ニットの頂点・カシミアを日常着に落とし込んだ、究極のセットアップ

  • 文:小暮昌弘(LOST & FOUND)
  • 写真:宇田川 淳
  • スタイリング:井藤成一

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右が「BIG HEAVYWEIGHT CASHMERE HOODIE」、左が「BIG HEAVYWEGHT CASHMERE SWEAT PANTS」。どちらも通常のニットに比べて肉厚に仕上げられたカシミヤ素材が使われている。袖と裾のリブはテンションを強めに調整、どの時代にも対応するスタンダードなボックスシルエットに。7色展開。フーディ¥143,000、スウェットパンツ¥93,500/ともにボーディ

「大人の名品図鑑」ニット編 #6

ニットウェアは秋冬のスタイリングに彩りを与えてくれるアイテムだ。長く着用でき、着れば着るほど愛着が増すのが、ニットウェアの大きな魅力だろう。モノを大事にしようとするエコな時代、今後はニットウェアがさらに注目されることは必至だ。一度手に取ったら最後、虜になってしまうような世界のニット名品を集めてみた。

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ほとんどのニットウェアは毛糸だけで製作される。だからある意味原料が生命線だ。異論はあるかもしれないが、数あるニットウェアの中で頂点に位置するのがカシミヤセーターではないだろうか。

カシミヤセーターの原料は「カシミヤ山羊」から採れる絨毛繊維。一般的なウールのニットウェアは羊の毛を使っているのに対して、カシミヤセーターで使われるのは山羊の毛だ。つまり原料の毛の種類が違う。「カシミヤ」という名前自体はインド北部の「カシミール地方」の古い綴りが由来と言われている。もともとこのカシミール地方でもカシミヤ山羊は飼育されていたが、現在では、中国内モンゴル、中国北西部、イラン、チベットなどの限られた地域で育てられている。その場所は厳しい自然環境にある山岳地で、カシミヤ山羊は放牧に近い形で飼育されていると聞く。

山羊の体毛は寒さから身を守るために2重構造になっていて、外毛は15〜20cmの硬い毛だが、その下に長さ2〜3cmのなめらかで絹のような光沢をもつ内毛が密生している。その内毛は人間の髪の毛の1/5くらいの細さしかなく、その毛だけがカシミヤの原料となる。もちろんウール、アンゴラ、キャメルといった世の中に出回っている動物の毛の中でもっとも細い。

カシミヤの毛は等級=グレードがあり、色や長さ、太さなどを考慮して等級に分けられ、質が高いほど、毛が長くて細く、艶やかな仕上がりとなる。同じカシミヤでも値段に差があるのはこのためだ。カシミヤ山羊一頭から採れる原毛は100〜200g程度。1着のセーターをつくるのに約3、4頭分の原料が必要となる。生産量も限られているので、カシミヤが「繊維の宝石」と呼ばれているのもこうした理由からだ。

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カシミヤセーターの魅力とはなにか

カシミヤセーターの特徴はどんなものがあるだろうか。前述のようにカシミヤの原毛はほかの天然繊維に比較して格段に細い。1本の糸をつくるのに何本ものカシミヤの原毛を束ねてつくる必要があるが、束ねることで糸自体の強度が増し、暖かさもアップする。しかもカシミヤの原毛は外気を遮断して放熱を抑えるという特性もあるため、温かな空気を内へ溜め込んでくれる。また原毛の表面がキューティクル構造になっていて、空気中の水分の吸収と放出を行い、湿度を一定に保ってくれる。「軽さ」「保温性」「保湿性」、これがカシミヤセーターの大きな魅力に違いない。

加えてカシミヤ繊維は非常に細くしなやかで、皮膚への刺激性も低く、肌触りも柔らかで着心地は快適。カシミヤに含まれる油脂のおかげで表面に光沢があり、高級感がある。繊維自体に優れた弾力性があるので復元力が高く、セーターの「型崩れ」も少ない。ニットウェアの素材としては、まさに申し分のない性能を備えた素材ではないだろうか。虫喰いなどに注意して、きちんとお手入れをすれば何年も着用できる。そういう意味ではコストパフォーマンスも高く、サステナブルなファッションアイテムと言える。

