進化する“クラフトサケ”の今を体感できる日本酒イベント、「若手の夜明け」が開催

  • 文:西田嘉孝
  • 写真:清水伸彦
  • 編集:穂上愛

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イベントに先行して行われたテイスティング会で用意されたお酒たち。イベント当日は全国24都道府県から41蔵元が参加。100種類を超える日本酒やクラフトサケが試飲できる。

クラフトスピリッツはいまや世界的なトレンドとなり、日本でも昨今はウイスキーやジンなどの蒸留所が続々と誕生している。
一方、ブーム以降は消費量が低迷している焼酎にも再び脚光が当たりそうな気配があり、国産のワインやビールについても、大手の進化はもとより新たなつくり手たちの躍進が目覚ましい。

では、日本の國酒を代表する日本酒はどうかというと、これがかなり面白い。その一端を示すのが、誕生したばかりの「クラフトサケ」なるカテゴリー。近年では海外にも多くの清酒の醸造所が生まれ、それらもクラフトサケブリュワリーと呼ばれるが、日本で生まれたクラフトサケはそれとは一線を画すものだ。

そもそもクラフトサケが生まれた背景には、日本酒業界への新規参入を阻む高すぎる壁の存在があった。日本ではすべての酒類について製造には免許が必要になるが、こと日本酒に限ればこの70年で1件も新たな免許が交付されていない。
2021年4月には海外輸出用に限って清酒製造免許の申請が可能になったが、国内で流通させる清酒をつくるとなれば、現在も新規参入は事実上不可能といえる状況だ。

そこで業界への参入を目指す若きつくり手たちが考えたのが、日本酒の製造技術をベースに米を原料としながら、新たなジャンルの酒をつくること。
たとえば、清酒の発酵工程でフルーツやハーブなどのボタニカルを加えれば、酒税法上は「その他の醸造酒」となり、新規参入の高い障壁から解放される。実はよく知られる“どぶろく”も、酒税法上の扱いは「その他の醸造酒」だ。

今年6月には全国に7つあるクラフトサケの醸造所が結集し、クラフトサケブリュワリー協会を設立。彼らが自由な発想で醸すクラフトサケは、従来の日本酒の枠を超えて日本や世界の酒好きたちから注目を集め、日本酒業界に新しい風を吹き込んでいる。

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日本酒の“夜明け”を感じさせる3本

もちろん、そうした新勢力に負けず劣らず、既存の蔵元もそれぞれに研鑽を重ね、全国各地でまさに百花繚乱といったバリエーション豊かな日本酒が生まれている。
そんな「日本酒の今」を体験できるイベントが、9月21日(水)から24日(土)にかけて大手町仲通りで開催される「若手の夜明け-SAKE JUMP-」だ。

2007年から蔵元主催で開催されてきた同イベントを、今回からはオンラインとオフラインのプラットフォーム事業を手掛ける株式会社Clandが引き継ぎ、従来は1日のみだった開催期間を4日間に拡大。
日本酒の未来を担うつくり手や酒屋など、過去最大となる全国41蔵と11の酒販店が参加し、会場では100種類を超える日本酒の試飲や購入(一部)ができる。

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会場イメージ。当日はキッチンカーも登場し日本酒に合うフードメニューも楽しめる。

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そんな同イベントで出展される日本酒の先行テイスティング会に、日本酒のプロの方たちに混じって参加させてもらった。ここでは、ランダムに割り当てられて試飲した数本のうち、なかでも印象に残った3本を紹介したい。

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左から 相原酒造の『UGO AURORA』、稲とアガベの『稲とコウジ06』、阿部酒造の『シークレット酒』

ワイングラスで飲みたくなる日本酒『UGO AURORA』

1本目は、広島県呉市で創業147年を数える「相原酒造」の『UGO AURORA』。同蔵の代表銘柄である『雨後の月』に対してこちらの「UGO」は、5代目として蔵の次代を担う相原章吾さんが新しい感性で醸す新シリーズ。
日本酒で「ワインのような」という表現が褒め言葉なのかはわからないが、最初の香りの印象はフレッシュな白ワインのよう。水のように澄んだ飲み口の中に、果実味やミネラル感、米の甘みや旨味も感じられ、飲み進めるうちにトロピカルなフレーバーも開いてくる。そのボトルデザインと同様にシャープで洗練された味わいが楽しめる、個人的には昼間からワイングラスで飲みたくなる日本酒だ。

ジューシーで濃厚な味わい『稲とコウジ06』

2本目の『稲とコウジ06』は、クラフトサケブリュワリー協会の中心的な存在でもある「稲とアガベ」が手掛ける“クラフトサケ”だ。秋田の新政酒造で酒造りを学んだ岡住修兵さんが、テキーラマエストロの資格を持つ奥様とともにブランドを立ち上げ、2021年秋には秋田県男鹿市に醸造所も創業。
酒税法上の日本酒は「米、米麹及び水を原料として発酵させて濾したもの」と定義されるが、こちらは米麹と水のみで仕込まれる。柑橘やフレッシュなココナッツなどを思わせるフルーティでスイートな香り。ジューシーで濃厚な味わいは、ストレートはもちろんのことロックや濃い目のソーダ割りでも楽しめそう。

フルーティでメロウな『シークレット酒』

3本目は、新潟県柏崎市にある阿部酒造の「シークレット酒」。1804年から続く同酒造が大切にしているのは「発酵を楽しむこと」。六代目製造責任者の阿部裕太さんのもとで、これまでにWAKAZEの今井翔也さんやhaccobaの佐藤太亮さん、LIBROMの穴見峻平さんなど、現在の日本のクラフトサケシーンの主要醸造家が修行を積むなど、老舗蔵でありながら日本酒業界の革新の先頭を走るつくり手だ。
そんな阿部さんが醸す「シークレット酒」は、心地よい刺激をともなう飲み口と、フルーティでメロウなフレーバーが印象的。完熟のマスクメロンやキウイなどの果実味とともに、日本酒らしい麹の甘みがじんわりと口の中に広がっていく。味わいは濃厚なのにもたつかず、スイスイと飲めてしまう魔法のような酒だ。

もちろん、ここに挙げた3本はごくごく一例。「若手の夜明け-SAKE JUMP-」では、「これぞ日本酒」といったものから「これが日本酒?」といったものまで、日本酒の明るい未来に向けて挑戦する全国の蔵元が持ち寄った、個性豊かな100種類以上の日本酒やクラフトサケが楽しめる。
日本酒ファンはもちろん、これまで日本酒をそれほど飲んだことがない人でも、会場を訪れればきっと“お気に入りの一杯”が見つかるはずだ。

若手の夜明け-SAKE JUMP-

開催場所/東京都千代田区大手町1-9 大手町仲通り(大手町フィナンシャルシティ)

会期/9月21日〜24日(11:30〜21:00 最終日のみ9:00〜18:30)

入場料/前売券4000円、当日券4500円 2時間入れ替え制


https://sakejump.com

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西田嘉孝

ウイスキージャーナリスト

ウイスキー専門誌『Whisky Galore』 やPenをはじめとするライフスタイル誌、ウェブメディアなどで執筆。2019年からスタートしたTWSC(東京ウイスキー&スピリッツコンペティション)では審査員も務める。

西田嘉孝

ウイスキージャーナリスト

ウイスキー専門誌『Whisky Galore』 やPenをはじめとするライフスタイル誌、ウェブメディアなどで執筆。2019年からスタートしたTWSC(東京ウイスキー&スピリッツコンペティション)では審査員も務める。