「バッグは背負うものではなく、着るのだ」。グレゴリーの名作バッグパックに迫る

  • 文:小暮昌弘(LOST & FOUND)
  • 写真:宇田川 淳
  • スタイリング:井藤成一

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アウトドアでの快適さとパフォーマンスを約束する「フリー・フロートA3・サスペンション」を搭載した「バルトロ65」。可動式のオートフィット機能付きのショルダーハーネスとヒップベルトで心地よい着用感を実現。トルソーとヒップベルトのサイズ調節ができるので、それぞれの体験に完璧にフィットする。容量65リットル。重量2.2kg。¥48,400/グレゴリー

「大人の名品図鑑」アウトドアバッグ編 #2

普段づかいや旅行用のバッグとして、アウトドアスポーツに出自を持つもの、あるいはアウトドアバッグで使われる素材やディテールを備えたものを使う人がいま圧倒的に多い。これらのバッグは機能重視で使いやすく、丈夫で長持ちする。加えて個性やファッション性まで備えたものが多い。今回はそんなアウトドアバッグや、アウトドアテイストでつくられたバッグの名品を集めてみた。

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1960年代から70年代にかけてアメリカで注目された「バックパッキング」という旅の仕方がある。アルミニウムのフレームに袋をつけた「バックパック」と呼ばれるバッグを使って、食料や旅の装備をすべて自分で背負って山野を徒歩で旅したり、海外を旅行することをいう。1976年に発行された『バックパッキング入門』(芦沢一洋著 山と渓谷社)によれば「現在のバックパッキングの新しい波が盛り上がってきたのは、1966年ごろからアメリカで、というのが正しい認識だと思います。ベトナム戦争という大きなエポックが、アメリカの人々に大きな精神的影響を与えたことは容易に想像できます」と書かれている。未開の大自然を徒歩で旅行するためには野外活動の専門的な知識や道具、加えて旅に見合った体力が必要だ。ビートジェネレーションやヒッピーなどが提唱した自然回帰の機運がこの旅のブームを後押ししたことは言うまでもない。

そんなバックパッキングをテーマにした映画がアメリカでは何本か製作されているが、今回紹介するのは『私に会うまでの1600キロ』(14年)という作品だ。監督は『ダラス・バイヤーズ・クラブ』などで知られるジャン=マルク・ヴァレ。原作はシェリル・ストレイドが書いた自叙伝『Wild :From Lost to Found on the Pacific Crest Trail』で、実話を元に描かれている。主人公は、『キューティ・ブロンド』(01年)や『ウォーク・ザ・ライン/君につづく道』(05年)で人気を博したリース・ウィザースプーン。この作品は高い評価を受け、主演のリース・ウィザースプーン、彼女の母親を演じたローラ・ダーンが第87回アカデミー賞にノミネートされている。

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映画にも登場する名ブランド・グレゴリー

作品の舞台になったのは1995年のアメリカ。26歳になった主人公のシェリルは、離婚や自分に優しかった母の死などで自暴自棄の生活を送っていた。このままでは残りの人生も台無しだと、一から出直すことを決め、この種の旅には素人だったのにもかかわらず、たったひとり、3ヶ月、1600キロにもわたる「パシフィック・クレスト・トレイル」を歩き通すことを決断する。「パシフィック・クレスト・トレイル」とは、アメリカの三大長距離自然歩道のひとつで、バックパッカーたちはアメリカとメキシコの国境からカナダ国境までアメリカ西海岸を南北に縦走する。ほかには「アパラチアン・トレイル」「コンチネンタル・トレイル」などがあるがいずれを選んでも踏破するのは過酷だ。

作品でも極寒の冬山、酷暑の砂漠などで寂しくキャンプする様子が描かれている。食べ物も底をつき、命の危険にさらされることもある。アメリカではバックパッキングがひとときのブームでは終わらずに、90年代に入ってもそのムーブメントが続いていることもわかる作品だ。

この映画で主人公シェリルが背負ったのが、アメリカのアウトドアバッグの名ブランド、グレゴリー(GREGORY)が90年代に製作した「エボリューション」というモデルだ。「バックパック界のロールスロイス」と称されるグレゴリーは、ウェイン・グレゴリーが1977年にアメリカ西海岸のサンディエゴで創業したブランド。ウェインは14歳のとき、ボーイスカウトのプロジェクトの一環で木製のフレームパックを製作、それがとあるアウトドアショップのオーナーの目に留まり、ショップで働くようになった。22歳のときに初めてのバックパック会社を設立、バッグだけでなく、寝袋やテントなどもデザインし、この分野における知見と経験を高めた後、77年に「グレゴリー・マウンテン・プロダクツ」社を設立。

以降、革新的なアイデア、人間工学に基づいたデザイン、クオリティに対するこだわりで、グレゴリーは多くのアウトドアーズマンに支持されるブランドへと成長していった。「バッグは背負うものではなく、着るのだ」。ウェインのこの言葉が彼がデザインするバッグを象徴している。作品に登場した「エボリューション」シリーズは同ブランドの90年代の傑作と言われる名品だが、グレゴリーのバックパックは現在ではさらに進化を遂げている。

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進化を続ける「バルトロ」シリーズ

今回取り上げるのが、登山やバックパッキングを楽しむ人から絶大な人気を誇る「バルトロ」というモデル。ちなみにバルトロとは7000m級の山々がそびえる南アジアのカラコルム山脈。その中心に横たわるのがバルトロ氷河で、これが名前の由来になっていると思われる。この「バルトロ」は、2008年の誕生以来、バージョンアップをしながら長きにわたり愛用されているモデルだ。現在展開されている「バルトロ」シリーズは容量別に、65、75、85PRO、100PROの4タイプ、今回撮影したのは「バルトロ65」だが、それぞれのモデルでトルソーの長さを元にした、S、M、Lの3サイズを展開している。さらにトルソー自体の長さが細かく調節できるため、究極のフィット感が得られるという。

そして「バルトロ」シリーズの誕生以来の最大の特徴はショルダーハーネスの構造だ。ハーネスの付け根にピボット(支点)を備え、ハーネスが自動で動く。これによって背負う人の体型に合わせて自動的に角度が調節され、歩くときには身体の動きに連動してハーネスが動き、最良のバランスを取ってくれる。さらに2018年のモデルチェンジから背面構造が大きくバージョンアップ。外周フレームと3Dメッシュパネルを用いたベンチレーション構造になり、背面の蒸れを軽減すること成功している。自らデザインするバックパックを「着る」と表現した創業者ウェインの理想を体現したようなモデルとして、多くのアウトドアーズマンから信頼を得ている。

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グレゴリー独自のアイデアが満載されたショルダーハーネスと背面のシステム。身体の動きに呼応してくれるだけでなく、快適さを保ってくれる。

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人間工学を元にデザインされた立体的なヒップベルト。パッドも厚く、体を優しくホールドしてくれる。ベルトには小物などが収納できるポケットまで付いている。

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パックのサイドにプリントされた「バルトロ」シリーズのロゴマーク。

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本格的なバックパック以外にもグレゴリーはデイリーユースに便利なバッグをいくつも製作している。中央がブランド創業以来製作されている名品の「デイパック」。伝統のティアドロップの形状、ファスナーを斜めにしたフロントの大型ポケットなど多くの特徴を持つ。右:「トースティーショルダー」重量185g。¥6,600 中:「デイパック」重量645g。¥26,400 左:「ポッシブルポケット」重量195g。¥7,480/すべてグレゴリー

問い合わせ先/サムソナイト・ジャパン TEL:0800-12-36910

https://www.gregory.jp

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