テキスタイルをテーマとした国内随一の芸術祭。『FUJI TEXTILE WEEK 2022』が開催中!

  • 文・写真:はろるど

Share:

安東陽子『Aether 2022』展示風景(会場:KURA HOUSE)。築80年の蔵を舞台に、光沢のあるキュプラを用いた糸の束のインスタレーションを展示している。

山梨県東南部の富士山麓に広がる富士吉田市。富士五湖への玄関口であるとともに、清涼な水の恵みによって、約1000年以上にさかのぼる織物の産地としての歴史を歩んできた。現在では海外の産業スケールに押され、生産量こそ減少しているものの、新しいテキスタイルシーンを起こそうとする機運が高まり、産業の再生を図るプロジェクトも進展している。1960年代後半には生産量と消費量で世界一となった洋傘地をはじめ、2000年代には国内シェア1位となった先染ネクタイ、それにいまもハイブランドからも注文を受ける服地など、高品質で幅広いジャンルの製品が生産されているのも特徴だ。

2.jpeg
産地展「WARP & WEFT」展示風景(会場:ワタトウビル)。手前に並ぶのは夜具座布。当初は甲斐絹と同じくシルクの平織りから始まったものの、後に洋傘にも用いられたジャガード織の技術が導入されると「婚礼夜具・座布団」としてブレイク。現在も旅館などで使われる座布団や布団カバーいった生地が作られている。

現在、富士吉田市では、産地展とアート展の2つを組み合わせた布の芸術祭、『FUJI TEXTILE WEEK 2022』が開かれている。まず産地展「WARP & WEFT」(経糸と横糸)では、織物のルーツから現在までの系譜を紹介。明治から昭和初期にかけ、羽織の裏地として大ヒットした特産の甲斐絹(かいき)をはじめ、山梨県産業技術センターが所蔵する昔の貴重な生地のアーカイブ、それに19の織物業者による最新のプロダクトなどを展示している。時代や社会の流れに合わせて変化した富士吉田市の織物産業が、どのように未来を切り開いていくのかを指し示すような内容だ。また斬新なデザインの織物の傘やネクタイを目にしていると思わず欲しくなってしまうが、一部のプロダクトは週末開館日のみ購入ができるのも嬉しい。

3.jpeg
村山悟郎『頑健な情報帯』展示風景(会場:旧糸屋)。村山が制作した手書きの素描『同期/非同期時間のセルオートマトン[手描き]』を、アーティストの手塚愛子がコンセプトに興味を持ち、素描を現実化することを提案したことをきっかけにした作品。セルオートマトンの数理モデルのプログラムを用い、そこから生じるパターンの性格を分析し、規則性とランダム性を比較している。テキスタイル表面がさざなみのように揺らいで見えるのが面白い。

4.jpeg
シグリット・カロン『Details of Every Day Gold』展示風景(会場:福源寺)。繊維産業と深いつながりのあるオランダのティルブルグにてテキスタイルを学んだカロンが、お寺の本堂をテキスタイルにて鮮やかに彩っている。祝典的な雰囲気が感じられて楽しい。

一方のアート展「織りと気配 vol.02」では、喫茶店の跡地や古い蔵、それに神社といった屋内外の10のスペースを使って、国内外9名の作家がテキスタイルを素材にした作品などを公開している。まずテキスタイルデザイナーの安東陽子は、3階建ての蔵に糸の束を用いた作品を展示していて、糸が上下へと滝のように連なりつつ、窓からの淡い光によって真珠色にきらめく光景を楽しむことができる。またアーティストの村山悟郎が地元の機屋とともに制作し、約25万枚にも及ぶ紋紙の一部とともに展示したテキスタイル作品や、作家が独自の手法で織ったキャンバスに、ドローイングを施したタペストリーとも彫刻とも言える作品も大変な労作だ。さらにフランスのエレン・ロットが富士吉田市の街を歩き、心に留まった光景をジャガード織にコラージュした作品や、日除けテントを立体として再構成したインスタレーションも魅力に満ちている。

IMG_5097.jpeg
落合陽一『The Silk in Motion』展示風景(会場:小室浅間神社)。織り機の原点にコンピューターと共通する原理があることに関心を持った落合。甲斐絹の撮影画像をベースに、AIで生成した神社の祭神である木花咲耶姫命(このはなさくやひめのみこと)の伝説と神馬のモチーフをないまぜにして表現している。まるで神楽殿を焦がすかのように展開する迫力のある映像だ。

この他、市内で拾い集めたインスピレーションをもとに、福源寺の山門や本堂をカラフルな布で覆ったオランダのシグリット・カロンや、小室浅間神社の神楽殿を舞台に、甲斐絹と神馬や祭神の炎のイメージをAIを用いて加工生成してLEDに投影した落合陽一も、ともに地域の特質や産業をリサーチして作品に表現している。富士吉田市へは東京から高速バスや特急にて約1時間40分。会場はすべて下吉田地域に集中し、半日ほどでも回れるコンパクトな芸術祭だ。近年、同市は富士山を望む絶景スポットとして、海外からの観光客にも人気を集めている。会期は約半月。富士吉田市にて脈々を受け継がれたテキスタイルの産業を踏まえながら、アートとして昇華されていくすがたを、レトロな街並みを歩きながら楽しみたい。

『FUJI TEXTILE WEEK 2022』
開催期間:2022年11月23日(水)〜12月11日(日)
開催場所:山梨県富士吉田市下吉田本町通り周辺地域
山梨県富士吉田市下吉田2-1
TEL:0555-22-2280
開場時間:10時~16時(水曜〜金曜)、10時〜17時(土曜、日曜、祝日) ※受付終了は閉場の30分前まで
休館日:月曜、火曜
入場料:一般1,000円 ※高校生以下、富士吉田市民は入場無料。産地展「WARP & WEFT」は入場無料
https://fujitextileweek.com