高円寺に誕生! テリー・エリス&北村恵子の新ショップ「MOGI Folk Art」に注目

  • 写真:河内 彩 文:牧野容子
Share:

221011_036+.jpg
BEAMSロンドンオフィスに勤務していた1986年からバイイングを担当してきたテリー・エリスと北村恵子。90年代から北欧家具や柳宗理のバタフライスツールなどをあらためて紹介したことでも知られる。2003年「フェニカ」を立ち上げ、22年に独立。

セレクトショップBEAMSのレーベル「フェニカ」で長年、企画やバイイングを手がけてきたテリー・エリスと北村恵子が、東京・高円寺に新しいショップ「MOGI Folk Art」をオープンさせた。

駅から商店街のアーケードを抜けて路地に入ると、茶色いボードに“MOGI”の文字が見えてくる。ファッション、家具、インテリア、雑貨など、ふたりの目を通して「いい」と思ったものを世界各地から発掘・紹介し、常に話題を呼んできたエリスさんと北村さん。その新天地にはいったいどんなものが集まっているのか。興味津々、期待に胸を膨らませたお客さんが、10月のオープン以来、ショップに詰めかけている。

---fadeinPager---

221011_001+.jpg
扉の向こうに広がるのは一見、日本ともヨーロッパともつかない不思議な空間。内装の隅々まで二人の好きなものでまとめられている。壁紙は休みの日を利用して、設計事務所のスタッフをはじめ、仲間と一緒にすべて自分たちで貼ったという。

木枠のガラス扉を開けて中に入ると、目に入るのは白黒市松模様の床。これはかつてふたりが暮らしていたロンドンの築140年の家のバスルームを再現したものだ。ロンドンの床材はリノリウムだったが、ここでは岐阜県多治見で焼かれたタイルを使用。階段から奥に伸びるスペースの床には、北海道産のキハダや屋久島産の杉の無垢材を使っている。

商品が並ぶ棚やテーブルはすべて木製で、李朝の箪笥があるかと思えば、インド製や北欧デンマーク製のヴィンテージも。壁には和紙やイギリス製の壁紙を貼り、視覚的にはアジアともヨーロッパともつかない不思議な感じだが、すべてに共通する自然素材の風合いが、とても居心地のいい空間をつくり出している。

221011_005+.jpg
店内の棚には、日本各地の窯元から届けられる新作のうつわが並ぶ。同じデザインでも風合いが一つひとつ違うのが手仕事の面白さ。

品揃えでまず驚くのはうつわの充実ぶりだ。沖縄の北窯、室生窯、鳥取の中井窯、島根の出西窯、大分の坂本浩二窯(小鹿田焼)、栃木の成井窯、えのきだ窯(ともに益子焼)、ほかにも長崎や北海道など、日本各地の窯元に別注したうつわが棚を埋め尽くす。どれも、ふたりがつくり手一人ひとりと時間をかけて話し合うことで生まれたデザインで、ここでしか買えないものばかり。たとえば益子の二つの窯で製作された小ぶりな取っ手のマグカップは、1960年代前後のイギリスでよくつくられていたが、いまではつくられていないデザイン。日本のつくり手によって1点1点、独特な温かみのある味わいのカップができあがった。鳥取・中井窯の染め分けの皿は、普段は白・黒・緑の直線的なモダンなデザインだが、「MOGI」では明治時代中期に鳥取で焼かれていた皿をもとに、ゆるゆるとした線のにじみ具合の楽しさを表現。という具合に、それぞれの器に込められたストーリーを聞くのも楽しい。

221011_011+.jpg
3色の染め分け皿は鳥取・中井窯から。淡い色合いの皿やボウルは島根県松江市や出雲市の窯元から。店内の棚やテーブルをよく見ていると、金城次郎や松田共司(ともに沖縄)、坂本章(鳥取)など、作家の1点ものも
221011_014+.jpg
オリジナルのTシャツ、スウェットから古着まで、衣料も充実。オープン以来、爆発的に売れている「KOENJI」Tシャツや、1952年のヘルシンキ五輪のジャマイカチームのユニホームをイメージにした「JAMAICA」スウェットも人気。

洋服や靴の別注ものでは、「KOENJI」と「JAMAICA」のオリジナルTシャツやスウェット、バラクーダの「G9」をベースにしたオイルクロスのジャケットや「ムーンスター」のスニーカーなど。また、昨今人気のバケットハットにもこだわりが。「バケットハットはプレッピーの象徴的な帽子で、いまはライニング(裏地)が付いているタイプがほとんどですが、もともと裏地はついていませんでした。裏地なしでつくると帽子の内側の縫製が丸見えになるので、とても丁寧な仕事が求められ、それだけ時間も手間もかかります。でも私たちはどうしてもオリジナルに近いものをつくりたかったのでメーカーさんにお願いしたら、腕のいい職人さんを探してくださり、実現させることができました」と北村さん。さらに、エリスさんが買い集めたオールデンの靴やマリメッコのシャツ、ヴィンテージのリーバイス・ジーンズなども並ぶ。

