デイパックとリュックサックの違いとは? 『スパイダーマン』にも登場するジャンスポーツからからひも解く

  • 文:小暮昌弘(LOST & FOUND)
  • 写真:宇田川 淳
  • スタイリング:井藤成一
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ブランドのアイコンとして親しまれる「ライトパック(RIGHT PACK)」。1990年の登場以来、シンプルでミニマムなデザインはそのままに機能面の充実を図り、アップデートさせている。現在では収納力抜群のメインコンパートメントに15インチまでのノートパソコンが入るパッド入りのスリーブを装備、サイドポケットにはウォーターボトルや折り畳み傘なども収納できる。容量28リットル、重量650g。H45.5×W33×D14cm。¥12,100/ジャンスポーツ

「大人の名品図鑑」アウトドアバッグ編 #1

普段づかいや旅行用のバッグとして、アウトドアスポーツに出自を持つもの、あるいはアウトドアバッグで使われる素材やディテールを備えたものを使う人がいま圧倒的に多い。これらのバッグは機能重視で使いやすく、丈夫で長持ちする。加えて個性やファッション性まで備えたものが多い。今回はそんなアウトドアバッグや、アウトドアテイストでつくられたバッグの名品を集めてみた。

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アウトドアだけでなく、タウンユースに使われることが多いデイパック。アウトドア専門のメーカーやブランドだけでなく、最近では有名なハイブランドでもラインナップにデイパックが加わっている場合はある。

ではデイパックとはどんなバッグを言うのだろうか。『MEN’S CLUB BOOKS 10 アウトドア・ウエア』(婦人画報社)では「デイパックは名前のとおり、アウトドアで一日(ワン・デイ)の行動に必要な物を収め、背負うように設計されたのが始まりである。したがって、設計の目的は、ハイキング、スキー、アタック(登山における登頂など)、ロック・クライミングなどであるが、いつか自然志向の若者に始まって、学生たちの間で通学や、自転車、バイク乗りなどに使われ、定着した。

その最大の理由は両手が空いて都合が良い、という点であろう」と書かれている。デイパックを英語で表記すると「DAY PACK」、文字通り一日用、日帰り用の荷物や道具を運ぶために設計されたバッグというわけだ。

同種のバッグで「リュックサック」というものがあるが、これは欧州で古くから使われていた背負い袋のこと。「リュックサック(rucksack)」はドイツ語。ruckは「背中、背負う」、sackは「袋」という意味だ。同書には「古くからのリュックサックは、袋の口をひもで締める形式が主流で、更にそれに雨ぶたがつくものが多い」とある。欧州の登山用バッグにもデイパックに近しい容量を持つ「アタックザック」「サブバック」と呼ばれるものがあるが、デイパックはその米国版として考案されたものだろう。

欧州式から米国式へ、デザイン変更の最大のポイントは開閉部を「ひも」から「ファスナー」に変更し、開け閉めを容易にしたことにある。加えて素材に防水加工を施したコーデュラ・ナイロンなどを採用し、耐久性を高めたことも重要だ。初期のデイパックの多くは底部にレザーを使ったものが多いが、これもそうした理由からだろう。

また背負う場合の快適さをより考え、ショルダーストラップにクッション材を採用し、金具を使って長さやフィット調整を容易にしたのもアメリカ人らしい発想に違いない。当初は道具等を仕分けできるように上下2室に分かれ、バッグの上部外側に登はん用のピッケルなどを装備できる通称「ブタ鼻」と呼ばれる革パッチ、底部にそれを固定する「ループ」などが装備されたものが多かったが、それらはデイパックがスポーツクライミングなどによく使われていた証だろう。

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学生から絶大な支持を受けるジャンスポーツのデイパック

「アメリカの若者はなぜ背負うのか?」というタイトルでデイパックの特集を組んだのが、1976年発行の『Made in U.S.A.-2 Scrapbook of America』(読売新聞社)だ。同書にはアメリカで若者たちが“背負う”ということを始めたのはおよそ5〜6年前で、それは軍放出品の「背嚢(はいのう)」からと書かれている。つまり70年代がデイパックの流行のはじまり。アメリカでキャンプ道具などをすべて自分で背負って歩くためのアルミフレームを備えたバックパックを、ディック・ケルティがデザインしたのは1952年。

デイパック出現の正確な歴史は判明していないが、バックパックと同様の発想で機能性を重視して50年代から60年代にかけてこのバッグがデザインされたのだろう。そしてベトナム戦争による放出品などで“背負う”ことの便利を味わった若者たちを中心に本来は登山などのスポーツ用だったデイパックが街中や学校などでデイリーユースに使われるようになったと考えられる。

今回紹介するジャンスポーツ(JANSPORT)はそんなアメリカのアウトドアスポーツの歴史を物語るようなブランドだ。ジャンスポーツはアウトドア愛好家だったスキップ、彼のいとこでエンジニアだったマレー、それにマレーのガールフレンドのジャンの3人が1967年、ワシントン州シアトルで創業したブランドだ。

あるときマレーが世界初となるバックパック用のアジャスタブルアルミフレームを開発、そのフレームがアルミニウム製品の世界的なメーカーであるアメリカのアルコア社のデザイン賞を獲得した。そして、そのフレームに合う袋部分=バックパックを縫製が得意だったジャンに依頼し、「このビジネスが成功したら、君の名前を会社名につけるよ」とプロポーズした。つまり創業者の恋人(彼女も創業者のひとりだが)の名前がブランド名の由来だ。

そんな本格派のバッグがある日、ワシントン大学の学生たちの目に留まる。大切な教科書を雨から守るために同ブランドのハイキング用につくられたバッグを使い始め、多くの学生たちがそれに追随した。いまではジャンスポーツのデイパックはアメリカの学生必携のバッグとまで呼ばれるようになった。

今回取り上げた「ライトパック」の発売は1990年。いまでも発売当時と変わらないオールドスクール的なルックスで販売されている。素材に用いられたのは屈強なコーデュラ・ナイロンとボトムのレザー。普段づかいからアウトドアスポーツ、旅行まで、どんなシーンもカバーしてくれる高い実用性を備え、いまや世界中で愛用されている名品バッグだ。

この「ライトパック」が登場する映画がある。トム・ホランドが3代目スパイダーマン/ピーター・パーカーを演じた『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』(21年)だ。正体がバレてしまったピーターが騒動の中、ミッドタウン高校に通うときに背負っているのが、深いグリーンの「ライトパック」。パーカーは教科書だけでなく、スパイダーマンに変身するときに着るあのスーツもこのバッグに入れている。アメリカではこの作品以外にも多くの作品でジャンスポーツのデイパックが登場するが、最近話題を集めたのは、80年代のアメリカを舞台にしたNetflixのドラマシリーズ『ストレンジャー・シングス 未知の世界』だろう。コラボレーションしたスペシャルなモデルまで販売され、ジャンスポーツファン、ドラマのファン、両サイドから熱い視線を集めている。

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創業時と変わらないデザインのジャンスポーツのロゴマーク。「JAN」は創業メンバーのひとり、ジャンの名前に由来する。

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背面パネルには背中に負担がかかりにくいクッション入り。ショルダーストラップも肩の負担がかかりにくいパッド入りで、ストラップは片手で簡単に長さの調節ができる。

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カラーバリエーションが豊富に揃っているのも「ライトパック」の魅力のひとつ。好みのカラーが発見できるだろう。右が『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』でパーカーが背負っていたグリーン。各¥12,100/ジャンスポーツ

問い合わせ先/ユニグローブ TEL:03-5422-7544

https://jansport.co.jp

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