
セレクトショップBEAMSのレーベル「フェニカ」で長年、企画やバイイングを手がけてきたテリー・エリスと北村恵子が、東京・高円寺に新しいショップ「MOGI Folk Art」をオープンさせた。
駅から商店街のアーケードを抜けて路地に入ると、茶色いボードに“MOGI”の文字が見えてくる。ファッション、家具、インテリア、雑貨など、ふたりの目を通して「いい」と思ったものを世界各地から発掘・紹介し、常に話題を呼んできたエリスさんと北村さん。その新天地にはいったいどんなものが集まっているのか。興味津々、期待に胸を膨らませたお客さんが、10月のオープン以来、ショップに詰めかけている。
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木枠のガラス扉を開けて中に入ると、目に入るのは白黒市松模様の床。これはかつてふたりが暮らしていたロンドンの築140年の家のバスルームを再現したものだ。ロンドンの床材はリノリウムだったが、ここでは岐阜県多治見で焼かれたタイルを使用。階段から奥に伸びるスペースの床には、北海道産のキハダや屋久島産の杉の無垢材を使っている。
商品が並ぶ棚やテーブルはすべて木製で、李朝の箪笥があるかと思えば、インド製や北欧デンマーク製のヴィンテージも。壁には和紙やイギリス製の壁紙を貼り、視覚的にはアジアともヨーロッパともつかない不思議な感じだが、すべてに共通する自然素材の風合いが、とても居心地のいい空間をつくり出している。

品揃えでまず驚くのはうつわの充実ぶりだ。沖縄の北窯、室生窯、鳥取の中井窯、島根の出西窯、大分の坂本浩二窯(小鹿田焼)、栃木の成井窯、えのきだ窯(ともに益子焼)、ほかにも長崎や北海道など、日本各地の窯元に別注したうつわが棚を埋め尽くす。どれも、ふたりがつくり手一人ひとりと時間をかけて話し合うことで生まれたデザインで、ここでしか買えないものばかり。たとえば益子の二つの窯で製作された小ぶりな取っ手のマグカップは、1960年代前後のイギリスでよくつくられていたが、いまではつくられていないデザイン。日本のつくり手によって1点1点、独特な温かみのある味わいのカップができあがった。鳥取・中井窯の染め分けの皿は、普段は白・黒・緑の直線的なモダンなデザインだが、「MOGI」では明治時代中期に鳥取で焼かれていた皿をもとに、ゆるゆるとした線のにじみ具合の楽しさを表現。という具合に、それぞれの器に込められたストーリーを聞くのも楽しい。


洋服や靴の別注ものでは、「KOENJI」と「JAMAICA」のオリジナルTシャツやスウェット、バラクーダの「G9」をベースにしたオイルクロスのジャケットや「ムーンスター」のスニーカーなど。また、昨今人気のバケットハットにもこだわりが。「バケットハットはプレッピーの象徴的な帽子で、いまはライニング(裏地)が付いているタイプがほとんどですが、もともと裏地はついていませんでした。裏地なしでつくると帽子の内側の縫製が丸見えになるので、とても丁寧な仕事が求められ、それだけ時間も手間もかかります。でも私たちはどうしてもオリジナルに近いものをつくりたかったのでメーカーさんにお願いしたら、腕のいい職人さんを探してくださり、実現させることができました」と北村さん。さらに、エリスさんが買い集めたオールデンの靴やマリメッコのシャツ、ヴィンテージのリーバイス・ジーンズなども並ぶ。

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李朝の箪笥の上に並ぶ、金継ぎをした小鹿田焼とメキシコ製の壺、鳥取・中井窯の坂本章さんの新作の皿。この一角にも二人の世界観が凝縮されている。右はインド製のヴィンテージのガラス棚。
ところで、「MOGI Folk Art」という店の名前には、どんな思いが込められているのだろうか。
「私たちは90年代に日本民藝館の館長をされていた柳宗理さんと出会って以来、民藝(=フォーク・クラフト)の魅力に開眼して自分たちの生活に取り入れ、『フェニカ』でも民藝に関わる仕事を数多くしてきました。でも実は、私たちにはほかにも好きなものがたくさんあるのです。それも見ていただきたくて、この店には自分たちのコレクションも出しています。アフリカの部族の人たちがつくった仮面やクロス、アイヌの木彫り、日本の江戸時代の店の看板など、もともとは生活に必要なものとして生み出されたものですが、時代を経て、私たちにとってそれはまさにアート。そのような思いから、店の名前にFolk Artを入れました。MOGIは私の母の旧姓からとったものです」と北村さん。他にもアイヌの刺繍ジャケット、グアテマラのビンテージ・ポンチョや絵画、東北の蓑など、ちょっとした民族資料館のような掘り出し物がいっぱいだ。

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これまでロンドンと東京の2拠点生活を続けていたふたりだが、コロナ禍以降は日本に落ち着き、ついにお店をオープン。でも、どうして高円寺に? エリスさんがこう語る。
「以前から中古レコードや古着を買いに高円寺にはよく来ていて、この街が気に入っていました。だから店を出すならここがいいなと思ったのです。高円寺に買い物に来る人は古着だけではなくて、ヴィンテージに興味があったり、自分が好きなものを追求する人が多い。商品の話をじっくり聞いて、いいなと思ったら少し値段が高くても買うような、“モノが好きな人”がたくさんいらっしゃることを、この店を始めて改めて感じています」
お客さんと一緒に「ね、これいいですよね?」と話す時間も大切に、楽しんでいるように見えるおふたり。今後もニットウェアなど新しいモノが続々と店に並ぶ予定だ。

MOGI Folk Art
住所:東京都杉並区高円寺南 3-45-12 1F
TEL:080-8058-1761
営業時間:12時〜19時
定休日:火、水
Instagram@mogi_shop_tokyo 、mogi_folk_art