221011_012+.jpg
90年代から2010年頃までのオールデンのコレクションは、パリやニューヨークで購入したもの。オールデンのファンには垂涎ものだ。古いもので10万円から。コードバンの革ではないものは、もう少しお手頃な価格。

---fadeinPager---

221011_013+.jpg
使いやすさにこだわったトートバックは、持ち手と同じ素材のテープを内側上部に貼って厚みを出したことで、口の形が安定し、片手でも物が入れやすくなっている。テーブルの上などに置いても倒れにくい。右端の木の仮面は西アフリカ、コートジボワールのバウレ族がダンスの際に使うプレプレ・マスク。他にも数色あり。

221011_026+.jpg

李朝の箪笥の上に並ぶ、金継ぎをした小鹿田焼とメキシコ製の壺、鳥取・中井窯の坂本章さんの新作の皿。この一角にも二人の世界観が凝縮されている。右はインド製のヴィンテージのガラス棚。

ところで、「MOGI Folk Art」という店の名前には、どんな思いが込められているのだろうか。
「私たちは90年代に日本民藝館の館長をされていた柳宗理さんと出会って以来、民藝(=フォーク・クラフト)の魅力に開眼して自分たちの生活に取り入れ、『フェニカ』でも民藝に関わる仕事を数多くしてきました。でも実は、私たちにはほかにも好きなものがたくさんあるのです。それも見ていただきたくて、この店には自分たちのコレクションも出しています。アフリカの部族の人たちがつくった仮面やクロス、アイヌの木彫り、日本の江戸時代の店の看板など、もともとは生活に必要なものとして生み出されたものですが、時代を経て、私たちにとってそれはまさにアート。そのような思いから、店の名前にFolk Artを入れました。MOGIは私の母の旧姓からとったものです」と北村さん。他にもアイヌの刺繍ジャケット、グアテマラのビンテージ・ポンチョや絵画、東北の蓑など、ちょっとした民族資料館のような掘り出し物がいっぱいだ。

221011_018+.jpg
左は沖縄・ガラス工房清天の松田清春さんによる琉球ガラスのコップ。フィンランドのブランド「イッタラ」の定番「カルティオ」から発想を得てつくり始めたものだ。右側の薄いグラスは鳥取ガラス工房saonから。

---fadeinPager---

221011_025+.jpg
左は長野県の家具メーカー「松本民芸家具」の職人たちと1年かけて話し合いを続けてつくり上げたウィンザー・タイプのオリジナルのロッキングチェア。節や小さな傷のある木材も廃棄せず使い、漆の塗装なしで仕上げる。自然な木の風合いを活かしながら使い続けるほど味わいが出てくる。右はアンティークのウィンザー・チェア。熊の顔の彫り物はアイヌの作家によるもの。

221011_022+.jpg
木製スツールは左右ともに西アフリカ・ブルキナファソから。右上はアイヌの作家によるクマの木彫り。他にも、細かい亀の彫刻が施されたコートジボワールの椅子など、ユニークなスツールが点在。

これまでロンドンと東京の2拠点生活を続けていたふたりだが、コロナ禍以降は日本に落ち着き、ついにお店をオープン。でも、どうして高円寺に? エリスさんがこう語る。

「以前から中古レコードや古着を買いに高円寺にはよく来ていて、この街が気に入っていました。だから店を出すならここがいいなと思ったのです。高円寺に買い物に来る人は古着だけではなくて、ヴィンテージに興味があったり、自分が好きなものを追求する人が多い。商品の話をじっくり聞いて、いいなと思ったら少し値段が高くても買うような、“モノが好きな人”がたくさんいらっしゃることを、この店を始めて改めて感じています」

お客さんと一緒に「ね、これいいですよね?」と話す時間も大切に、楽しんでいるように見えるおふたり。今後もニットウェアなど新しいモノが続々と店に並ぶ予定だ。

221011_033+.jpg
高円寺駅南口、古着ショップがひしめき合う「高円寺パル商店街」を抜けたところにある店舗。茶色のボードに「MOGI」のロゴが目印だ。駅から徒歩約4分。

MOGI Folk Art

住所:東京都杉並区高円寺南 3-45-12 1F
TEL:080-8058-1761
営業時間:12時〜19時
定休日:火、水
Instagram@mogi_shop_tokyomogi_folk_art