20世紀後半、GUTAIが現代美術史に残した革新の軌跡を大阪中之島で体感せよ

  • 写真・文:中島良平

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大阪中之島美術館展示風景より 手前:田中敦子『電気服』1956/86年(高松市美術館蔵) 奥の壁面に展示されているのは、田中敦子がクレヨンや水彩で描いた『無題(1)』から『無題(10)』(1956年)の10点。すべて大阪中之島美術館の収蔵作品であり、『電気服』の構想の一部が見て取れる。©︎Kanayama Akira and Tanaka Atsuko Association

1954年に兵庫県の芦屋で結成された美術家集団「具体美術協会(以下、具体)」。戦前より活躍していた画家の吉原治良を中心に、「われわれの精神が自由であるという証を具体的に提示」すべく、多様な造形表現で1972年の解散まで18年に及び活動を続けた集団だ。その具体が、活動拠点となる展示空間「グタイピナコテカ」を1962年に開館した場所が、大阪中之島。2013年にニューヨークのグッゲンハイム美術館で、2019年にはパリのポンピドゥセンターで回顧展が開催されるなど、海外でも広く注目される具体の大規模展が、大阪中之島美術館と国立国際美術館の2会場で共同開催されている。

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大阪中之島美術館展示風景より 元永定正『作品(水)』1956/2022年 1956年の野外具体美術展で発表され、吉原治良から「水の彫刻」として称賛を受けた作品が本展のために再制作された。大阪中之島美術館の建築を特徴づけるパッサージュを彩る。
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大阪中之島美術館展示風景より 吉原治良『無題』1971年(国立国際美術館蔵)「漠然とした私の意欲を絵画としての形象に置き換えなければならぬ」(展覧会図録より)と制作動機を語った吉原。意味やメッセージを作品に込めるのではなく、作品そのものが自由の意思表明になることを望んだ吉原の作品のみならず、具体の多くの作品は無題であったり『作品』とだけタイトルが付いている。
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大阪中之島美術館展示風景より 左から、名坂有子『作品』1964年頃(芦屋市立美術博物館蔵)、名坂有子『作品』1964年(宮城県美術館蔵) 名坂が目指したのは、「知覚における未知の開拓」。作品の前に立つと、視覚表現としての絵画とその物質性を実感できる。
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大阪中之島美術館展示風景より 山崎つる子『作品』1957/2001年(芦屋市立美術博物館蔵) 「会期中批評家の方によく云われた言葉の一つが『内容がない』と云う事であった。しかし『何もない』『空っぽ』と云う響きは如何にも楽しい」。具体の作品がもつ強さの裏側を垣間見た気分にさせてくれる言葉だ。

1983年の構想開始から開館までにおよそ40年を要した大阪中之島美術館は、長い期間をかけて作品収集を続けてきたのだが、その方針のひとつに「大阪と関わりのある近代・現代美術の作品と資料」を掲げている。具体の作品を収集・研究することは必然であり、実際に吉原治良の作品約800点をはじめ数多くの作品を収蔵。開館後の早い段階で大規模な展覧会を行うことを悲願としていた。そして同時に、道路を一本隔てた位置に隣接する国立国際美術館と、いずれ共同企画を実現しようという話もしていた。実際問題としては行政の管轄も異なり、美術館それぞれに指針があるため、巡回展は別として複数の公立美術館での共同企画展というのは非常に珍しい。しかし両館は、中之島を文化ゾーンとして発展させる意志を共有している。館長同士、学芸員同士の打ち合わせを重ね、共同開催の実現に至った。

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国立国際美術館展示風景より 白髪一雄『赤い丸太』1955/85年(兵庫県立美術館・山村コレクション) 地下2階展示室に下りると最初に出迎えてくれるのが、裸足の足裏でキャンバスの上に乗って描いた絵画作品で知られる白髪一雄の立体作品。
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国立国際美術館展示風景より 左から、吉原通雄『作品A』1959年(兵庫県立美術館・山村コレクション)、上前智祐『作品』1960年(芦屋市立美術博物館蔵)、白髪富士子『作品No.1』1961年(高松市美術館蔵) 展示第1章「握手の仕方」。「握手」という言葉で吉原が1956年に出した「具体美術宣言」にアプローチする。

