流行が過ぎてポイ捨てする服はアウトの時代。いいモノを長く着るワードローブを整えるのが現代の大人スタイルになった。そこで長く着られる服の重要なエッセンスになるのが素材。古来から人々が愛用し、歴史に裏付けされた天然素材をいまこそ見直したい。汗の吸収発散や体温調整といった身体が感じる快適さも、いまだハイテク繊維が辿り着けない領域にある。
時代気分にフォーカスするファッション連載「着る/知る」が今回着目したのは、天然素材の最高峰といえるカシミヤ(※ 家庭用品 品質表示法に基づく表記。カシミアとも呼ばれる)。有名なわりに、「柔らかく暖かな高級品」くらいの認知度のミステリアスな素材である。
「意外にも実用的で、毎日着るのに最適」、そう口にするのがカシミヤに特化したニットブランド、BODHI(ボーディ)の水谷 倫(みずたに・さとし)。「スウエットシャツをコットン以外の素材でつくれたら」という発想からカシミヤに辿り着いたデザイナーだ。水洗い推奨のケア方法や、夏でも快適なカシミヤTシャツづくりの秘話など、目からウロコのエピソードをたっぷりと語ってもらった。以下よりQ&A形式でお届けしよう。
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Q.カシミヤに着目したきっかけは?
A.ビンテージスウエットシャツが大好きなのですが、コットンの古いものは劣化してボロボロで汚れも目立つのを残念に思っていました。この問題を解決すべく採用したのがカシミヤ。僕は化繊を着ると身体に熱がこもり体調が悪くなる体質です。ウール、コットン、麻といった天然素材のなかで、耐久性があり身体に優しく、さらに価値が長く続くものを探したらカシミヤが最適でした。
Q.羊の毛のウールも劣化しにくい素材だが。
A.ウールにも確かに上等な品種があります。それでも僕はチクチクして感じるのです。糸が固すぎます。シャツの上に着る服なら問題ありませんが、スウエットシャツのように素肌に触れる服になると、より快適性を求めたくなります。裏を起毛させたコットンのスウエットシャツは、獣毛を真似た服。ふわっとした風合いはカシミヤに通じます。
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Q.カシミヤでよく知られるのは柔らかさと保温性の高さ。ほかに優れた特性は?
A.ひとつは、身体が常温でいられる感覚があること。熱くも寒くもなく、室内外で同じ体温感でいられます。アクリルなどの化繊服のように熱がこもったり汗蒸れせず快適です。ストレスフリーなことが僕がカシミヤを好む大きな理由。さらに、糸の強度も優れています。ウールより細い糸ながら、繊維が長いので束ねると強度が上ります。一方で最近増えてきたリサイクルカシミヤは、細切れの糸をつないだ製品だから強度は期待できないでしょう。
Q.経年劣化しにくいとはいえ、擦り切れたり穴が開くことも。
A.カシミヤのニットなら穴が開いても汚れても、みすぼらしく見えにくいです。最初からいいモノは、煮ても焼いてもいいモノのまま。そこがカシミヤがデイリーに着るのに向く理由のひとつでもあります。カシミヤは一般的な服に使われるなかでの究極の高級素材。ウールやコットンと同様に、クオリティしだいで価格も大きな差があります。
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Q.カシミヤはどの動物の毛で、産地はどこ?
A.カシミヤ山羊の毛です。ウールは羊ですから別の動物。山羊は長い毛を持ちますが、カシミヤに使われるのはふわふわの産毛だけ。年に一度、毛を梳く作業で採取されます。上等な産毛を生やすには年間の寒暖差の大きな高地がよく、最上級のカシミアは内モンゴル(中国)産に集中しています。夏は40度近く、冬はマイナス30度にもなる過酷な環境。BODHIが使うのも内モンゴルのホワイトカシミヤ。クオリティ等級のなかでも上ランクのものだけを採用しています。
Q.セーター1着にカシミヤ山羊が3頭は必要とされ、糸分量が多いほど高価になる素材。たっぷりと糸を使うBODHIはなぜ値ごろ?
A.主に内モンゴルで山羊を育て糸の紡績から製品縫製まで一貫して手掛ける会社で製造しているから。中間マージンがなく品質に対する適正価格でご提供できています。
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Q.カシミヤのデイリーケアは?
