「バカらしくてやってらんない」『セレーナ・ゴメス My Mind & Me』の配信開始と一連の騒動を振り返る

  • 文:中川真知子

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「最低な気分だわ。バカらしくてやってらんない」絶望や諦めといった感情を隠しもせず、天を仰ぐように言い放ったのは、インタビューを終えたばかりのセレーナ・ゴメス。Apple TV+で独身配信中の『セレーナ・ゴメス My Mind & Me』の一コマだ。

彼女の過去6年間を追ったドキュメンタリーで、この場面だけに限らず、全編にわたってかなり素直で感情的な姿がそこにある。というのも、本作はタイトルにもあるように「精神」をテーマにしたもの。セレーナが抱える全身エリテマトーデスという自己免疫疾患と双極性障害に深くフォーカスした内容になっているのだ。

本記事では、公開直前になっても配信するのが正しいことなのか悩んでいたという『セレーナ・ゴメス My Mind & Me』について語っていきたいと思う。

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子役と元カノのレッテルからの脱却と精神疾患

セレーナ・ゴメスは、ディズニーチャンネルの『ウェイバリー通りのウィザードたち』で知名度をあげた元子役で、今は歌手やモデル、製作の活動と幅広く活躍している。

自身が精神疾患と全身エリテマトーデスという自己免疫疾患で苦しめられていることから自死を考えたこともあり、疾患の啓発や慈善事業にも積極的で、10代の自殺をテーマにしたドラマ                      『13の理由』をプロデュースするなど問題提起していることでも認知度がある。

だが、彼女が元ディズニーチャンネルの子役であったことや、かつてミュージシャンのジャスティン・ビーバーと交際していた過去がついてまわり、『セレーナ・ゴメス My Mind & Me』では、「いつになったら独り立ちできるの」と目に涙をためて吐露する。自尊心が低く、頭の中で自分にダメ出しをする声が聞こえると取り乱す。オープニングからかなりショッキングだ。

輝かしい世界に身を置くセレーナだが、アメリカの田舎町出身の” 陰キャ”だと、本人だけでなく従姉妹も証言している。これまで幾度となくタブロイドを賑わせたり、インスタグラムに投稿された華やかな私生活はなんだったのか、と思ってしまうほど『セレーナ・ゴメス My Mind & Me』の中の本人とメディアの中の彼女にはギャップがある。

筆者はすっかりセレーナ・ゴメスが好きになったし、彼女の苦悩と抱えてきたものを想像して涙を流した。6年間の密着取材で作った渾身のドキュメンタリーは視聴者の心に響いたに違いない。

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問題発言と腎臓移植

だが本作が配信された直後、セレーナの発言が問題となり、改めてセレーナ・ゴメスの人となりが疑問視されることに。というのも、ローリング・ストーン紙のインタビューに応じたセレーナが「業界の友達はテイラー・スウィフトだけ」と語ったのだ。

自称” 隠キャ”のセレーナが業界に馴染めないと話すのは問題なさそうだが、この発言に心を痛めたのが、2017年にセレーナのために腎臓を提供した女優のフランシア・レイサだ。

当時、セレーナとフランシアは同じ屋根の下で暮らしていた。セレーナはすでに血縁関係者にはドナー検査をしてもらっていたが結果は不適合。いよいよ腎臓が機能しなくなってきた頃にフランシアに弱音をはき、それを受けたフランシアはドナー検査を受けると言ったそうだ。

「私から言い出しました」とフランシア。

TODAYのインタビューに応じたフランシアとセレーナ・ゴメスは、適合した奇跡を喜び、お互いを「かけがえのない存在」と呼んでいる。仲の良さが画面からも伝わってくる。

ところが、腎臓を提供した次の年の2018年にリリースされたフランシアの動画からは、当時のテンションとは少し異なった空気を読み取ることができる。ドナー検査を受けると言ったのは良いが、彼女はドナーのリスクなどをしっかりと理解していなかったようなのだ。

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「腎臓ドナーに関して正しい知識をもっていませんでした」とフランシア。

フランシアは検査結果を聞いたあと、心を決めてからセレーナに報告しようと思っていたそうだ。しかし、セレーナはすでに適合の結果を知っていて、興奮気味に「適合だって!」と連絡してきたと言う。フランシアは、すぐさまソーシャルワーカーに連絡して順序がおかしいと苦情を入れたそうだ。その際にドナーのリスクを説明されて「患者は必要な臓器を得て回復する。ドナーは失う必要のないものを失う。術後のリカバリーは大変だ」と言われたという。

だが、セレーナには「親友なのだからドナー検査を受けるのは当たり前」と伝えてしまっているし、何よりセレーナ本人が適合するのを知っている。稀なケースであろうと死のリスクを伴ったり、術後の回復が大変だったりすると言われても、フランシアはNOと言えなかった。

その後、ふたりはすぐに移植手術を受ける。ひとりでシャワーも浴びられないほどの痛みを乗り越えられたのは、そこに友情があったからだ。

SELFのインタビューで、腎移植の傷跡を見せながら「傷は私を定義しない。私の物語を語っているだけ」と話すフランシア。その傷口を見るたびに、セレーナのことを思い出すだろう。だから、今回の「テイラー・スウィフトだけが……」発言がフランシアを深く傷つけたことは想像に難くない。

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ドキュメンタリーのテーマと配信の意味

セレーナ・ゴメスの発言を受けて、フランシアは意味深なコメントを残してセレーナのSNSをアンフォローした。その件に対してなのか、セレーナは「知り合い全員の名前を言わなくてごめんなさい」とコメントしている。

筆者がもしもフランシアの立場なら、自分は一体なんだったのだろうと思い詰めるだろう。失う必要のなかったものを失い、リスクを犯してでも救いたかった友人に、実は友人だと思われていなかったと公の場で明かされたら自尊心がズタズタになる。

だが、そういった不義理に見える行動やこれまでの矛盾も『セレーナ・ゴメス My Mind & Me』を見ると理解できるような気がしてくる。

同作に登場するセレーナは脆くて壊れやすく、ガラスのように繊細だ。体の痛みや精神疾患に悩まされているときは理性を保つのも難しく、自分を支えようとする周囲の人たちへの気遣いなどできる余裕もない。コンディションが悪いときは非常に感情的で扱いづらそうに見える。

この姿を見ると、幾度となくタブロイドを騒がせたセレーナの姿は、彼女がもつ複雑な多層性のひとつでしかないのがわかるし、とても不器用で自分自身をどうにかするのに精一杯なのもわかる。

『セレーナ・ゴメス My Mind & Me』のラストは、自分の経験を踏まえて、同じように苦しんでいる人たちの助けになりたいと行動する彼女の姿が捉えられていて希望を感じさせられる。精神疾患を克服し、前を向いて生きている”いい話”だ。

だが直後に問題発言があったことで、彼女の不安定さなどが継続していると証明され、精神疾患の根深さを知らしめたような気がする。そういった点では、配信後の一連の出来事は、『セレーナ・ゴメス My Mind & Me』を製作した意味をより強めたのではないだろうか。

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【動画・画像】「バカらしくてやってらんない」『セレーナ・ゴメス My Mind & Me』の配信開始と一連の騒動

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Apple TV+の2ヶ月間無料トライアルをしてでも多くの人に観てほしい。

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問題発言と腎臓移植

「私から言い出しました」とフランシア。

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「腎臓ドナーに関して正しい知識をもっていませんでした」とフランシア。

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ドキュメンタリーのテーマと配信の意味

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