お金は使うと「減る」というのは、本当なのか?

  • 文:川畑明美

Share:

9339d8fadc49d607fa23f6cdb4991428f7077c4d.jpg
istock

お金を使ったら「減る」と、思っている方は多いだろう。食品や日用品を購入したらお金は減る。しかし、食品や日用品がなかったら生活はできない。このように生活していく上での必要なモノを購入するのは「消費」だ。消費をしたら、お金は減る。ところが、お金を使ったはずなのに「増える」こともあるのだ。


筆者は20年くらい前にジャガールクルトというスイスの機械式腕時計メーカーのレベルソ・クラシックという腕時計を購入した。当時は、30万円台だった。ところが先日、美容院でファッション誌を見ていたら筆者が持っているのと同じ腕時計が掲載されていて価格を見てビックリ仰天した。なんと84万円だったのだ!約2.6倍に価格が上がっていた。


もっとも円安の影響もあって、価格が上がっているのだと予測できたので、購入した頃の為替を調べてみると、1ドルは120~130円くらいだった。なので為替の影響だけとは考えにくい。海外の物価が上がっていることと、購入した腕時計の人気が高いから、腕時計の価格も上がったのだと予測できる。

---fadeinPager---

投資になるかは「時間」が決める

このようにお金を使っても「増える」ことはある。価値が上がって価格が上昇するモノを購入するのは「投資」といえるだろう。ただし必ずしも価格が上がるとは限らない。いわゆる「自己投資」として英会話を習ったとしても、その後続かなくて勉強をやめてしまったら投資ではなく「浪費」になってしまう。


「投資」かどうかは、購入した瞬間にはわからないものだ。「投資」なのか「浪費」なのかは「時間の経過」でわかるものなのだ。なぜなら、時間が経過しないことには、投資した結果が誰にもわからないからだ。


大事なのは「価値を見極める」こと。筆者が購入した腕時計のようにある一定の方から「価値がある」と認められているブランドなら価格が下がらない。お金を使うということは、必ず何かを得ているということだ。ところが、お金と交換しようと思っているモノの価値を判断する自信がない場合や交換したものを活かして、人生を豊かにする自信がないとお金と交換したものを活かしての「投資」にはならないのだ。

---fadeinPager---

使ってもお金が減らない仕組み

iStock-1306935702.jpg
お金持ちになれるかどうかは、収入ではない。まとまったお金を貯めて、その利益の範囲内で生活できるかどうかなのだ。istock

筆者はたくさんの方の家計を見ていて思うことがある。収入が多いからといって、お金持ちになれるわけではないということだ。たとえば、年収が1800万円ほどの60代の医師なのに貯蓄が1000万円に満たない方もいる。逆に共働きで合わせて年収500万円弱くらいの40代のご夫婦が4000万円貯めていたりする。お金持ちになれるのは、収入の多寡だけではない。


後者の4000万円を貯めているご夫婦は、生活に必要な最低限のみを使って生活をしている。そしてお金が貯まるまでじっと待っているのだ。「それでは、楽しみがないだろう」そう考えてしまう方もいるだろう。ところがまとまったお金があり、それを運用して利益分だけを使っていれば、元本が減らないのだ。4000万円を3%で運用できれば年間120万円の収入になる。この範囲内で使っていれば、元の4000万円は減らず、そして同じように運用できれば、毎年その120万円の収入が続くのだ。

---fadeinPager---

まとまったお金はどうやってつくる?

こうして「まとまったお金」が準備できればお金は永遠と減ることがなくなる。では、このまとまったお金は、どうやってつくったらいいのか? まとまったお金を作るには、2つの方法が考えられる。ひとつは、ビジネスや事業投資などで大きく稼ぐというもの。もうひとつは、お金の使い方を工夫して余裕資金を作る方法だ。


誰でもできるのは、後者の方法だ。どちらが良いということではないが、どのくらいお金が欲しいのかによって選択は変わる。たとえば1億円以上のお金が欲しいということならば、前者のビジネスや事業投資にチャレンジすることになる。知恵とアイディアと行動力があれば事業を立ち上げることも可能だ。

---fadeinPager---

知恵とアイデアと行動力で成功したビジネス

iStock-1389837644.jpg
まとまったお金を作るには「お金に対する覚悟」が必要だ。ビジネスを始めるにもお金の使い方を工夫するにも重要な要素だ。istock

先日講演を聴いた貸会議室大手の「TKP」代表取締役社長の河野貴輝氏の話はまさしくそうだった。TKP創業のキッカケは、取り壊しする予定の3階建のビルの1階にあるイタリアンのお店がかなかな立ち退かず、空いている2階と3階を有効活用したいと相談があって貸会議室を思いついたのだそうだ。


創業当時は、コーヒー店の代わりに1時間1人100円を基準として50人の部屋を1時間5000円で貸したそうだ。貸会議室のビジネスモデルで注目したいのは、お金の流れだ。ネットで予約をして前金で支払ってもらうので、先に売上金が入ってくる。支出の家賃は、末締め翌月末支払いだ。先に売上金が入るので、必要経費である家賃分をプールできれば、事業投資に使うことができる。売上金が先に入るのが、ポイントなのだ。まさに、知恵とアイデアと行動力で手にした事業モデルといえる。

---fadeinPager---

いくらお金が欲しいのかをイメージ


一方、お金の使い方を工夫して余裕資金を作る方法も考察してみよう。年間50万円の余裕資金が捻出できれば、それでも十分と考える人もいるだろう。しかし、ただ漫然と節約するだけでは、年収にもよるが年間50万円を貯められないケースもある。日々の生活の中で、お金の使い方を常に工夫していかなければ、継続的に余裕資金を作ることはできない。事業をするよりもリスクは少ないが、継続して余裕資金を作っていくのは、簡単とは限らない。


お金の使い方を工夫して余裕資金を作れる方を見ていると共通していることがある。お金を貯められる人は「いくらお金が欲しいのか」をしっかりイメージできているのだ。多くの方は、漠然と「お金が欲しい」と思っているだけで「いくら欲しいのか?」と、聞くと回答ができない。家計相談の時に、ライフイベント表を書いていただいているのだが、ほとんどの方が白紙の状態だ。いくらお金が欲しいのか、イメージがないのだ。

---fadeinPager---

お金はお金があるところに集まる?


老後のお金が心配なのなら、老後の生活費の不足分を計算する必要がある。50歳以上の方ならば年金定期便をみれば、もらえる予定の年金額がわかる。現在の生活費から老後は必要なくなる費用を引いて年金支給額と見比べれば、いくら必要なのか誰でもわかる。後は老後のイベントを考えてみるといい。車がないと不便な地域の方は、車の買い替えも必須、子どもの結婚資金を援助したいのだったらその費用も必要だ。マイホームのリフォームも考えておく必要がある。


ところが、それをやっていない方がほとんどなのだ。まず、いくら老後の費用が必要なのかしっかりとしたイメージを持つことだ。「お金はお金のあるところに集まってくる」という話を聞いたことがある人は多いと思う。間違いではないが「お金に対する思いが強い人」に集まってくる。つまり「お金に対する覚悟」がなければ、お金は集まってこないのだ。覚悟を持って、お金と交換したものを活かす「投資」となるお金の使い方を考えて欲しい。

20201029_15-59AVE09088.jpg

【執筆者】
川畑明美●ファイナンシャルプランナー 「私立中学に行きたいと」子どもに言われてから、お金に向き合い赤字家計からたった6年で2000万円を貯蓄した経験をもとに家計管理と資産運用を教えている。HP:https://www.akemikawabata.com/