EVであるよりロールスロイスであることを優先して開発された「スペクター」が登場

  • 文:小川フミオ
  • Photography: Rolls-Royce Motor Cars
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ロールス・ロイスが、ピュアEV「スペクター Spectre」を、2022年10月に公開した。「ウルトララグジュアリー・スーパークー ペ」という、まったく新しい自動車のクラスの創造に先鞭をつけることになったと謳われる。

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キャビンが後方でしぼられて結果リアフェンダーが張り出しているのがデザインの特徴のひとつ

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私が、スペクターの実車を見たのは、2022年10月の英国。ロンドンから100キロ少々離れたグッドウッドという地にあるロールス・ロイスモーターカーズの本社で。世界各地から集まったジャーナリストの前でお披露目された。

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ロールス・ロイスでは自分たちのことを「モーターカーカンパニーでなくハウス・オブ・ラグジュアリー」と定義している  写真:筆者

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グッドウッドの本社のことを、CEOのトルステン・ミュラー=エトヴェシュ氏は「夢が現実となる場所」と呼ぶ。ロールス・ロイスのオーナーになるというのを”夢”と表現したのだろう。

スペクターは、ピュアEVなので、いままで見たことのない”夢”といってもいいかもしれない。一瞬照明が落とされた舞台に、劇的な効果音とともに登場したのは、ゴールド系の車体色をもつ大ぶりなサイズのクーペボディだった。

それまでいっさいに秘密にされていたスペクター。そのため、はじめて全体像を、しかも実車として見ることが出来たジャーナリストたちの大きなどよめきが会場に満ちた瞬間だ。

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伝統のパンテオングリルだがピュアEVなので空気の採り入れ経路は従来のガソリンモデルとは変わりそう

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まず目をひくのはフロントマスクだ。ロールス・ロイス史上もっともワイドとされるパンテオングリル(ロールス・ロイス車のグリルはそう呼ばれることがある)と、上下2分割のスプリット・ヘッドランプがそなわる。

この グリルひとつとっても、凝りに凝っている。「延べ830時間に及ぶデザインモデリングと風洞実験の成果」と、ロールス・ロイスではする。

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スピリットオブエクスタシーは空力的にリデザインされたという

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「スピリット・オブ・エクスタシー(グリル上の女性のフィギュア)とともに、 空気抵抗係数低減をめざし、はたして、スペクターはロールス・ロイス史上最も空力性能に優れた車となっています」

デザインディレクターのアンダーズ・ウォーミング氏はそう説明してくれた。空気抵抗値は0.25だという。たしかに流麗なスポーツカーなみの数値だ。

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全長5.4メートルを超える4人乗りのボディに23インチホイールの組合せ

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「スペクターはファストバックです。船舶を思い起こさせるような美しい曲線が描かれています。下側のラインは”ワフトライン”(ふわりと浮かぶ ライン)と名づけたもので、ヨットのデザインから着想を受けたものです」

たしかに、これまでことあるごとに、ロールス・ロイスはボートテイルなど、高級ボートのデザインを採り入れるのにこだわってきた。それを伝統と呼ぶならば、スペクターも同様だ。

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リアコンビネーションランプのデザインテーマは「Islands in the Lake(湖に浮かぶ小島)」とデザインディレクターは表現

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「凝ったディテールで躍動感を誇張するのではなく、穏やかにシルに融合して、表面に軽やかさを演出しています。まるで水を切って進むレーシングヨットの船体が海面を映し出すように、ボディの下で通り過ぎていく路面を映し出すことで、シンプルな動きの感覚が生み出されます」(プレス向け資料より)

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リア(左がわ)がぐっとしぼりこまれたボートテイルデザインとなる

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ロールスロイスの最大のこだわりは、つねにロールスロイスであること、とミュラー=エトヴェシュCEOは語る。

「ヨットなど船舶への接近をデザインで強調しているように、乗り心地も同様です。おだやかな水面をボートが進むような乗り味をつねに追求しています。

新開発の電子制御サスペンションシステムも、ロールスロイスの掲げた目標に大きく貢献しているという。ロールス・ロイスの特徴である 「マジックカーペット・ライド」(空飛ぶじゅうたんのようなスムーズな乗り心地)が実現しているというのだ。

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天井に「星空」をつくる「スターライトヘッドライナー」が今回はドア内張りにまで拡大