A.基本はブラッシングです。表面の汚れが落ち、毛玉も取れます。ブラシに毛がついてもニットの産毛とも呼べる余分な毛ですから、取れて当たり前のもの。ブラッシングを繰り返すうち産毛が減り、取れてこなくなります。そうなると毛玉ができにくくなりますので、ぜひまめにブラッシングしてください。ブラシには動物の毛を使いましょう。毛の脂分がわずかながらカシミヤにつく保湿効果を期待できます。BODHIの豚毛ブラシは髪をとかすとツヤツヤになるほどの品です。
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Q.カシミヤの洗濯はドライクリーニングが常識?
A.いえ、むしろ家庭で水洗いするほうがいいです。カシミヤ山羊の原毛は、ねじれている羊と違い直毛です。つまり水洗いで縮みにくい特性があるのです。ただ製品保証ができないためBODHIでも洗濯表示では水洗い不可と記載していますが、僕自身は普通に洗濯機で洗ってますよ。ただし動物の毛は水濡れ状態での摩擦に弱いので、ネットに入れるのがマストです。汗などの水溶性の汚れは水洗いでよく落ちます。石油系の溶剤を使うドライクリーニングは油性の汚れ落としに向くのです。洗濯の水温は常温で、ネットに入れたまま脱水したら日陰に平置きして乾かしましょう。乾いたら毛並みを整えるブラッシングをお忘れなく。
Q.それではドライクリーニングは不必要?
A.固着した皮脂汚れを落とすのに役立ちます。1シーズンに1、2回ほど水洗いすれば汗とともに皮脂もだいたい落ちますが、固まって取れないようならドライクリーニングを試しましょう。溶剤で溶かせばきれいになるかもしれません。着用シーズンの終わりに行うのがおすすめです。
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Q.カシミヤの歴史は長い?
A.インドのカシミール地方が原産だったカシミヤは、18世紀ごろにヨーロッパで広まったようです。フランスの皇帝ナポレオンが遠征先から持ち帰り流行したとの説も有力。数百年前から高級品としての価値が現代まで残り続けている素材です。僕はラグジュアリーな方向に行きがちなカシミヤを、カジュアルに落とし込む服づくりをしています。着ていく場所うんぬんでなく、毎日の気持ちよさを求めたくて。
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Q.カシミヤは秋冬にだけ着るもの?
A.2018年にBODHIをスタートした頃は、僕もカシミヤは寒い季節に着る素材と思っていました。夏向けのコレクションを想定していなかったほどです。でも汗を吸湿発散する、体温を適度に調整する、匂いがつきにくい、復元力がありシワになりにくい、といった特性が春夏にも合うことに気づきました。いまではカシミヤをリネンなどとブレンドした、日本の気候に合う製品もつくっています。23年春夏シーズンではついにカシミヤ100%のTシャツをリリース。糸を強撚して網目をギュッと詰まらせ、暖かな空気を含む隙間をなくした“暖かくない”カシミヤ。カシミヤの優れた特性のうち、保温性だけを取り除いた服です。ようやく実現でき発売に至りました。
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水谷さんは全国の卸先でポップアップストアを開催し、自ら店頭に立つデザイナー。その店も東京のレショップ、グラフペーパー、ハリウッドランチマーケット、京都のロフトマン1981などの名店がずらりと名を連ねる。ファッションシーンが熱い目線を注ぐ日本発のBODHIを手始めに、カシミヤの奥深い世界を探求してみてはいかがだろうか。
BODHI公式サイト
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【画像】カシミヤこそ水洗い? ナポレオンが流行らせた!? BODHIデザイナーがカシミヤを語り尽くす【着る/知る Vol.145】
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ファッションレポーター/フォトグラファー
明治大学&文化服装学院卒業。文化出版局に新卒入社し、「MRハイファッション」「装苑」の編集者に。退社後はフリーランス。文章書き、写真撮影、スタイリングを行い、ファッション的なモノコトを発信中。
ご相談はkazushi.kazushi.info@gmail.comへ。
明治大学&文化服装学院卒業。文化出版局に新卒入社し、「MRハイファッション」「装苑」の編集者に。退社後はフリーランス。文章書き、写真撮影、スタイリングを行い、ファッション的なモノコトを発信中。
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