民藝運動家の柳宗悦も訪れた富山県砺波市。民藝・工芸品を通し、土地の文化を堪能できるホテル「楽土庵」で贅沢な旅を

  • 写真:濱田紘輔 文:Pen編集部
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高台から望む散居村の雪景色。この地の暮らしから生まれた、独自の光景だ。

富山県南西部・砺波(となみ)平野には、家々が点在する日本最大級の「散居村」が存在する。小さな森に囲まれているかのような家屋は、2方向に勾配のついた切妻屋根をもつ。さらに西南の卓越風による風雪を避けるため西南に屋敷林が植えられ、玄関が東を向く「アズマ(東)ダチ」と呼ばれる伝統的なつくりである。

高台から望むと、平野そのものがまるで壮大な自然公園のようにも見える。一面が水鏡となる春から雪景色の冬まで、四季折々に美しく映えるこの地特有の風景だ。

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伝統的家屋「アズマダチ」。周囲の屋敷林は「カイニョ」とも呼ばれる。

屋敷林は防風・防雪や家屋の木材や燃料となって循環する役割をもつことはもちろん、多様な生物を育む場でもある。屋敷林の他、張りめぐらされた用水路や大きな水田を有しているため、市街地に比べて地表面の温度を13度近く下げる機能も果たしている。

この景観が生まれたのは、いまから500年ほど前とされる。まさに、人々の暮らしの知恵や風土によりつくられたものだ。かつてこの地を訪れた陶芸家のバーナード・リーチは「世界にも類を見ないこの土地の美しさは、百姓によって生み出されている」と絶賛したという。

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柳宗悦が1948年の夏に訪れ、『美の法門』を書き上げたことで知られる「城端別院 善徳寺」もこの地に立っている。

実は、この富山県南西部は、1940〜55年頃、柳宗悦をはじめ濱田庄司、河井寛次郎、バーナード・リーチなど、当時の民藝運動の中心人物たちが頻繁に出入りしていた土地だった。

そして柳は、厳しくも豊かな環境の中で自然の恵みに感謝しながら生きる人々に出会い、「ここには土徳(どとく)がある」と語ったという。土徳とは、人が自然とともにつくりあげてきた、その土地が醸す品格のようなもの。前述した散居村は、そのひとつの現れである。

しかし、米需要の減少や耕作放棄地の増加、屋敷林やアズマダチ古民家の減少など、景観だけでなく、文化や信仰、コミュニティ自体が近年のライフスタイルの変化によって失われようとしている。

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2022年10月にオープンしたホテル「楽土庵」。泊まれるのは、1日3組限定だ。Photo: Nik van der Giesen

そこで、散居村の保全、ひいてはこの地の文化を継承するために2022年10月にオープンしたのがホテル「楽土庵」だ。富山の土徳に触れることで、旅する人が癒されるだけでなく、地域再生の一端を担うこともできる。

たとえば宿泊料金の一部で屋敷林の整備を行い、その剪定枝を木質バイオマス発電に利用する活動や、屋敷林の落ち葉から腐葉土をつくる活動の支援に充てる。

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「楽土庵」のロビー。4本の隅柱と太い上大黒柱と下大黒柱の6本の柱を用いた、砺波市の伝統的家屋の構造。

土徳は富山特有のものではない。世界各地にその地の土徳があり、土徳が美となって現れた“もの”がある。それらに共通しているのは、人のはからいを超えた「他力美」。

楽土庵では他力美が顕現した家具や工芸・美術品を世界中から集め、設えに用いている。ピエール・ジャンヌレやハンスJ.ウェグナーらの家具、李朝のバンダチや飛騨の調箪笥、ポール・ヘニングセンやジャスパー・モリソンの照明、西アジアのバルーチ族のラグなどのインテリアの中に、芹沢銈介・濱田庄司・ 河井寛次郎・ 棟方志功といった民藝作家から富山の工芸作家、内藤礼など現代美術家まで、数多の工芸やアートが取り入れられ、うまく調和している。

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客室「絹」。やわらかく光を反射する空間は、まるで繭の中にいるような心地だ。

楽土庵は築120年のアズマダチを再生したホテルで、客室は紙、絹、土それぞれの素材を用いた3室のみ。

客室名も素材に因み、「紙」は壁と天井一面に羽多野渉による手漉きの和紙を使用。「絹」は2頭の蚕からつくられる表情豊かな「しけ絹」を壁と天井一面に贅沢に用いた。「土」は調湿機能の高い土壁に、敷地内の土を採取して製作した林友子のコミッションワークを配した。

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「絹」の客室に配された棟方志功(詩は河井寛次郎)の掛け軸。作品が部屋の空気に馴染んでいる。

各客室からは、散居村の美しい風景を眺められ、部屋ごとに異なる作品やインテリアが並んでいる。

近隣を散策する中で、かつての民藝運動家たちの足跡をたどり、高台から散居村を望んだ後にゆっくりと過ごす時間。他力美が顕現したさまざまな家具や工芸・美術品を眺められる、これぞ贅沢な滞在だろう。この地への旅を通して、富山の土徳を思う存分味わってほしい。

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楽土庵に併設するイタリアンレストラン「イルクリマ」。地元の豊かな食材を用いたイタリア料理のスタイルで、富山の土徳を表現する。Photo: Nik van der Giesen

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ホテルには民藝・工芸品を扱うブティックも併設。旅の帰りに寄りたい場所だ。

楽土庵

住所:富山県砺波市野村島645
TEL:0763077-3315
定休日:火(祝日は営業、翌水曜営業)
全3室最大6名
¥33,000〜(税、サービス料込み、1室2名利用時1名料金、朝食付き)
アクセス:JR高儀駅より徒歩約10分、砺波ICよりクルマで約6分
https://www.rakudoan.jp