音楽ジャンルも幅が広いのですが、自分の中では全て線で繋がっていると思っています。EDMであろうと、ハウスであろうと、アイドルの歌であろうと、テーマ性がはっきりしていて歌えるメロディがあることです。

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アメリカの地で挑戦し続けてきたからこそ、生まれた一曲

―「SAKURA」とはどのようなアルバムですか?

面白いことに、もう一人の自分がつくったような感覚で、過程をあまり覚えていないんですよね。作品をつくる時はイマジネーションの世界に入るのでスイッチを入れるのがなかなか大変なのですが、いざ作品づくりに没頭すると、その過程を覚えていないことが多いんです。ですが、今回のSAKURAは8分の6拍子。自分が好きな楽曲はその拍子のものが多くて、例えば松田聖子さんの「SWEET MEMORIES」とか。自分のタイトルソングで8分の6拍子をつくるのは初めてだったのですが、自然と出来ましたね。

和楽器を中心に、アジアの民族楽器とアメリカンサウンドが融合した楽器でもあります。アルバムの中の「YUZU DOLL」は和楽器とトラップのビートをミックスさせていて、アメリカ人がつくる音楽から出ている周波数を意識しました。今の時代のアメリカのトレンドの周波数と和楽器を掛け合わせています。2018年から2020年後半までLAに拠点を置いていましたが、アメリカで音楽活動をしてからアメリカ人(アジア系以外)は日本人とは喉の形も耳の形も違うので、心地いい音も違うんだということに気がついたんです。彼らは心地いい音楽しか聴いてくれないので、アメリカの市場を意識してアルバムをつくりました。

Sakura (studio live) 65th Grammy nominated album feat. Ron Korb & Nadeem Majdalany

実は今回のアルバムをグラミー賞にエントリーする気はなかったんです。創作活動は終わりのない世界でもあって、エネルギーがすごくいる。以前レゲエのバンドでグラミー賞にノミネートされたときはメンバーも有名でしたし、それでは満足できない自分がいたので、過去に4枚の自分名義のアルバムをエントリーしてきました。そのたびにどれだけ自分が大変なことをしていて、いばらの道を歩いて来ているのかを思い知らされました。アメリカ人が競っている席をアジア人の自分が取りにいくことがどれだけ大変かを知っていたので、ノミネートされたことは正直信じられませんでした。

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世界が求める癒やしを桜の花に込めて

―このアルバムにはどんなメッセージが込められていますか?

人種差別の問題、戦争など、最近は悲しい出来事が多すぎる。パンデミックによって終わってしまった人間関係もありました。人々の心の中にある美しさを花にたとえています。僕は日本人だから桜。世界中の人たちが癒やしを求めています。つらいことがあったら僕の曲を聞いて癒やされてほしいと思っています。

人種問題もあるアメリカでアジア人として自分に何ができるのだろうか、ということも考えました。日本の価値観にとらわれて恥ずかしがっている場合ではないとも感じたし、今回のアルバムも、和楽器や桜をテーマにして、僕も着物を着たりして日本の良さもアピールしています。

―世界を舞台にして活躍されていますが、日本人としての強みや足りないと思うことはなんですか?

日本人の謙虚な部分はアメリカ人もリスペクトしていると思いますが、恥ずかしがらずに自分をアピールすることは必要だと思います。僕もアメリカで活動をしていて、だいぶ慣れてきた時に自分がこんな意見をいうようになったんだと驚いたことがあります。謙虚は美徳でもありますが、世界で戦うには自分の意見をしっかり言うことも大切だと思います。

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アメリカを拠点にしていた経緯もあり、世界に挑戦する日本人アーティストとしても有名。

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大切なのは、とにかく続けること

―悩んだり、行き詰まったりした際はどうしていますか?

順風満帆に見えると周りから言っていただくこともあるのですが、つらい時期もたくさんありました。そんな時こそ、自分を褒めてあげるようにしています。モノづくりをしていて落ち込んで自分を責めたら本当にそこでダメになって潰れてしまうと思うんです。つらい時こそ、いい意味で自分を誤魔化して、過去の作品を聞いたり、振り返ったりしながら自分を褒めてあげるようにしています。

一番大事なのは止めないこと。止めたら終わりなので。どうしても自分で自分を褒められなければ、友人や周りの人に褒めてもらってください。今回のノミネートも、この挑戦を止めていたらなかったんです。アメリカで、世界を視野に入れて戦い始めてから、敵が強すぎて本当に過酷な戦いばかりでした。それでも日本人としての誇りをなくさずに頑張って続けてきたから、ようやくここまで辿り着けたんです。

インタビュー・文:菅 礼子

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『Sakura』MASA TAKUMI

■収録楽曲
1.Sakura
2.Katana
3.Shizuku
4.Kaze
5.Yuzu Doll
6.Kotodama
7.Tamashii
8.Inochi