圧倒的な人気を誇った悲劇の皇太子妃、ダイアナが選んだ名靴とは?

  • 文:小暮昌弘(LOST & FOUND)
  • 写真:宇田川 淳
  • スタイリング:井藤成一

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トッズのアイコンシューズというべき「ゴンミーニ」。左はメンズ用で、「ゴンミーニ」を再解釈したユニークな新モデルの「ゴンミーニ バブル」。ソールのラバー・ペブルを大きくデザイン、トゥのデザインもスクエアになった。右のウィメンズ用は「シティ ゴンミーニ」というモデル。ラバー・ペブルをラバーソールに置き換えたもので、その名の通り、街履きに最適な履き心地を持つモデルだ。左:¥75,900、右:¥75,900/ともにトッズ

「大人の名品図鑑」英国王室編 #4

世界約200カ国のなかで「王室」がある国は30に満たないが、「王室」と聞いて多くの人が思い浮かべるのは英国王室ではないだろうか。イギリス国民から圧倒的な支持を受け、その動向はすぐにニュースとなる。いまや英国王室御用達=ロイヤルワラントは完全にブランドのようになっている。今回は、そんな英国王室から愛された名品を取り上げる。

2022年はダイアナ元妃が亡くなって25年という節目の年である。ドキュメンタリー映画『プリンセス・ダイアナ』や、女優クリステン・スチュアートがダイアナ妃を演じた『スペンサー・ダイアナの決意』が公開され、悲劇的な最後を迎えた元妃の記憶が甦ったという人も多いだろう。

ダイアナ元妃は、イギリスの名門貴族スペンサー伯爵の三女として1961年7月1日に生まれる。父方の先祖と母親の名前をとって「ダイアナ・フランセス」と名付けられた。チャールズ皇太子(現在の国王チャールズ3世)と交際が始まったのは1979年のパーティでと言われている。その前から2人は知り合いだったが、パーティ以降ダイアナ元妃は皇太子から招待を受けるようになり、1981年、ウィンザー城で皇太子から求婚され、そのプロポーズを元妃は受け入れたと言われている。

1981年7月29日、2人はセント・ポール大聖堂で結婚式をあげる。『ロイヤルスタイル 英国王室ファッション史』(中野香織著 吉川弘文館)には「海軍司令官の正装もりりしいチャールズ皇太子と、プリンセス・オブ・ウェールズとなったばかりのダイアナ妃が、赤い絨毯が敷き詰められた階段をのぼっていく。階段を覆いつくさんばかりの八メートル近いヴェールは、ロイヤルウェディング史上、最長である」と書かれている。全世界の人々の視線を釘付けにし、ダイアナ元妃が最高の幸福を得た瞬間だったに違いない。しかし幸福は長くは続かなかった。元妃は王室のしきたりだらけの生活に馴染めず、摂食障害などの病気まで発症、ウィリアム、ヘンリーの2人の王子を授かってはいるが、皇太子との関係も徐々に冷えていった。そして1992年に別居、4年後の1996年、ついに離婚が成立する。

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「なりたい女性」の1位に選ばれるほどのファッションセンス

結婚当時、元妃がいちばん気をつかっていたのはファッションだったという。英国のファッション界に貢献したいと考え、公的な場では英国ブランドの服を多く着用、とりわけ気に入っていたのは後々キャサリン王太子妃も愛用するキャサリン・ウォーカーがデザインした服だったという。当時、イギリス女性を対象にしたアンケートで、「なりたい女性」の1位に選ばれたのが彼女だったと聞けば、その影響力がわかるだろう。

そして彼女のファッションセンスは別居後にさらに磨きがかかる。同書で中野香織は「保守的な王室ファッションを脱皮してセクシーな最新モードを着こなし、慈善活動に邁進して世界を飛び回り、強さと美しさと聖母のような慈愛で人々を魅了して、ダイアナ妃は世界のスーパースターになっていく」と書く。

