「親指の皮を分厚く切り落とした」指紋偽装した男たちが逮捕...鉄道採用試験で不正 インド

  • 文:青葉やまと

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インドでは国営の鉄道企業は安定した就職先として人気を集めている......(写真はイメージ) REUTERS/Danish Siddiqui

<インドでは国営の鉄道企業が大口採用を続けており、安定した就職先として人気を集めている。しかし、就職競争は熾烈だ。別人になりすますため、親指の皮を剥いで別の男の指に被せていた......>

インドで行われた鉄道採用試験でなりすましを行ったとして、男2人が逮捕された。他人の指の皮を使い、生体認証を突破しようとした疑いがもたれている。

現地ニュースメディアの「ニュース・ナインは、「鉄道の職を得ようと必死になった受験者が、熱したフライパンを使って親指の皮を剥がし、友人の親指に貼り付けた。友人が生体認証を突破し、身代わりで採用試験を受けてくれると期待して」と報じている。ほか、インディアン・エクスプレス紙など多数が報じた。

報道によると26歳男性のマニシュ・シャンブナート容疑者は試験の3日前、左手の親指の皮膚をぶ厚く切り取り、替え玉受験者として雇った22歳男性のラージャグル・グッタ容疑者に渡したと供述している。

グッタ容疑者はそれを受け取ると、ポリ袋に入れて持ち運び、試験会場の手前で自らの指のうえから貼り付けた。指紋認証を突破しようとしたがうまく認識されず、不審に思った試験会場の監視員に見抜かれることとなった。

インドでは公的機関として各州に鉄道採用委員会が設けられ、それぞれ鉄道関係職員の採用試験を実施している。試験は数種類があるが、このうち西部グジャラート州で実施された鉄道採用支部レベル1と呼ばれる試験において不正が発覚した。

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国民IDカードに登録された指紋と照合

インディアン・エクスプレス紙が報じたところによると、問題の試験は8月22日の午後5時から1時間半の予定で実施された。この日は645人の受験者が会場に集まっており、不正はこの日の第3回目の実施区分で発生したという。

受験者たちは試験会場4階にある複数の部屋に分けられ、各部屋の入り口に設置してある指紋認証機で本人確認を受ける流れだった。

インドでは「アドハー」と呼ばれる国民番号制度が用いられている。この制度のもとで発行された身分証には、名前や顔写真などが印刷されているほか、指紋による虹彩の生体認証情報が登録されている。

替え玉受験を行うにあたり、顔写真の確認については、マスクの着用で誤魔化すことができた模様だ。首都ニューデリーでは8月、感染拡大に伴いマスク着用義務を再導入している。

問題は、会場で照合される指紋情報だった。そこで依頼者の26歳男性は、自らの指を削ぐことにしたようだ。現地警察によると、容疑者は自らの「左手の親指の皮を分厚く切り落とした」と供述している。

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一度は認証を突破できたものの......

職を得ようと替え玉を雇い、指先まで削ぎ落とした依頼人だったが、その努力が報われることはなかった。試験関係者はインドPTI通信に対し、「試験監督が消毒液を男の左親指に吹きつけると、貼ってあった皮膚が剥がれ落ちたのです」と証言している。

替え玉男性が指先の皮膚を装着し、試験会場の認証機でスキャンしたところ、1回目のスキャンは想定通りに突破することができた。だが、警察が発表した第一報報告書(FIR)によると、2回目のスキャンで偽の指紋が見抜かれたという。

2度目のスキャンの際、数回試行しても指紋が認識されなかったため、監視員は不審な印象を抱いたようだ。同時に、 あるいは指が汚れているのではないかと考え、アルコールによる消毒を命じた。男の指をアルコールで消毒したところ、ダミーの皮膚が剥がれ落ち、なりすましが発覚することとなった。

不正行為により、依頼者男性と替え玉男性の両方が逮捕された。公文書偽造、なりすましによる不正、そして共謀の3つの罪状が適用される見通しだ。

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景気減速でも安定の鉄道職が人気に

インドでは国営の鉄道企業が大口採用を続けており、安定した就職先として人気を集めている。しかし、就職競争は熾烈だ。

首都ニューデリーのミント紙によると、2020年には約6万人分の新規採用枠に対し、474万人から応募が殺到した。同紙は「世界最大級の採用活動」だとしている。

一方、当時からコロナ禍を受け、マスク着用中の本人確認の難しさが指摘されるなど、不正行為への懸念が高まっていた。

狭き門の突破を試みた男性だが、指先を失い、経歴に汚点を残しただけの結果に終わった。本人としては怪我を覚悟で安定した将来への希望を掴みたいとの思いだったことだろうが、不正によって望んだ結果を手にすることはできなかったようだ。

※この記事はNewsweek 日本版からの転載です。

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