もう他のコンテンツは見られなくなる、速水健朗が2022年にハマったもの

  • 文:速水健朗
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(c)Amazon/Courtesy Everett Collection/amanaimages

年末なので今年を振り返る。2022年の前半はドラマ『ザ・ボーイズ』ばかり見ていたが、後半は格闘技『BREAKING DOWN』の大会やオーディション、出演者のYouTube動画ばかり見ている。

『ザ・ボーイズ』はヒーローの裏側を暴くドラマ。品行方正なヒーローたちが、裏では酒池肉林のパーティーを繰り広げている。マザコンだったり、セクハラ野郎だったり、薬物中毒だったり、ナチ崇拝者だったりとヒーローたちの裏表の差は大きい。さらに、その運営会社であるヴォート社が登場する。ヒーローを主人公にしたリアリティ番組を制作したり、ヒーローをだしにした社会貢献のイベントを企画したり、実は営利企業がヒーローたちをスキャンダルから守り、裏面を覆い隠す。

アイドルと芸能事務所の話をヒーローに置き換えたドラマ。だが、シーズンを追って見ていると、ヴォート社の悪辣ぶりが目立ってくる。むしろ、ヒーローたちはつくられた存在で、ヴォート社の支配の方が上回っている。芸能事務所どころではなく、世界的なバイオ化学メーカーやアメリカの軍産複合体のような存在がモデルなのだと気づく。

ちなみに、特殊能力をもつヒーローと戦い、政界ともつながる権力をもつヴォート社に立ち向かうのは、なんの能力も権力もない普通のだめなやつらの集まり「ザ・ボーイズ(といっても女性も加わる)」。圧倒的な戦力差、非対称性がある中でいかに一発逆転できるかを狙う。

一発逆転といえば、BREAKING DOWNである。格闘技の大会で、2022年12月現在、第6回大会まで開催されているが、参加者周辺で逮捕者がちらほら。持続可能性に不安がある。

BREAKING DOWNはオーディション形式のリアリティ番組と格闘技大会の掛け合わせである。挑戦者たちがオーディションを通して大会に参加。出演者の目的は、“人生を変えること”だ。ただただ目立ちたい喧嘩自慢の不良たち、借金を抱えてどうしようもなくなった謎のキャラクターの持ち主、炎上で注目を集めてきたインフルエンサーたち、身体を張って示したい経営者(意外と多い)といった面々。さらに、ジ・アウトサイダーのチャンピオンの啓之輔、ボクシング界を追放された飯田将成といった30代後半の強者らが格闘技での返り咲きを狙う。町の不良も落ち目のインフルエンサーたちも30代の格闘家らも横一線である。

ルールは、1分1ラウンド。ショートコンテンツの時代ならでは。このルールでは、従来の総合格闘技よりも運の要素が強くなる。スタミナや技術がなくとも、破れかぶれの突進でワンチャンス勝てるかもしれない。圧倒的な戦力差は、ガッツと戦略で埋まる部分がある。

ただ、一発狙いで勝ち、スターになった選手も、その後も勝ち続けるために、真面目に格闘技に取り組むようになるのが面白いところ。結局、技術がものをいう結果が多く出ている。その意味では、BREAKING DOWNは、この30年の総合格闘技の歴史の圧縮版のようでもある。あっという間にレベルが上がっていきそうだ。

『ザ・ボーイズ』は、ヒーローへの悪意の強さ故、従来のマーベル界に帰れなくなるかもしれない。BREAKING DOWNも他の総合格闘技の観戦に戻れなくなる。どちらも依存性の強いもの。摂取は自己責任で。

速水健朗

ライター、編集者

ラーメンやショッピングモールなどの歴史から現代の消費社会をなぞるなど、一風変わった文化論をなぞる著書が多い。おもな著書に『ラーメンと愛国』『1995年』『東京どこに住む?』『フード左翼とフード右翼』などがある。

速水健朗

ライター、編集者

ラーメンやショッピングモールなどの歴史から現代の消費社会をなぞるなど、一風変わった文化論をなぞる著書が多い。おもな著書に『ラーメンと愛国』『1995年』『東京どこに住む?』『フード左翼とフード右翼』などがある。