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静かな電動パワートレインと、新設計のサスペンションシステム、それにピュアEVの特徴である大型バッテリーを床下に搭載したことによる乗り心地のよさ。これが、スペクターを伝統的なロールス・ロイスらしさの後継モデルであり、同時に「革新的」(ミュラー=エトヴェシュCEO)なモデルとしている。

思い起こせば、私が最初にロールスロイスと路上で遭遇したのは小学生のとき。東京・大田区の自宅の近所に、1940年代から50年代にかけて作られた「シルバーレイス」(だと思う)を所有している家があった。そのロールス・ロイスが、ちょうど霧の夜、自転車に乗っている私の前に表れたのだ。

大きなヘッドランプが、通常のクルマより高めの位置で灯っており、その大きさとともに、背の高い、まさに小山のようなシルエットが大迫力だった。もうひとつ、強く印象に残ったのは、エンジン音だ。

私のかたわらを、シュンシュンという独特な音を響かせながら、通りすぎていった。静かなことを身上にしていると、(クルマ好きだったので)知ってはいたけれど、そのボディサイズと、静かなエンジン音の組合せが圧倒的だった。

電気自動車のスペクターは、もっと静かなんだろう。ボディサイズは5453ミリ。現在の2ドアクーペ「レイス」(全長5280ミリ)より大型、と現場で教えてもらったボディサイズでありながら、ひたすらしずか。おそらく私が遭遇したシルバーレイスより迫力がありそうだ。

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ピュアEVになってもウッドのベニアパネルやエアベンチレーションのアウトレットなど伝統的なモチーフは残される

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満充電での航続距離は520キロとされている。ただ「まだ開発の途中」(エンジニアリングディレクターのミヒヤ・アヨウビ氏)とのことで、バッテリー容量などは公開されなかった。価格は「カリナン(4258万円)とファントム(6050万円)のあいだというのが目安です」と広報担当者が現場で教えてくれた。

グッドウッドのロールス・ロイス本社の廊下には、ロールス・ロイス車のオーナーだった著名人の写真パネルが並べてあった。ジョン・レノンと、「ファントムV」の写真も見つけた。

ザ・フールが、ジョンの注文どおりペイントした車体を持ったファントムVのとなりに立つジョン。おそらく1967年だろう。自信に満ちた顔つきをしている。

ジョンの顔を見ていて思い出したのが、62年に、初代マネージャーのブライアン・エプスタインがレコード会社との契約で奔走していた時期、「ようやく自分たちの夢が現実になるんだ」とジョンが喜びとともに発言したこと。

”夢”というキーワードが、冒頭で引用したグッドウッドのロールスロイス本社は夢の場所、というCEOの発言と私のなかで重なった。人生に対して自信を持っているひと。そのひとの夢をかなえてくれるのが、ロールスロイスであり、新世代のスペクターということなのだろうか。

Specifications
Rolls-Royce Spectre
全長×全幅×全高 5453x2080x1559mm
ホイールベース 3210mm
電気モーター前後1基ずつ 全輪駆動
最高出力 430kW(予定)
最大トルク 900Nm(予定)
航続可能距離 520km(WLTP)

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【写真】Rolls-Royce Spectre

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キャビンが後方でしぼられて結果リアフェンダーが張り出しているのがデザインの特徴のひとつ

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ロールス・ロイスでは自分たちのことを「モーターカーカンパニーでなくハウス・オブ・ラグジュアリー」と定義している  写真:筆者

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伝統のパンテオングリルだがピュアEVなので空気の採り入れ経路は従来のガソリンモデルとは変わりそう

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7_SPECTRE UNVEILED – THE FIRST FULLY-ELECTRIC ROLLS-ROYCE_SPIRIT OF ECSTASY-minのコピー.jpg
スピリットオブエクスタシーは空力的にリデザインされたという

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3_SPECTRE UNVEILED – THE FIRST FULLY-ELECTRIC ROLLS-ROYCE_PROFILE-minのコピー.jpg
全長5.4メートルを超える4人乗りのボディに23インチホイールの組合せ

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リアコンビネーションランプのデザインテーマは「Islands in the Lake(湖に浮かぶ小島)」とデザインディレクターは表現

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リア(左がわ)がぐっとしぼりこまれたボートテイルデザインとなる

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天井に「星空」をつくる「スターライトヘッドライナー」が今回はドア内張りにまで拡大

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ピュアEVになってもウッドのベニアパネルやエアベンチレーションのアウトレットなど伝統的なモチーフは残される

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