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ボーディが掲げる「自然と共生する、究極の日常着」

そんなカシミヤを使ってユニセックスのニットアイテムを展開するボーディ(BODHI)という日本のブランドがある。さまざまなブランドでマーケティングや生産、バイヤーなどを務めていたデザイナー、水谷倫が2018年に立ち上げたブランドだ。コンセプトは「自然と共生する、究極の日常着」。ブランド名は、サンスクリット語で「悟り」という意味で、「自然との共生」を謳うブランドのコンセプトにも通じるものがある。デザイナーの水谷は日常生活の中にあっても、いや日常だからこそ、極上のニットウェアで、心地よさや余裕を味わってほしいと願い、基本の素材をカシミヤに定めたと聞く。これまでとは違うベクトル、発想を持ったブランドだ。

しかもボーディが使うのはカシミヤの中でも最高品質と言われる内モンゴル産のホワイトカシミヤ。ホワイトカシミヤは名前の通り、真っ白な美しい毛で鮮やかな色に染まる。その素材を使って、生産までモンゴルで行っているのもボーディの特徴だ。自社のWEBサイトで、「内モンゴルのカシミヤ生産技術は世界でも一級品。糸を紡ぎ、縫製や加工まで一貫生産。糸を細く長く綺麗に紡ぐ縮絨や染色の技術に加え、編み立てる熟練の職人技は他の国の追随を許さない」と書いている。

ボーディのアイコン的なアイテムと言えるのが、「BIG HEAVYWEIGHT CASHMERE HOODIE」だ。日常着として多くの人に親しまれているスウェットパーカの素材をカシミヤに置き換えることで、極上に日常着に仕上げている。「HEAVYWEGHT」と銘打っているだけあって、通常のカシミヤセーターに比べて肉厚。「このカシミヤの肉感を出すために限界まで詰めた。最初の1年間は素材をつくるだけで終わってしまった」とブランドのWEBサイトで水谷は書いている。さらに同じ素材を使ってデザインされた「HEAVYWEGHT CASHMERE SWEAT PANTS」も秀逸の出来栄えで、カシミヤの温かさなどの性能を素肌に近いところで感じることができる。いずれも「究極の日常着」と呼ぶに相応しいニットウェアではないだろうか。

水谷は「BRAUNのデザインや90年代のメルデスベンツなど、完成形と言われる形やアイテムが好きだ」と語っているが、これもそんな佇まいを感じるアイテム。素材とシルエット以外は極めてシンプルだ。ロゴなどでブランドを喧伝したり、デザインを強調することなく、自然体でカシミヤアイテムが着られる。「良質なアイテムをひっそりと一から育てていきたいタイプなので」と語るデザイナーの姿勢にも好感が持てる。

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ブランド名はサンスクリット語で「悟り」を意味する。シンプルにデザインされたロゴにブランドとしての姿勢やコンセプトが感じられる。

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「RIVERSIBLE COTTON/CASHMERE SWEATSHIRT」は遠目から見ると、霜降りのスウェットシャツ。フロントはコットン100%で、バックサイドはカシミヤ100%で編まれたリバーシブル仕様のスウェット。サイドリブなどはヴィンテージスウェットを連想させるディテールに仕上げている。¥71,500/ボーディ

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オールマイティに着こなせるクルーネックタイプの「BIG HEAVYWEGHT CASHMERE SWEAT SHIRT」。素材はもちろんカシミヤ100%で、スタンダードなボックスシルエット。左はネイビーで、右がグリーン。これ以外にもグレーやボルドーなど全7色の展開。各¥132,000/ボーディ

問い合わせ先/アルファ PR TEL:03-5413-3546

https://bodhi-cashmere.com

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