「あれは絶対にやっちゃいけない演出だった」。オダギリジョーに聞く、ドラマ『オリバーな犬』続編の制作背景

  • 文:SYO
  • 写真:齋藤誠一
  • ヘアメイク:砂原由弥
  • スタイリスト:西村哲也

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オダギリジョー●1976年、岡山県生まれ。アメリカと日本でメソッド演技法を学び、2003年、カンヌ国際映画祭に出品された『アカルイミライ』で初主演を果たす。その後、国内外において枠に囚われない活動を続ける。ジャケット¥ 45,100、シャツ¥19,800、パンツ¥35,200、ネクタイ¥9,900/すべてラッドミュージシャン(ラッド ミュージシャン 原宿 TEL:03-3470-6760)

その存在自体がアートであり、ファッションでありカルチャーである――。ごく稀に、そういった存在が現れる。オダギリジョーがそのひとりであることを疑う人はいないだろう。その彼がNHKと組んだら、どんな化学反応が起こるのか――。オダギリが脚本・演出・編集に加え、犬の着ぐるみを着て出演したドラマ『オリバーな犬、 (Gosh!!) このヤロウ』は、観る者の度肝を抜くアナーキーなコメディだった。

その続編となるシーズン2が、9月20日より放送中(全3話)。鑑識課警察犬係、ヤクザ、半グレが入り乱れ、11年前に失踪した少女の謎をめぐる物語は一層カオスに。池松壮亮、永瀬正敏、麻生久美子らに加えて松たか子や松田龍平、松田翔太、高良健吾、黒木華、浜辺美波ら、さらなる豪華キャストが参加したことでも話題を集めている。

Pen Onlineでは、いままさに編集の最終段階に入ったタイミングのオダギリにインタビュー。同作の制作現場に同行したライターのSYOが、オダギリ流のものづくりを深掘りする。

サブ1「オリバーな犬、(Gosh!!)このヤロウ」シーズン2.jpg
©NHK

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「全編挑戦で出来上がっています」

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――『オリバーな犬』は、出演者それぞれの演技のタイプが多種多様ですよね。ナチュラルな方もいればデフォルメされる方もいて、キャラクターの属性もバラバラかと思います。それでいてこの世界観の中で成立しているのが非常に興味深かったですが、どのように舵取りをされたのでしょう。

オダギリ:シーズン1のときは、みんなも初めてだったし「どういう演技を求められているのか」と探りながらだったんです。僕も「この辺です」というのは説明しつつ、自分がオリバーを演じているからその温度感を見せやすくて、全体的な演技の共通認識が出来上がって行きました。

だから今回のシーズン2に関しては、新しく参加されたたゲストの方々が困っていたら少し説明するくらいで、元々バランス感覚の良い俳優が集まっているので、一度説明すればあとはもうスムーズに進みましたね。

――松たか子さんへの演出を拝見したとき、セリフの速度や言い回しをオダギリさんが伝え、松さんが対応し、どんどん役が濃くなっていくのが印象的でした。しかし、松さんがナチュラルに歌いだしても成立する世界観ってすごいですね(笑)。

オダギリ:そうですね(笑)。しかも松さんは歌がうまいから、それだけで面白いじゃないですか。何気なくこぼれた歌がやけに上手いって、なぜかちょっとイラつきますよね(笑)。そういう小さな出来事が面白さになるんですよね。

――その部分もそうですが、『オリバーな犬』の世界の中のリアリティラインがあるかと思います。それは意識的なルールというよりも、ある種の肌感に近いものなのでしょうか。

オダギリ:やりながら「ちょっとやばいかな」と思うときもあるんですが(笑)、それは編集でバランスを取ればいいかと思いながら「とりあえずやるだけやっとく」という感じで現場を進めていました。

――画面分割やタイムラプスといった映像的な遊びに加え、今回はドラムの生演奏などチャレンジングな演出がより増えた印象です。

オダギリ:今振り返るとドラムの部分は、テレビドラマでは絶対にやっちゃいけない演出でしたね(笑)。挑戦してみたものの、芝居と音楽を同時に共存させる難しさを今回痛感して、勉強になりました。

でも、舞台は生演奏と生の芝居が同時に成立するじゃないですか。それがうらやましくて、今回それをやるにはどうすればいいんだろう、きっとやれるはずだという思いから生まれたシーンでした。

自分自身がドラムをやっていたので、「キャラクターの心情やテンションをその場でドラムで表現したらどうなるんだろう」という好奇心があって。

いや、お金と時間があるなら、もちろんできるんです。ただ、テレビドラマの予算の中では、みんなの首を絞めてしまって(苦笑)。

麻生さんと池松くんの「え?」が連続するやりとりなどもそうですが、観たことのないものを観てみたいじゃないですか。絶対やったら面白いしカッコいいから、あとはもうスタッフの力を信じて立ち向かうしかない。そう考えると本当に、『オリバーな犬』は全編挑戦で出来上がっています。

――ドラムの生演奏のシーンで、仲野太賀さんの立っている位置がカットごとに違うのも面白いですよね。背景のモニターにも映っていて、よくよく考えると「どうやって移動したんだ?」と思うけど、画的なカッコよさで納得させてしまうし、『オリバーな犬』の世界観・リアリティラインとしても何ら破綻していない。

オダギリ:モニターに関しては偶然の産物なんですよ。現場でモニターに映すアイデアを思いついたのですが、それを面白いと感じなかったら捨てちゃってたと思うし、何よりそのアイデア自体思いつかなかったかもしれない。そういった意味では、現場で即興的に面白さを見極める力が必要なんだなとも思います。

