パリに初上陸した老舗アート・フェア「アートバーゼル」、世界から有名ギャラリーが集結

  • 文:田所優季
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10月の第3週、「Paris + par Art Basel」の第1回目がGrand Palais Éphémèreで閉幕した。国際的なアートフェアの世界は、「Frieze」と「Art Basel」の2大巨頭の間で徐々に二極化が進んおり、前者は2003年にロンドンで発祥し、2012年にNY、2019年からLA、先月からソウルに拡大。もうひとつは、1970年にバーゼルで始まり、2002年にマイアミ、2008年に香港に拡大した。そして、2022年パリに上陸を果たした。

昨年1月、アートバーゼルがパリでアートフェアを開催すると発表したのがすべての始まりだった。1974年から続くパリの歴史あるアートフェア「FIAC」がグランパレ・エフェメールで開催するアートフェアの枠を更新しなかったため、アートバーゼルがその枠を引き継ぐことになったのだ。世界で最も影響力が高いコンテンポラリーアートフェアとして認知されているアートバーゼルのパリ上陸は大きな話題となり、多くの老舗ギャラリーが「Paris + par Art Basel」と名付けられた新しいフェアに参加表明。最終的に、パリに拠点を持つギャラリーを中心に156のギャラリーが集結した。

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©Courtesy of Paris+ par Art Basel.jpg©Courtesy of Paris+ par Art Basel

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会場でギャラリストやコレクターに話を聞くと、新しいフェアは新鮮な空気をもたらし、イベントをより国際的なものにしているというのが、全員の一致した意見だった。会場には、世界各国から集まったコレクターやキュレーター、美術館など、驚くほどハイレベルな人々が集まり、最大で4万人が来場。特に初日の10月19日のVIPデーの盛況ぶりは凄まじく、セールスも好調だったとギャラリストはコメントしている。

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Lucio Fontana、Alberto Burri、Francis BaconからChristo、Picassoまで、美術史に残る巨匠たちの最高峰の作品が多くのギャラリーに登場。

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ロンドン、パリ、ザルツブルク、ソウルに拠点があるインターナショナルギャラリーThaddeus Ropacでは、ミニマリストの巨匠・Donald Juddの作品、アメリカ人アーティスト・Robert Rauschenbergの金属とプラスチックの彫刻作品、ドイツ人アーティスト・Georg Baselitzの作品を紹介。

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202210_Paris+ArtBasel-22.jpgパリのThe Galerie Christophe Gaillardはコンテンポラリーアートを扱うギャラリーで、所属のアーティストによる作品を展示。Eric Baudartは、デュシャンのレディメイドの概念に由来する、廃棄物、産業資材、機械の残骸に美を見出す作品を制作している。廃棄物に関連した題材やプラスチック、日用品を使用し、混沌とした彫刻作品を作り上げるアーティスト・Anita Molineroの作品も見られた。同ギャラリーは女性アーティストの活動を支援していると語っていた。

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デュッセルドルフとベルリンを拠点にミニマル、コンセプチュアルアート、アルテ・ポーヴェラ(1960年代後半から始まった「貧しい芸術」を意味するイタリアの芸術運動。主に鉛、新聞紙、木材、石、ロープなどの素材を用いた)を主に扱っているギャラリー Konrad Fischerは、アーティスト・Giovanni Anselmoの作品や、写真家デュオ・Bernd & Hilla Becherよるドイツ産業革命期の建物や産業遺物を撮影したクラシック・タイポロジーシリーズの作品が集められ、ミニマルな空間作りが目を引いた。

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フォトグラファー・Wolfgang Tillmans’の作品も最近ニューヨークのMOMAで始まった展覧会の影響で、Buchholz(ベルリン、ケルン、ニューヨーク)とGalerie Chantal Crousel(パリ)のギャラリーに作品があり、多くの要望があったそうだ。

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Kukje Gallery(ソウル)では、モノクロームアートトレンドの第一人者・Ha Chong-Hyunの美しい作品と、金沢21世紀美術館でも有名なアーティスト・Anish Kapoorの奥行きが感じられなくなるような黒い3次元の作品が展示されていたが、多くの人が誤って作品に触れてしまい、作品が台無しにならないように、机を作品の前に移動させなければならなかったそうだ。


日本からは2つのギャラリーのみで、Taka Ishii Gallery(東京)は「ハイブリッド・フィギュア」をテーマに、写真家・荒木経惟、日本画を洋画に取り入れた抽象具象画家・山下紘加などの作品を展示した。

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Take Ninagawa(東京)は、コラージュ、アッサンブラージュ、インスタレーションを通して素材を探求する日本人のアーティスト・大竹伸朗による、紙、ダンボール、金属を使ったミックステクニックによる都市の密集した環境空間を再現する作品と、ジョージア人アーティスト・Thea Djordjadzeによる空間との関係の探求に基づいた建築物の「3-dimensional paintings」などを展示。


