『クリスチャン・ディオール、夢のクチュリエ』で体感する、無限の創造性

  • 写真・文:中島良平

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地下2階から吹き抜けのアトリウムを見上げると、「ディオールの夜会」と題された展示空間に35点のドレスが並ぶ。光の演出も印象的で、没入感に満ちた展示体験が実現する。

パリ装飾芸術美術館での成功に続き、ロンドンや上海、ニューヨーク、ドーハなど世界各地を巡回してきた『クリスチャン・ディオール、夢のクチュリエ』展がついに日本で始まった。2023年5月28日まで開催される本展は、ディオールと日本との深いつながりに焦点を当て、またニューヨークを拠点とするOMAパートナーの建築家・重松象平が新たにデザインした圧巻の展示空間のもとに展開する。

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開催前に実施された記者会見の様子。左より、進行役を務める丹羽晴美 (東京都現代美術館 事業企画課長)、ピエトロ・ベッカーリ (クリスチャン ディオール クチュール 会長兼CEO)、マリア・グラツィア・キウリ (ディオール ウィメンズ クリエイティブ ディレクター)、フロランス・ミュラー(本展キュレーター)、重松象平 (建築家)、高木由利子 (写真家)、小高日香理 (東京都現代美術館 学芸員)。背景のバナーは、高木由利子が本展のために撮り下ろした展覧会のメインビジュアル。

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手描きスケッチにも宿る「洗練」。

1階の展示室、まず登場するのが1947年にオートクチュールコレクションとして発表された「Bar」ジャケットだ。クリスチャン・ディオール初のオートクチュールコレクションであり、締まったウエストとヒップの丸みを表現したライン、開いた胸元が、女性の美しさそのものをかたちにした「ニュールック」として大きな反響を呼んだ。現在でもメゾンのアイコンのような位置付けとなっており、現クリエイティブ ディレクターのマリア・グラツィア・キウリはシーズンごとのテーマに沿った「Bar」を継続的に発表している。展示室の奥には、ルイ16世様式の「メダリオンチェア」を吉岡徳仁が再解釈し、透明の樹脂製プレートを積層させて手がけた「Medallion of Light」とともに「ニュールック」を体現したデザインがひな壇に並ぶ。

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左の山笠のようなハットとコーディネートされたのが「BAR」ジャケット。
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1947年春夏オートクチュールで発表された「Reynold's(レイノルズ)」ドレスのために、クリスチャン・ディオールが手がけたスケッチも同じ展示室に並ぶ。
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年代ごとの「ニュールック」が吉岡徳仁のデザインによる「Medallion of Light」とともに並ぶ。

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メゾンと日本の関係にもフォーカス。

次の展示室に移ると、「ディオールと日本」に焦点が当てられている。1953年、ディオールは鐘紡および大丸と契約を結び、ディオールの型紙を用いて服を仕立てる権利を両社に提供した。日本に進出した西洋のファッションブランド第一号となったディオールは、同年にファッションショーを帝国ホテルで開催。クリスチャン・ディオール本人はもちろんのこと、以後のクリエイティブディレクターたちも日本の芸術や文化に影響を受けたデザインを発表するなど、メゾンと日本は強い関係を結んできた。パリ展から展示を手がけてきたキュレーターのフロランス・ミュラーは、展覧会のストーリーを紡ぐために日本との関係を綿密にリサーチし、ディオールの自宅には歌麿の浮世絵があったこともわかったように、日本文化と深く触れ合ってきたことを展示で表現した。

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「ディオールと日本」の展示風景より。和紙を大胆に用いた空間が、提灯を想起させる淡い光で演出されている。
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ジョン・ガリアーノが2007年春夏オートクチュールコレクションで発表した「SUZURKA-SAN(スズルカ-サン)」は、刺繍とペイントが入ったリネンコート。北斎をはじめ、ガリアーノも日本のモチーフを多く採用した。
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ディオールの急逝後、1958年夏に初のコレクションを発表したイヴ・サンローランの展示。身体の動きを自由にするためにゆったりとした裁断で仕上げたドレスや、路上にインスパイアされた「ビート族ルック」を発表するなど、自由を求めた大胆な表現が話題となった。

