まるで地上絵のようなイメージとは?写真家、高木由利子が見出したミクロの世界

  • 文・写真:はろるど
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『高木由利子 写真展 chaoscosmos vol.1 — icing process — カオスコスモス 壱 — 氷結過程 —』展示風景。会場構成を立体集団ガリネルが担っている。

1951年に東京にて生まれた写真家の高木由利子。武蔵野美術大学にてグラフィック・デザインを学んでポルトガルへと渡ると、今度はイギリスにてファッション・デザインを学ぶ。そしてフリーのデザイナーとしてヨーロッパを駆け巡り、モロッコにて写真に開眼しては、ファッション写真やポートレートを撮り続けてきた。世界各地を旅しながら、衣服や人体を通して「人の存在」を追い求める高木の写真は高く評価され、東京国立近代美術館や横浜美術館などに作品が収蔵されている他、日本やヨーロッパで何度も展覧会を開催している。

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「the geoglyph of icing process A6A5434」

東京・表参道のGYRE GALLERYで開催中の高木由利子の写真展、『chaoscosmos vol.1 — icing process — カオスコスモス 壱 — 氷結過程 —』では、高木が近年手がける「カオスコスモス(chaoscosmos)」というプロジェクトの写真を公開している。「地上絵 the geoglyph」と題した一枚の写真に注目したい。暗がりのモノクロームの画面には引っかき傷のような細い線が無数に交錯していて、一部は大きく大地を裂くようにのび、ナスカの地上絵を鳥瞰して捉えたように見える。また中には、まるで宇宙に浮かぶ星のような球体が写されているものもあり、「一体どのようにして撮影したのだろう?」と思う作品が少なくない。

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「icing process A6A6431」

「氷結過程」という言葉にヒントが隠されている。自然現象をレンズを通して捉えているうちに、「カオス(混沌)とコスモス(秩序=宇宙)は同時多発的に共存しているのではないか。」と気付いた高木は、肉眼では見えない自然現象をカメラによって抽出しようと「カオスコスモス」のプロジェクトに取り組む。その第1弾こそが、展示された「氷結過程(icing process)」だ。ここで高木は自らの生活する寒冷地において、氷点下の夜、小さな容器に水を張って氷を作ろうと試みる。するとある朝、薄い結晶がひしめき合いながら氷に成長していくプロセスを目にして、それをきっかけに氷の観測と撮影をはじめていくのだ。

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いずれも「icing process」の展示風景。左から「A6A6223」、「A6A6378」、「A6A5842」

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会場内は「始まり the beginning」、「地上絵 the geoglyph」、「標本箱 specimen boxes」、「脳内過程 the inner mental process」の4つの部屋より構成されている。

「同じ条件のもとでも、一つとして同じ形状は現れない。」と高木も言っているように、水が氷に変わる様子はすべて異なっている。それらは微生物のようであったり、植物のように見えたりしていて、精巧なジュエリーや壮大な天体現象を思わせるものなど、スケール感も千差万別。信じられないほど多面的なすがたを見せている。そして高木はこの現象を「氷点下の夜に行われる密儀。」と呼んだ。「氷結過程」を通して宇宙や生命の神秘を感じつつ、自由なイメージを思い巡らせながら、誰も気がつかなかったような水と氷が織りなすセレモニーを目に焼き付けたい。

『高木由利子 写真展 chaoscosmos vol.1 — icing process — カオスコスモス 壱 — 氷結過程 —』
開催期間:2022年10月7日(金) 〜11月28日(月)
開催場所:GYRE GALLERY
東京都渋谷区神宮前5-10-1 GYRE3F
TEL:0570-05-6990
開館時間:11時~20時
会期中無休
入場無料
https://gyre-omotesando.com/art/