ニューヨーク、ロンドン、パリに拠点があるインターナショナルギャラリーMarian Goodmanでは、杉本博司の幽玄な写真作品を見る事が出来た。Dvir Gallery(パリ)ではプラダ青山で展覧会を開催したSimon Fujiwaraの作品が展示され、多く販売されたそうだ。ミラノ、ロンドン、パリ、香港を拠点とするインターナショナルギャラリーMassimo De Carloで五木田智央の作品が展示されたが、初日にすぐに完売し、彼の勢いが伺える。意外だったのは、いつもは国際的なアートフェアで存在感を示している日本の抽象画の巨匠、白髪一雄の作品を見ることができなかったことだ。

アジアからのギャラリー、日本のアーティストもそれほど見かけず、アジア勢の勢力は少し弱かった印象だ。

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新進気鋭の注目作家が集結

会場には“Galeries Émergentes(新進気鋭のギャラリー)”というゾーンが設けられ、16のギャラリーがアーティストの個展を開催。

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Marfá(ベイルート)は、アーティスト・Carine Aounの個展「Matter of Duration(時間の問題)」を発表。彼女は大きな紙を選んで青くプリントし続け、インクを何層にも重ね、紙が飽和する直前で止め、最終的にプリントにかかった時間の分だけタイトルを付けた。また、プリントと同じブルーのインクを使った「エンドレス」な噴水も設置された。データと時間という概念に基づき、私たちが暮らすデジタル世界において、目に見えるものを作ることの重要性を訴えており、興味深い展示だった。

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上海のアートシーンで最も興味深いギャラリーのひとつであるAntenna Spaceは、絵画と物の相互作用にこだわってきたアーティスト・Yong Xiang Liの個展を開催した。木製のパネルとステンレス製の蝶番を組み合わせたシリーズで、蝶番によって各パーツが空間内で立体的に折り畳まれ、実際には座れないが、イスのような感覚をもたらした。

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Heidi gallery(ベルリン)は、ジャマイカ人アーティスト・Akeem Smithによる作品を展示し、Galeries Émergentesの中でベストブース賞を獲得した。彼はジャマイカのダンスホール文化に影響を受け、ダンスホールのイベントのフライヤーが貼られたままの金属片から作品を作り上げた。

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各ギャラリーで好調な売れ行き

世界中に拠点がある世界最大のギャラリーの一つであるHauser and Wirthではアメリカ人アーティスト・George Condoの絵画が265万ドルで、同じく世界最大のギャラリーの一つであるPace Galleryでは、アメリカ人画家・ Robert Motherwellの絵画がは650万米ドルで、パリのギャラリーKamel Mennourではスイスの彫刻家・Alberto Giacomettiのブロンズ像2点がそれぞれ145万ユーロと275万ユーロで販売とされている。

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また、昨年ポンピドゥー・センターで行われたドイツ人アーティスト・Georg Baselitzの回顧展の後、多くのギャラリーが彼の作品を紹介し、そちらも数百万ドルで売却された。ニューヨークのグッゲンハイム美術館で大規模な展覧会を開催しているアメリカ人アーティスト・Alex Katzの販売も好調であった。

ベルリン、ロンドン、ロサンゼルスに拠点を置くSprüth Maegersでは、コンセプチュアリズム、写真、絵画など、現代美術の新しい方向性を提示し続ける若手アーティスト・Anne Imhofの作品が展示され、好調な売れ行きだったとされる。

90年代のYBA(ヤング・ブリティッシュ・アーティスト)ムーブメントを牽引したWhite cubeでは、ロンドンのセント・パンクラス駅に降り立った時に時計と共に目にするピンクの文字でも有名なアーティスト・Tracey Eminの絵画のセレクションが初日で完売した。

今回のフェアでは世界中からコレクター、ディーラー、キュレーター、評論家、アドバイザー、アーティストが集まり、販売も華々しい結果になったようだ。

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「Paris Internationale」

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同時期にヴァンドーム広場とオペラ座の間で開催されていた第8回「Paris Internationale」は、26カ国から60の若い小規模ギャラリーが参加する独立系フェアで、「Art Basel」とのつながりも強く、ディレクターのClément Delépineは、実は2016年の「Paris Internationale」の共同ディレクターを務めている。

会場は、フランス人写真家Nadar.の元スタジオを完全改修した歴史的建造物だった。

日本からはMisako & Rosen(東京)が日本人アーティスト・南川史門のペインティングを展示していた。Project Native Informant (ロンドン)、BQ(ベルリン)、Theta(ニューヨーク)などの新進気鋭なギャラリーが並んだ。

同時開催とあって両方のフェアを行き来したコレクターは多かったであろう。

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パリのアートシーンの今後

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パリはここ数年、コンテンポラリーアート系の美術館の誕生が多く、すっかりコンテンポラリーアートの中心地の一つとなった。「Paris + par Art Basel」の一般1日券は40ユーロ(約5600円)と他の「Art Basel」よりもお手頃な価格設定もあってか、一般のアート好きな来場客も目立った。パリという立地もあって、旅行の際に美術館だけではなく、アートフェアに寄るという事が普通になっていきそうだ。

パリは今、エネルギーに満ち溢れ、世界のダイナミックな国際アートシーンの中で、その地位を再確認している。この2つのフェアは、それを反映したものといえそうだ。

Paris+ par Art Basel

https://parisplus.artbasel.com/


Paris Internationale

https://parisinternationale.com/

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【画像】

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