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クリスチャン・ディオールが手がけたドレス、スーツの数々。「現代のファッションで何よりも大事なのは、全体のラインだ。靴から帽子に至るまで、全身の装いがシルエットを作る」と回想録に綴ったディオールは、トータルルックの第一人者となった。

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多彩なセノグラフィも大きな見どころ。

1957年にクリスチャン・ディオールが心臓発作で急逝したのち、イヴ・サンローラン、マルク・ボアン、ジャンフランコ・フェレ、ジョン・ガリアーノ、ラフ・シモンズ、現職のマリア・グラツィア・キウリへとメゾンのディレクションが受け継がれていく。7名それぞれのコレクションを区分けし、日本版のカタログ撮影を担当した高木由利子による写真が背景幕となって空間を印象付ける展示を抜けると、1階と地下2階を結ぶ吹き抜けのアトリウムに圧巻の展示が広がる。テーマは「ディオールの夜会」。過去の展覧会をリサーチし、空間全体を最大限に活用するために1階と地下2階からそれぞれ異なるパースペクティブに圧倒される空間デザインを実現。舞台美術から転じて展示デザインにも使用されるようになった「セノグラフィ(scenography)」の語にふさわしい空間表現が実現した。

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高木由利子による写真作品。シャッタースピード8秒というスローシャッターで、ダンサーなどをモデルに動きを画面に収めた。
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1階から眺めた吹き抜けアトリウムの「ディオールの夜会」。地下2階から撮影したトップ画像と見比べてその奥行きの変化を確かめてほしい。

「ディオールのアトリエ」を表現した真っ白な空間を抜け、地下2階の展示室に向かうとやはりテーマごとに手法も印象も異なるセノグラフィのもと展示が繰り広げられる。

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「ディオールのアトリエ」展示風景。「本物の高級品には本物の素材と本物の職人技が欠かせない」と綴ったディオールにとって、アトリエは常にメゾンの中核として位置付けられていた。
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「ミス・ディオールの庭」展示風景。母親とともに庭づくりに熱中したというディオール。コレクションには花をモチーフにしたドレスも多く、そのDNAは歴代のディレクターにも受け継がれている。この空間には、手塚愛子が既製品の織物を解いて編んだ作品『Mutterkuchen-01(あなたに帰る場所はありますか、もしそうなら、それは偶然? それとも必然?』(画面右)など、東京都現代美術館のコレクションから複数の作品が展示されたほか、天井から下がる切り紙の造形を柴田あゆみが手がけるなど、ディオールのコレクションとアートが共鳴する。
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マリリン・モンローなど、スターたちがまとったディオールのドレスを集めた空間は、星のような光が黒い室内に輝く。
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歴代の「レディ・ディオール」と、アーティストとのコラボレーション作品として生まれた「レディ・ディオール」が並ぶのは、博物館の原型と言われるヴンダーカンマー(驚異の部屋)をイメージした空間。

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「ディオールと世界」と題された展示空間。アフリカの装飾芸術に関心を持ったジョン・ガリアーノとラフ・シモンズ、マハラジャの刺繍や柱頭の飾り紐から着想したジャンフランコ・フェレなど、各地の文化がディレクターたちの想像力を刺激してきた。

クリスチャン・ディオールの創設からメゾンの核を担ってきたオートクチュール。2フロアにわたってその表現を体感させる展示は、会場に身を置くことで夢の世界に誘われたかの体験が得られるはずだ。創造力が無限の広がりを生み出すことを実感させるこの展示、決して見逃さないでほしい。

クリスチャン・ディオール、夢のクチュリエ

開催期間:2022年12月21日(水)〜2023年5月28日(日)
開催場所:東京都現代美術館 企画展示室1F/B2F
東京都江東区三好4-1-1(木場公園内)
TEL:03-5245-4111(代表)、050-5541-8600(ハローダイヤル)
開館時間:10時〜18時
※展示室入場は閉館の30分前まで
休館日:月(1月2日、1月9日は開館)、12月28日〜1月1日、1月10日
入館料:一般¥2,000
※予約優先チケットあり
https://www.mot-art-museum.jp/exhibitions/Christian_Dior/

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【画像】クリスチャン・ディオール、夢のクチュリエ

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