シャネル、サンローラン、モスキーノ、ヴェルサーチなどを着用し、皇太子妃時代以上に世界中から注目を集めるようになる。そしてその視線を利用するかのように、彼女は対人地雷撲滅キャンペーンのためにサラエボに多くの取材陣を連れて訪れるなど、エイズ、ハンセン病、地雷除去などの国際的な慈善活動に熱心に取り組むようになる。

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ダイアナが愛用したトッズの「ゴンミーニ」

そんな活動をする彼女が頻繁に履いたのが、イタリアを代表するブランド、トッズの「ゴンミーニ」と呼ばれる名靴だ。

トッズの創業者であるディエゴ・デッラ・ヴァッレは、靴の産地として知られるイタリア・マルケ州で三代続く靴工房の家系に生まれた。皮革製品づくりの伝統の継承と現代的なライフスタイルにマッチした製品を開発することを目指した彼は、自社ブランドとして「トッズ」を1970年代後期に創設。ブランド名は「世界中の人々に同じように発音され、記憶に残る名前」と彼が命名したものだ。

ダイアナ元妃が愛用した同ブランドの「ゴンミーニ」は、ソールに100個以上のラバー・ペブル(ゴム製の突起)がはめ込まれた、ハンドメイドのドライビングシューズ。一枚革で仕立てられたその靴はまるで「手袋をはめたよう」と評されるほど、足に馴染む。創業当時はわずか1000足の生産からスタートしたという話も伝え聞くが、現在までベストセラーを続けるトッズのアイコン的なシューズとなった。ちなみに男性でこの靴をこよなく愛したのがイタリア一の洒落者として知られるフィアットの元会長、ジャンニ・アニエッリ。彼はスーツにも「ゴンミーニ」のブーツタイプを履いていた。トッズは現在では靴だけでなく、バッグやウェアもデザインするビッグメゾンとなり、世界中で人気を集めている。

9年前の2013年、元妃を主人公にした『ダイアナ』という映画が制作されている。人気女優のナオミ・ワッツがダイアナ元妃を演じているが、その映画でもワッツはベージュ系のスリムなパンツに同系色の「ゴンミーニ」を合わせて登場する。トッズもこの映画には協力していて、ほかにもヴェルサーチ、ディオール、ラルフ ローレン、ショパールなどの錚々たるトップブランドが衣裳を提供、元妃が実際に着用していたドレス3着もこの作品に使われていると聞く。

この作品は皇太子と離婚してからの元妃の生活を描いたものだ。多くの人がすでに知っているように、1997年8月30日、元妃が乗ったクルマはパリ市内のトンネルの中央分離帯に激突、当時交際していたボーイフレンドのドディ・アルファイドらとともに事故死する。そのニュースが世界中を駆け巡り、その対応に苦慮する英国王室の姿を描いたのがエリザベス女王の回にも登場した『クィーン』(2006年)という映画だ。このときの女王の冷たい対応で国民の不満は高まり、君主制廃止論の声が上がったと言われている。歴史に“もし”はないが、もしダイアナ元妃が生きていて、しかも王妃になっていたなら、来年5月に予定されているチャールズ国王の戴冠式は2人の結婚式以上に世界中から注目されることになっただろう。

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トッズはイタリアの靴の産地、マルケ州で創業されたブランド。2019年、数々のハイブランドでキャリアを積んだヴァルター・キアッポーニがクリエイティブ・ディレクターに就任し、話題を集めた。

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「ゴンミーニ バブル」のソール。大きくなった円錐形のラバー・ペブルが特徴。ペブルが大きくなっても製法は昔と変わらないチューブラー製法。最高の履き心地を備えている。

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定番の「ゴンミーニ」から派生した「ニュー ゴンミーニ」。少しワイドになった木型を採用、ラバー・ペブルが従来よりも大粒になっている。またトゥのデザインもラウンドで、素足で履きたいような色鮮やかなモデル。各¥75,900/トッズ

問い合わせ先/トッズ・ジャパン TEL:0120-102-578

https://www.tods.com

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