「Pen」が選んだ、2023年上半期「必見の展覧会」5選

  • 文:はろるど

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2023年も全国にて数多く開催される展覧会。上半期においては、東京では18年ぶりとなる佐伯祐三の回顧展をはじめ、約20年ぶりに国内にて『マティス展』が開かれるほか、2年3ヶ月あまりの改修工事を終えた広島市現代美術館がリニューアルオープンを果たすなど話題に尽きない。特に見ておきたい展示をピックアップし、会期順に紹介する。

1.『佐伯祐三 自画像としての風景』@東京ステーションギャラリー【1/21〜4/2】

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佐伯祐三『レストラン(オテル・デュ・マルシェ)』 1927年 大阪中之島美術館

大阪、東京、そしてパリの3つの街に生き、30歳の若さで世を去った画家、佐伯祐三(1898〜1928年) 。大阪で生まれた佐伯は、25歳にて東京美術学校を卒業すると、同じ年にパリへと向かう。そこで作品を見せた画家のヴラマンクから「このアカデミック!」と一蹴されると、衝撃を受けて自らの作風を模索していく。そして一時帰国後、29歳にして再びパリへと渡ると、石造りの街並みやポスターの貼られた建物の壁、またカフェや教会などの景観を描き続け、多くの風景画を残した。一連の激しいタッチによる作品には、異邦人としての孤独感も滲み出しているように思えて感傷を誘う。東京ステーションギャラリーでは佐伯の回顧展を18年ぶりに東京にて開催。佐伯と同時代に建てられた当時のれんが壁の残る展示室にて、パリの重厚な街並みの風景画はもとより、一時帰国時代に描かれ、再評価が進む下落合(東京)と滞船(大阪)をテーマとした絵画を鑑賞できる。厚塗りの絵具による画肌には砂や糸屑などが混じり、独自の質感を見せているが、そうした図版などでは分からない感触も目に焼きつけたい。

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佐伯祐三『郵便配達夫』 1928年 大阪中之島美術館

開催期間:2023年1月21日(土) 〜4月2日(日)
開催場所:東京ステーションギャラリー
東京都千代田区丸の内1-9-1
TEL:03-3212-2485
www.ejrcf.or.jp/gallery
※大阪中之島美術館(2023年4月15日〜6月25日)へ巡回。

2.『リニューアルオープン記念特別展 Before/After』@広島市現代美術館【3/18〜6/18】

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シリン・ネシャット『Land of Dreams』 2019年 Courtesy of the artist and Gladstone Gallery © Shirin Neshat

1989年の開館以来初となる大規模改修工事を経て、今年3月にリニューアルオープンを果たす広島市現代美術館。屋根や床の張り替え、また防・排水設備の補修をはじめ、照明のLED化といった展示室の機能を更新するとともに、エレベーターの増設や多目的トイレを新設するなどの利用者サービスの向上をはかっている。またエントランス横には新たな空間が増築され、ガラス張りの開放的なカフェや多目的スペース「モカモカ」ができるなど、美術館としての魅力も大きく増す。このリニューアルを記念して行われるのが、特別展『Before / After』だ。展示では同館が収集してきたコレクションを中心に、本展のための新作を含む約100点を全館規模にて公開。建物の改修工事で生じる「前/後」を足がかりに、劣化、再生、原子力、爆発、楽園といったキーワードを美術館の活動ともつなげながら、「まえ」と「あと」のさまざまな現象に着目していく。新たに購入されたシリン・ネシャットの『Land of Dreams』をはじめ、石内都や竹村京、横山奈美、また和田礼治郎らによる本展のための新作などもお披露目される。緑豊かな比治山へと久しぶりに足を伸ばして、新しくなった美術館を楽しみたい。

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横山奈美『LOVE』 2022年 photo:Hayato Wakabayashi

開催期間:2023年3月18日(土)〜6月18日(日)
開催場所:広島市現代美術館
広島県広島市南区比治山公園1-1
TEL:082-264-1121
www.hiroshima-moca.jp

3.『大巻伸嗣展(仮)』@弘前れんが倉庫美術館【4/15〜10/9】

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大巻伸嗣『Liminal Air Space-Time』 2020年 展示風景:「存在のざわめき」関渡美術館(台湾/台北、2020年) Courtesy of Mind Set Art Center [参考図版]