設立当初、具体は画家集団だった。そこから「人のまねをするな、今までにないものをつくれ」という吉原の指導のもと、メンバーを増やしながら表現が多様化していった。オリジナルであることにこだわった具体の先駆性と独創性。絵画という枠組みから自由になることを目指すと同時に、絵画を改めて解釈し、解体し再構築する試みが多様な作家によって行われた。そして、吉原は美術のあるべき姿を「人間精神と物質とが対立したまま、握手している」状態であると考え、そのコンセプトに則って制作する作家たちを具体に迎え入れていった。

大阪中之島美術館での展示テーマは「分化」。具体の表現が多様であることは大前提だ。先駆性と独創性の内実に迫るために具体の制作からいくつかの要素を抽出し、「オリジナリティ」にこだわった吉原がどのような表現を受け入れてきたのかが最大限可視化される。一方、国立国際美術館のテーマは「統合」。「絵画」から自由になることを目指し、必ずしも一枚岩ではなく参加作家たちがそれぞれオリジナルであるべく造形は多様化したが、存在感の強すぎるマテリアルを使用したり、徹底したフォルムの破壊を行ったり、俯瞰したときにはいくつかの傾向が見出せる。作家ごとの差異をあぶり出しながら、「統合」を目指す。

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国立国際美術館展示風景より 松谷武判『WORK 65-E』1965年(京都国立近代美術館蔵)「イメージに球体で何か膨らんだ形が脳裡にやきつき、具体的によいマテリアルを探していた処、たまたまビニル接着剤をキャンバスに流し、表面がある程度の厚さに乾くと、キャンバスを逆にし下からナイフで切って球場に開いたり、ストローで空気を入れ球状に膨らます」(松谷武判『セメダイン・サークル』1964年より)
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国立国際美術館展示風景より 左から、元永定正『作品65-1』1965年(西宮市大谷記念美術館蔵)、山崎つる子『赤』1965/85年(兵庫県立美術館・山村コレクション)、山崎つる子『作品』1967年(高松市美術館蔵) 思わず何かを読み取りたくなってしまうが、ただ赤を感じ、その空間で絵を見ればよい。そんな思いが頭に浮かぶ。
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国立国際美術館展示風景より 聴濤襄治『WORK-2-7-68』1968年(芦屋市立美術博物館蔵) モーターによって中央の円形部分の内側で、光がうごめき続ける。鏡面に映り込んでいるのは、同じ空間に展示された田中敦子による絵画作品。
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国立国際美術館展示風景より 村上三郎『あらゆる風景』1956/92年ごろ(個人蔵) 空の額縁をイメージしたこの作品は大阪中之島美術館にも展示されているが、場所により変化する作品の風景を味わいたい。©︎MURAKAMI Tomohiko

いずれの会場の展示も、隣に置かれた作品との関係性なども考慮しながら、個別の作品を鑑賞すると同時に大きな文脈での展示の解釈にも意識を向けて味わいたい。戦後日本の現代アートの世界で、具体は大きな足跡を残した。二館の展示に足を運び、革新の堆積とも呼びたくなるその物量にも圧倒されてほしい。

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大阪中之島美術館展示風景より 向井修二『アバター』2022年 意味をもつ記号を無化してしまおうと多様な表現を続ける向井。大阪中之島美術館の菅谷富夫館長のアバター5体をつくり、記号でスタイリングして館内に点在させている。
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大阪中之島美術館展示風景より 向井修二『記号化されたトイレ』2022年 5階の男女トイレも向井によって記号化。「ただ『よくまあこれだけ画きこんだ』といいたげにそこいらを見回しているお客の姿を見ると記号の世界にとびこんだ人間という名の記号がとどまっているようでおもしろい光景だ」

大阪中之島美術館 国立国際美術館 共同企画

すべて未知の世界へ — GUTAI 分化と統合

開催期間:〜2023年1月9日(月・祝)
開催場所:大阪中之島美術館5階展示室、国立国際美術館地下2階展示室

[大阪中之島美術館]
大阪府大阪市北区中之島4-3-1(大阪中之島美術館)
TEL:06-4301-7285(大阪市総合コールセンター)
開館時間:10時〜17時
※展示室入場は閉館の30分前まで
休館日:月(1月2日、1月9日は開館)、12月31日(土)、1月1日(日・祝)
入館料:2館共通券¥2,500、一般¥1,400
https://nakka-art.jp/

[国立国際美術館]
大阪府大阪市北区中之島4-2-55
TEL:06-6447-4680(代表)
開館時間:10時〜17時
※金・土20:00まで
※展示室入場は閉館の30分前まで
休館日:月(1月9日は開館)、12月28日(水)〜1月3日(火)
入館料:2館共通券¥2,500、一般¥1,200
https://www.nmao.go.jp/