ヘリからダイブ⁈ 女王陛下のオリンピックから見えてくるもの

  • 文:速水健朗

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(c)PA Photos/amanaimages

2012年のロンドンオリンピックの閉会式を観た。

閉会式には、イギリスを代表するミュージシャンたちが総出演するのだが、一番盛り上がった場面は、スパイス・ガールズの再結成だった。

5台のミニがスタジアムを暴走する。この時点で皆が尋常でない盛り上がりを見せている。誰もがクルマの柄だけで彼女たちだとわかったのだ。クルマがスタジアム中央に集まり、5人がそれぞれに降りてくる。スパイス・ガールズ、アッセンブルの瞬間。陸上の100メートル決勝くらい沸いていた。

『ザ・ボーイズ』は、人気者のヒーローに恋人を殺されたり恨みをもつ者たちを主人公にしたドラマ。敵は、人気者で特殊能力も持つヒーロー集団のセブン、および巨大軍需企業ヴォート社だ。個々の能力では圧倒的に不利なボーイズ。リーダーのブッチャーは、スパイス・ガールズを引き合いに出す。

「いいか、彼女たちはソロだったらゴミみたいな存在でも、全員そろえばすげえスパイス・ガールズになるんだ」

ゴミ( absolute fuckin’ rubbish)はひどいが、ザ・ボーイズのメンバーはこのひとことで奮起するのが可笑しい。普通の人は何人集まろうが普通だろうと突っ込みたくなるが、この場面で『ザ・ボーイズ』というドラマが好きになった。わりと序盤のエピソード。

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(c)PA Photos/amanaimages

さて、女王陛下がなくなって、“ファブ・フォー”が再結集した。ウィリアム、キャサリンの夫妻とヘンリー、メーガン夫妻の4名がファブ・フォーなのだという。ファビュラスな4人は、ビートルズを呼ぶときに使われていた言葉でもあるで、イギリスでは定番のもの言いなのだろう。さて、次にファブ・フォーが揃うのはいつ?

ロンドン五輪の開会式の方は、女王陛下とジェームズ・ボンドの共演が目玉だった。今度の逝去の報道でもさんざん使われていたバッキンガム宮殿にダニエル・クレイグが迎えに来るところから始まる映像だ。

デスクで書き物をしている女王の斜め後ろにそっと立つボンド。軽く咳払いをして女王の注意を引く。女王は、「あなたがいるのはとっくにわかってる」とばかりにゆっくりと目線を送る。いい演技だ。「Good Evening Mr.Bond」という台詞は、女王が自ら言わせてくれと頼んだセリフ。彼女は、ダブルオー部署で起きたすべての出来事は、すべて書類で把握していると言わんばかりの態度を見せる。やはり彼女がボンドの上司なのだ。

最大の見所は、ドアを開いて下に広がるスタジアムをのぞきこむボンドの脇を食い気味のタイミングで女王がすり抜け、ヘリからぴょんとダイブする場面。観客の4割くらいは、本当に女王本人がパラシュートで降りてくると思ったのではないか。

国家がひとつになる瞬間、誰かと誰かが再結集する瞬間、いろいろ思うところもあるが、ここしかないというタイミングってものはある。ロンドン五輪でもバラバラだったオアシスのギャラガー兄弟は、どうすれば再集結できるのか。人類はそのためになにができるのだろう。

エリザベス女王には哀悼の意を表したい。おなじグーナーとして。

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James Bond and The Queen London 2012 Performance - YouTube

速水健朗

ライター、編集者

ラーメンやショッピングモールなどの歴史から現代の消費社会をなぞるなど、一風変わった文化論をなぞる著書が多い。おもな著書に『ラーメンと愛国』『1995年』『東京どこに住む?』『フード左翼とフード右翼』などがある。

速水健朗

ライター、編集者

ラーメンやショッピングモールなどの歴史から現代の消費社会をなぞるなど、一風変わった文化論をなぞる著書が多い。おもな著書に『ラーメンと愛国』『1995年』『東京どこに住む?』『フード左翼とフード右翼』などがある。