「存在」とは何かをテーマに活動を続ける作家、大巻伸嗣(1971年生まれ)は、国内外の美術館にて個展を開きつつ、芸術祭や地域のプロジェクトに参加し、ステンレススチールや布、それに水晶やシャボン玉などのさまざまな素材を用いて、空間全体をダイナミックに変えるインスタレーションにて人気を集めてきた。その大巻が東北地方初の個展を弘前れんが倉庫美術館にて開く。作品の制作にあたり、土地の持つ歴史や記憶に着目する大巻は、青森県の風物や自然、信仰の形などを取材し、人々の声へ耳を傾け、人や自然、物質や精神世界の生と死が円環を成すような死生観というテーマをたぐり寄せる。そして展示では、1枚の薄い布が波打つように有機的に動き、人々の内なる身体感覚を呼び起こす「Liminal Air Space-Time」のシリーズをはじめとした新作インスタレーションを中心に紹介。時間の境界の揺らぎや目に見えない重力などを体感させる静謐な空間を生み出す。かつてシードル工場や米倉庫として利用され、黒いコールタールの壁が広がる美術館のユニークな展示室と作品との響き合いにも注目したい。

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赤いれんが造りの外壁が目印の弘前れんが倉庫美術館。©︎Naoya Hatakeyama

開催期間:2023年4月15日(土)〜10月9日(月・祝)
開催場所:弘前れんが倉庫美術館
青森県弘前市吉野町2-1
TEL:0172-32-8950
www.hirosaki-moca.jp

4.『恐ろしいほど美しい 幕末土佐の天才絵師 絵金』@あべのハルカス美術館【4/22~6/18】※会期中、展示替えがあります。

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『伊達競阿国戯場 累』 香南市赤岡町本町二区 ※後期展示(5/23〜6/18)

江戸末期の高知城下に生まれ、浄瑠璃や歌舞伎などの物語を描いた芝居絵屏風にて知られる土佐の絵師、金蔵(1812~1876年)。一時、御用絵師として腕を振るうも、贋作事件に巻き込まれると職を解かれ、幟や絵馬といった庶民の注文に応じて絵を描く町絵師として活躍する。現在は約200点の芝居絵屏風が残され、赤や緑の鮮やかな色彩や劇画的とも言えるストーリー性の高い構図にて人気を集めると、「絵金さん」の愛称で長年にわたり親しまれてきた。また1966年に雑誌『太陽』で特集されると東京や関西にて展覧会が開かれ、映画、舞台、小説などにて取り上げられるなどブームを引き起こす。以来、約半世紀、あべのハルカス美術館にて開かれるのが『恐ろしいほど美しい 幕末土佐の天才絵師 絵金』だ。展示では多くの代表作を通して、異彩を放つ屏風絵や絵馬提灯などを残した絵金の魅力について紹介していく。地元の高知では夏祭りの数日間、屏風絵を各地の神社などに飾り、闇の中に蝋燭の灯りで浮かび上がるおどろおどろしい芝居の場面を楽しむというが、それを大阪にて追体験できるまたとない機会となる。

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『花衣いろは縁起 鷲』 香南市赤岡町本町二区 ※後期展示(5/23〜6/18)

開催期間:2023年4月22日(土)〜6月18日(日)
※会期中、展示替えあり【前期:4月22日(土)~5月21日(日)、後期:5月23日(火)~6月18日(日)】
開催場所:あべのハルカス美術館
大阪市阿倍野区阿倍野筋1-1-43 あべのハルカス16階
TEL:06-4399-9050
www.ktv.jp/event/ekin
www.aham.jp

5.『マティス展』@東京都美術館【4/27~8/20】

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20世紀のフランスを代表する画家のアンリ・マティス(1869〜1954年)は、フォーヴィスム(野獣派)のリーダーとして活動すると、モダン・アートの誕生にも役割を果たし、後世の芸術家たちに大きな影響を与えた。そのマティスの世界最大規模のコレクションを誇るパリ、ポンピドゥー・センターから、約150点もの名品が東京都美術館へとやって来る。「フォーヴィスムに向かって」から「ヴァンス・ロザリオ礼拝堂」へと至る8章構成の展示では、絵画に加えて、彫刻、ドローイング、版画、切り紙絵などの作品にてマティスの創作の歩みを紹介し、光と色に満ちた画家の造形的な冒険をたどっていく。日本初公開となる初期の傑作『豪奢、静寂、逸楽』をはじめ、ヴァンスのアトリエのシリーズを最後を締めくくる『赤の大きな室内』や、最晩年に取り組んだロザリオ礼拝堂のためのプロジェクトに関する資料やドローイングなども見どころだ。日本では約20年ぶりの大規模な回顧展にて、色彩の魔術師とも言えるマティスの豊穣な作品世界を堪能したい。

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開催期間:2023年4月27日(木)〜8月20日(日)
開催場所:東京都美術館 企画展示室
東京都台東区上野公園8-36
TEL:050-5541-8600(ハローダイヤル)
https://matisse2023.exhibit.jp
www.tobikan.jp

※掲載した情報は2022年12月時点のものです。各展覧会の最新の開催情報については、事前に公式サイトにてお確かめください。