なぜ「円安」に? 円預金だけでは資産が目減りしてしまう理由

  • 文:川畑明美
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先週から外国為替市場で円高が進んだ。米国の消費者物価が市場の予想を下回ったことがその理由だ。日銀の黒田総裁も急速な円安がいったん落ち着いている状況について、「大変結構なこと」と評価している。先週のような急展開は、1998年にもあった。1998年は、8月の147円から約2ヶ月で115円前後まで円高が進んだ。


当時は、ロシア危機と呼ばれるロシア国債のデフォルトが原因だった。デフォルトとは、日本語では債務不履行といって債券の利払いや額面金額の払い戻しが約束通りに行われないこと。当時のニュースでは、円安でにぎわっていた海外からの旅行者に街角インタビューしていた。秋葉原の両替所で撮影していたように記憶している。話は逸れてしまったが、急展開したといっても円安で物価は依然高い状態だ。


最近の円安の報道を見ていると「円安は悪いこと」と思ってしまう人もいるだろう。まずは、円安のメリットとデメリットを考えてみよう。円安のメリットは、日本の製品を海外に売りやすくなること。海外からすると円安は、日本のモノやサービスが安くなっている状態だ。輸出産業の業績向上や外国人の旅行者が増加することに繋がる。また、日経平均株価も上昇する傾向にある。日経平均の225銘柄、いわゆる大企業は円安でメリットを受ける企業の割合が多いからだ。


また海外資産、例えば米国株や米国ETF、投資信託でも海外の株価指数に連動するタイプの銘柄を購入していれば円安の影響を受けて上昇する。円安になると大企業にはメリットになるし投資をしている人にもメリットは大きい。

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円安のデメリットは個人消費者に多い

では、円安のデメリットは何だろうか? 円安のデメリットは、輸入製品の価格が高騰することだ。例えばニトリは、海外生産製品を輸入して販売するので円高の方にメリットがある。食品を中心に生活必需品やガソリンなど輸入に頼っているのが現状だ。食品や日用品の値上げがあっても、賃金は、なかなか上がらない。


給料が変わらないのに支出が増えるのだから「生活が苦しい」「お金がない」と感じる個人は多くなる。円安は、大企業や投資家にとってはメリットだが、個人消費者としては、デメリットになる。


特に今年2022年は急激に円安が進んだ。1月は115円くらいだったのに10月には150円になってしまった。何度か記事にしているが、円安時に外貨建て資産を保有していないとあなたの資産が減ってしまう。少し円安が落ち着いたけれども「円安リスク」を意識して欲しい。

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あなたはお金に支配されている?

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円安で物価上昇というニュースに過敏に反応してしまうのは、そもそもお金に支配されているから?istock

お金に支配されている状態とは、どんなことなのか考えたことがあるだろうか? 例えば、こんな行動だ。「福袋を買ったら中身の商品の定価をネットで調べる」ということをしたことがないだろうか。1万円で買った福袋の中身の定価が5万円だったら、あなたは得した気分になるはずだ。ところが得したつもりなのに福袋に入っている服をあなたが気に入っているのか、それも考えて欲しい。結局着ることがなければ1万円損したことになる。こういう行為が、お金に支配されている例だ。


円安・円高も同様だ。消費者としては、円安になると食品や日用品が値上がりするので、円安は個人消費者としては、デメリットだ。特にマスコミは、悲観的な報道をする。それは悲観的なニュースの方が読まれるからだ。そういう報道が気になってしまうのも、お金に支配されているということだ。

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どうして利上げが行われるのか?


お金の本質を考えてみよう。世界の中央銀行にとって高いインフレ率は最大の問題だ。インフレとはモノやサービスが上昇すること。米国や欧州では、急激なインフレで賃金も上がっている。なので米国や欧州では、賃金コストを引き下げる政策が適切と考えているのだ。中央銀行は、原油価格や食料品の価格上昇を直接的にコントロールはできない。


そこでお金の需要を抑制することでインフレを抑え込もうとするのだ。お金の需要を抑制するというのは、政策金利を上げるということだ。金利が上がることで、企業は銀行からの借入れのコストが高くなる。銀行からの借入れを減らすことになれば、雇用も控えることになる。そうなると雇用の安定への懸念が高まり所得の減少が引き起こされる。


給料が上がらない、リストラの恐怖など将来の生活に対する不安が大きくなるほど家計は、できるだけ出費を抑え質素な生活を心がけるようになる。そうするとモノが売れなくなるのでインフレが収まるということだ。これが欧米でとられている政策。

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どうして日銀は金利を上げないのか

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物価が上がるから給料も上がるはずなのだが、日本では物価だけが上がって給料の上昇率の方が少ないのだ。istock

どうして円安が進んだのか? 最大の要因は、日本と米国の金利差だ。ではなぜ日本の中央銀行の日銀は利上げに消極的なのか。日銀は、日本の物価上昇を下げるのではなく、さらに高くしたいと考えているからだ。それは他国と比較して、日本人の給料が上がっていないという事実があるから。円安で好決算の企業の給料が上がっていたとしても、日本の全体的な給料は今の物価上昇に追いついていないレベルだ。


30年間も給料がほとんど上昇していない日本では、他国と比べたらモノやサービスの価格も値上げ幅はゆるやかに推移している。モノやサービスの値段が上がらないから給料も上がらないという状態なのだ。これだけ円安が進んでも日銀が金利を上げないのは、賃金の上昇が見込まれていないから。


では、どういう状態ならば給料が上がるのだろうか。それは物価上昇が続くことが当たり前だという考えを多くの人が持つことによって、企業もモノやサービスの値上げを当たり前と考えられるようになる状態だ。

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円預金だけでは資産は目減りしてしまう


毎年モノやサービスの値段が上がり続ければ賃金も上がると考えられる。物価が上がっているのに給料が上がらない会社では人が離れていってしまうからだ。物価の上昇がこの先も続くと企業も信じられれば提供しているモノやサービスの値上げをして、その企業で働く人の給料も上がっていくはずだ。


日銀は、円安を利用して輸入インフレを発生させることには成功している。海外の中央銀行が物価上昇を抑制するために金利を上げているが、日銀はその逆で日本人に物価上昇が続くことが当たり前という考えを浸透させたいのだ。米国の中央銀行FRBと日銀では、方針がまったく逆なのだ。


米国のインフレ率がピークアウトするかもしれないと円高が進んだが、将来的な「円安リスク」は考えておく方がいいだろう。円安による物価高に給料が追い付くまであなたの資産は耐えられるのかを考えて欲しい。物価上昇が続く今、預貯金だけでは資産が目減りしていってしまう。物価上昇と同じように上昇する「資産」を持つことが対策となる。家計管理と円預金以外の「資産」を作ることが重要なのだ。

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【執筆者】
川畑明美●ファイナンシャルプランナー 「私立中学に行きたいと」子どもに言われてから、お金に向き合い赤字家計からたった6年で2000万円を貯蓄した経験をもとに家計管理と資産運用を教えている。HP:https://www.akemikawabata.com/