【Intensity. Driven.】アストンマーティンである理由Vol.3 「王室で引き継がれる、DB6のオープンモデル」

  • 文:サトータケシ
  • 写真:アストンマーティン、getty images
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1970年代当時のチャールズ皇太子がプライベートでDB6ヴォランテを運転している様子。Photo by Getty Images

王室で引き継がれる、アストンマーティンDB6 Volante

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ヴォランテのことをアストンマーティンDB5の後継モデルとして1965年に登場したDB6は、ホイールベースが95mm伸ばされたことと、ダックテールと呼ばれるテールの形状を採用したことがポイント。前者は直進安定性を高め、後者は高速走行時に車体を地面に押しつけるように空気の流れを誘導する。『CARGRAPHIC』誌1970年8月号によると、日本における当時の価格は880万円とある。これはアストンマーティンの広報写真。

「ロイヤル・ワラント」を簡単に説明すれば、英国王室御用達ということになる。ワラント(証明書)を授ける資格があるのは王位継承者で、エディンバラ公フィリップとエリザベス女王が亡くなったいま、その資格を持つのはチャールズ国王のみとなる。

ロイヤル・ワラントの公式ホームページを訪ねると、そこにアストンマーティンの名前を見つけることができる。そう、チャールズ国王は、アストンマーティンを愛用しているのだ。しかも、50年以上の長きにわたって、乗り続けている。

チャールズ国王の愛車は、1970年型の「アストンマーティンDB6・ヴォランテ」。21歳の誕生日に、故エリザベス女王からプレゼントされたものだ。ヴォランテとは「開放感」とか「軽快さ」といった意味をもつイタリア語で、アストンマーティンではオープンモデルをこう呼ぶ。なんとも粋なネーミングだ。DBとは、第二次大戦後にアストンマーティンのオーナーとなったイギリス人実業家のデイヴィッド・ブラウンを指す。

DB6が生まれた時代背景を簡単に説明すると、戦前から引き続き、第二次大戦後もアストンマーティンはスポーツカーレースを席巻した。特に59年のル・マン24時間レースを制するなど、50年代に快進撃を見せた。DBシリーズはこうした時期に開発されたモデル。65年にDB5からバトンを受けたDB6は、ボディを伸長することで高速での安定性と居住空間を確保、俊敏なスポーツカーとしてだけでなく、ラグジュアリーなグランドツアラーとして使われることも視野にいれたモデルだった。

チャールズ国王のアストンマーティンDB6ヴォランテは、69年7月の小変更で太いタイヤとパワーステアリングが与えられた「マークⅡ」とも「後期型」とも呼ばれる仕様。記録によると、マークⅡのDB6ヴォランテの生産台数はわずか38台だったというから、いかに貴重なモデルであるかがわかる。

排気量3995ccの直列6気筒DOHCエンジンは最高出力286psを発生、最高速度は240km/hと公表されている。50年以上も前にこれだけの高性能車を開発したアストンマーティンの技術力にも驚かされるが、このクルマを操るチャールズ国王も筋金入りのエンスージアスト(熱狂的なクルマ好き)だと言えるだろう。

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全長✕全幅✕全高=4620✕1680✕1355mm。ホイールベースは2584mm。1958年デビューのDB4 から一貫して採用されるスチールのプラットフォーム上に鋼管フレームを組み、アルミの外板を被せるスーパーレジェーラ工法で生産された。この時代でも、幌の開閉はすでに電動式だった。これアストンマーティンの広報写真。

そして2021年、当時は皇太子だったチャールズ国王は、愛するアストンマーティンDB6ヴォランテの改造を決断する。それは、バイオエタノールを燃料として使うための改造で、若い頃から環境問題に積極的に発言してきた彼らしい判断だった。愛するDB6を、できるだけ長く乗り続けたいという意志の表れだろう。

72歳になった22年夏も、英連邦の国や地域のアスリートが集まるコモンウェルスゲームズと呼ばれるスポーツ競技会の開会式に、自らアストンマーティンDB6ヴォランテのステアリングホイールを握って登場したという。

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写真は5段MT仕様だが、3段AT仕様もラインアップした。飾りや派手な色づかいがないレーシーで機能的なインテリアが、いかにもイギリスのスポーツカーらしい。これはアストンマーティンの広報写真。

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2011年4月29日、バッキンガム宮殿でのパーティを終えてから、アストンマーティンDB6ヴォランテでさっそうと走り出したウィリアム王子(当時)とキャサリン妃。Photo by Getty Images

チャールズ国王のアストンマーティンDB6ヴォランテは、ロイヤルウェディングでも脚光を浴びた。2011年、ウィリアム王子(当時)とキャサリン妃の挙式後、バッキンガム宮殿で開催した披露宴を終えたふたりは、屋根を開けたDB6で颯爽と現れた。風船などで彩られたこのクルマでパレード走行を行ったのだ。ウェディングドレスを着たキャサリン妃が助手席に座ったアストンマーティンDB6ヴォランテは観衆が集まった沿道をさっそうと走り抜けた。

この報道を見た時、「チャールズ皇太子(当時)は、息子にDB6を譲ったのか」と早合点してしまった。けれども前述した通り、2022年のいまもチャールズ国王は元気にアストンマーティンDB6ヴォランテをドライブしている。望めば様々な選択肢があるはずなのに50年以上も乗り続けているということが、このクルマがいかに魅力的であるかを示している。

いま、改めてロイヤルウェディングの後に父のDB6をドライブするウィリアム皇太子の嬉々とした表情を見ると、彼もこのクルマに誇りと愛情を持っていることが伝わってくる。将来的には、このクルマは王室で引き継がれていくのだろう。エリザベス女王からチャールズ国王、そしてウィリアム皇太子へ──。イギリスでは、まもなくウィリアム皇太子がロイヤル・ワラントのグラントー(資格者)として認められると報道されている。