「高齢者になっても支出は減らない…」老後破産を招く、間違ったお金の使い方

  • 文:川畑明美
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悪いお金の習慣を正さずに年金生活に突入してしまうと老後破産の可能性が高い。正しいお金の使い方を考察してみた。istock

毎月6万円の国民年金からアパートの家賃5万円を支払い、残り1万円で生活する高齢者。悲惨な「老後破産」の厳しい現実をレポートしたNHKスペシャル『老人漂流社会 “老後破産”の現実』で紹介されていた高齢者だ。この番組は、生活保護水準以下の収入しかないのに生活保護を受けていない状態の高齢者を取材した内容だった。老後破産とは「老後にお金が足りなくなり生活に困窮する状態」を指す。老後は年金だけでは足りないのだ。現役時代の準備とお金の使い方が老後にも影響するのだ。

厚生労働省がまとめたデータによると、2022年5月時点で生活保護を受けている高齢者世帯の総数は約91万世帯。その55.8%は高齢者世帯だ。注意して欲しいのは、老後に生活に困窮してしまうのは、低所得者とは限らないという点だ。現役時代にそれなりに収入があった方でも、困窮してしまうケースがある。話題作となった書籍『下流老人』を読むと、うつ病で子どもが就職を失敗してしまい、子どもを支える生活で老後資金を使い果たしてしまったケースや、銀行員として働いていて収入もあったのに、熟年離婚をきっかけに生活保護レベルになってしまったケースが紹介されている。

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高齢者になっても支出は減らない

老後、年金生活になると消費が減ると思われているが、米プリンストン大学の研究によると、高齢になっても消費意欲は減退しないことがわかっている。食事については、加齢とともにファストフード店での支出は減少しても、レストランでの支出はほとんど減っていないとしている。このような分析結果から、高齢者が現役世代と同等かそれ以上に、消費行動を楽しんでいるのがわかるのだ。

年金生活になったからといっても楽しみもなく、ただ年を重ねるだけでは辛くなってしまう。老後も生活を楽しみ、旅行に行ったり、車を買い替えたり、子どもの結婚資金や孫の援助もしたい……。そう考えると準備すべき老後資金は跳ねあがってしまうのだ。老後になっても「収入は減っても支出は減らない」と、考えた方がいい。

年金月額の平均は自営業者などで月額5~6万円、会社員などで月額14.6万円となっている。年金収入は、現役時代に稼いでいた給与よりもかなり低い金額となるのだ。収入が少なくなるのに合わせて生活費を抑えられれば、老後の心配はなくなる。以前の記事でも紹介した「収入の範囲内で生活する力」が重要だ。給与収入を得ている時と同じ感覚でお金を使ってしまい、退職金をほとんど使い切ってしまってからでは、打つ手は少なくなってしまう。

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多くの人は、間違ったお金の使い方をしている

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最ももったいないお金の使い方は、お金を使ってストレスを発散することだ。実はお金を使ってもストレスの解消にはならない。ストレスの原因をよく考えてみよう。istock

多くの人は、「お金がない!」と、悩んでいる割に、間違ったお金の使い方をしている。役に立たない事にお金を使い、自分の首を絞めているのだ。ストレス発散のためにお金を使っても、あまり効果は得られないことをご存じだろうか? お酒を飲みに行く、たくさん食べる、もしくは買い物をしてしまう、などの行為ではストレス解消の効果は薄いのだ。

ストレスの多くは、睡眠不足に起因することが多い。仕事が忙しく寝る暇もない、育児や介護で寝る暇がない、など思いあたる節があるだろう。この場合、ヤケ食いや飲酒、買い物をしてもストレスを軽減できない。まずは十分な睡眠をとることだ。思い切って1日ゆっくり休むことで、ストレス発散できる。また、ストレスになることが多い「人間関係」の場合は、自分の気持ちを誰かに話すことでストレスを解消させることも可能だ。

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お金を使ってもストレスは発散できない

ただし自分の話を聴いて欲しいからお酒を飲みに行くというのは間違いのもとだ。アルコールの力で高揚感が出てしまうからだ。自分の感情を伝えるというよりは、グチをいう場になってしまう。自分の気持ちを話して心を安定させるには「共感」してもらうことが大事だからだ。人との繋がりを確認することで心が安定するのだ。お酒の席でグチを言い合うのではない。ストレス解消できるのは、高ぶった気持ちを抑えることにあるのだから、飲酒してしまっては、高ぶった気持ちをさらに増長させてしまう。

お金を使ったストレス発散方法は、ほとんど効果がないのだ。大事なのは、気持ちを切り替えること。筆者は、上手とは言えないが料理を作るのは割と好きな方だ。家で仕事をしているので、ストレスを感じた時は、料理の準備をして気分を切り替える。例えば、お肉の下準備や献立を考えるなどだ。仕事の進みが遅くなると、夕食の献立を考えてその下準備をすると、気分が変わり仕事の効率も元に戻る。

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お金の使い方は「習慣」になっている

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いつものちょっとした習慣が無駄遣いになっていることも多い。習慣を変えるには、新しい良い習慣を身に付けることだ。istock

お金の使い方は習慣といってもいい。朝、出勤前にスタバでコーヒーを買う。これも習慣だ。または、家に帰る途中で必ずコンビニに寄ってしまうのも同様だ。こういう少額の買い物の習慣を見直してみよう。例えば、スタバのコーヒーが400円で出勤日数の約22日購入していたら1ヶ月の支出は8,800円だ。この支出を我慢できれば、ちょっといいレストランで食事ができる。

収入は決まっているのだから「自分が本当に使いたいことにお金を使う」ことを意識して欲しい。本当に使いたいことは、家計でいうと「特別費」に当たる支出になる。筆者はこの「特別費」を考えてから、残りのお金で生活をヤリクリすることを提案している。自分にとって、本当に使いたいことが見つからなければ「旅行」の予定を組むのもいいだろう。旅行に行くとかなりの気分転換になるし、ゆっくりできるので睡眠も十分に取ることができストレスが緩和できるからだ。

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主体的にお金を使えるようになる

この1年で一番お金を使いたいことが決まれば、予算も決まる。残りのお金で月々どのくらい使えるのか、予算を設定するといい。予算を決めておけば、使い過ぎも抑制する効果もある。本当に必要なものなのか、購入したものは、どんなふうに役立つのか。十分に吟味して購入する習慣ができる。厳選したお金の使い方の習慣がでければ無駄遣いはなくなる。

習慣を消すのは難しいが、新しい習慣を上書き保存することで変えることができる。予算が決まっていれば、衝動買いすることも少なくなる。「これ、いいな!」と、思ったらすぐには買わずに、家に帰ってもう一度考えてみるといい。冷静になると、それほど欲しくないものだと分かる。家に帰って考えても、やっぱり欲しいと思うのだったら、購入したらいい。主体的にお金を使うことを意識したい。

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【執筆者】
川畑明美●ファイナンシャルプランナー 「私立中学に行きたいと」子どもに言われてから、お金に向き合い赤字家計からたった6年で2000万円を貯蓄した経験をもとに家計管理と資産運用を教えている。HP:https://www.akemikawabata.com/