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「“辞め時”が来るまでは、もがきながら作るべきものを作りたい」

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――先ほど「勉強になった」というお話がありましたが、そういった意味ではシーズン2を通して、さらなるシリーズ化にも意欲が高まった感じでしょうか。

オダギリ:求められればやる、という感じですかね。確かにこの作品は好きなことができるし面白いんですが、「こればっかりやってる」みたいになっちゃうのも困るし、バランスよくやっていければとは思います。

ちょっと話が逸れてしまうのですが、こういうコメディって海外の映画祭に挑戦できないんですよ。そういった意味では、そろそろ、また違う自分らしい映画を撮って、世界に挑まなきゃなという気持ちが大きいです。

――例えば『ある船頭の話』のように、ということですね。となると今後のビジョンとしては、俳優と監督の2足のわらじがより強まっていくイメージでしょうか。

オダギリ:そうですね。いまは「監督として作っていいよ」と言われている時期だと思うので、やれるところまでやってどうなるかだと考えています。自分の才能が届かなかったり、時代とズレていったりといった“辞め時”はいつか来ると思うので、そこまではもがきながら作るべきものを作ろうと思っています。

――個人的に、ダサいものを避けてカッコいい・面白いものを追求するのがオダギリさんのクリエーションにおけるコアな部分なのかと感じています。自分自身もそれこそ小学生の頃から「オダギリさんについていけばダサいところから離れられる」という感覚があるのですが……。

オダギリ:えぇ!? それは危険ですよ(笑)。

――(笑)。そうしたオダギリさんの嗅覚は、自然発生的なものなのでしょうか。それとも、何か気を付けていらっしゃるポイントがあるのでしょうか。

オダギリ:自然にだとは思いますが、マスというか大きな数が決めるものは疑問視しています。

たくさんの人が「これカッコいいよね」というものが流行りだったりすると思いますが、それは信用しないようにしていますね。そうじゃない自分の感性で感じるカッコよさを信じたい。ある種カウンター的なところもあるかなとは思いますが。他人の意見より、自分の感性を信じてあげたいじゃないですか。

――時代の変遷の中で、オダギリさんの好きなものとマスが選ぶものが重なった、沿った瞬間はあったのでしょうか。

オダギリ:それこそ『オリバーな犬』の反応が良かったことに少し驚きました。「意外と沿ってるんだな」と思って。もちろん本当の意味での大衆ではないと思いますが、多くの皆さんが好意的に受け止めてくれたことが僕にとっては驚きでしたね。

――クリエイターの方々も非常に喜んでいる感覚があります。

オダギリ:皆さん色々な規制やしがらみの中で息苦しくものづくりをやっているなか、『オリバーな犬』は本当に色々な忖度を無視しちゃっている。この作り方を許してもらえる状況は他のクリエイターからするとうらやましいだろうし、悔しさもあるかもしれません。『ある船頭の話』もそうですが、「オダギリだからやれる」というところがあり、僕自身もそれを大いに利用しているつもりです。

良くも悪くもクリエイター同士の刺激にしたいし、それが日本のものづくりをより高められると信じています。自分の置かれている状況を利用しながら、他者にいい影響を残していければ最高だと思っています。

――シーズン1のときに永山瑛太さんが想定とまったく違う演技を披露して面白かった、と話されていましたが、今回は撮影監督が市橋織江さんに代わるなどスタッフ陣も新たなメンバーが加わりました。

オダギリ:撮影部、照明部、録音部、制作部、演出部…大袈裟ではなく9割のスタッフが新しく入れ替わることになりました。でも僕はそれを好機と捉えるべきだと思っていました。前シーズンをなぞるよりも、まったく違う作品になった方が面白いじゃないですか。脚本を書いているからと言って、僕が答えであるとは限らないんです。新しく入ってきた人が新しい風穴を開けてくれることもあるでしょうし、一期一会を楽しんでいます。

画的なことで言うと、最終的に編集するのが僕なので見せ方が似ちゃう部分はありますが、切り取り方や目線がシーズン1の池田直矢さんと今回の市橋織江さんでは確実に違っていて、そこもすごく面白かったです。ちょうどいま色味を調整しているのですが、市橋さんが作る色味がシーズン1とまったく違うので、それが皆さんにどう受け止められるか楽しみです。

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「編集しながら『何が正しいのか?』をとにかく考えた」

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――いまお話しされた編集に関して、時間との闘いの中でどのようにクオリティジャッジを下されているのでしょう。

オダギリ:確かに一生やってられることじゃないし、制限時間を決められている方がいいとは思います。僕は編集に関しては独学で知識がないぶん、とにかく試すしかないと思っています。すべての材料を見て、色んなバージョンを試して、気持ち悪い部分があればそこをいかに違和感ないように作れるか。時間はかかるけどそれを一つひとつやるしかない。

ただ、シーズン1のときと比べて編集にかかった日数は減ったみたいなので、少しずつ成長はしているのかなという気はしています。

――今回はより面白さを追求してチャレンジした結果、編集で試行錯誤する瞬間も増えたでしょうから、それを加味するとより成長度が浮き彫りになったといえるかもしれませんね。

オダギリ:きっとそうですね。編集でも本当に色々と試行錯誤しました。例えば以前SYOさんが編集室に見学に来られた際、「悩んでいるシーンがある」と話したところがあるじゃないですか。一平とオリバーがカードを拾うシーンですね。

――トントン牧場のところですね。

オダギリ:そうそう。SYOさんが見ていたころは、まだまともな編集をしていたんです。普通にカットを割って一平とオリバーのカットバックで芝居を見せていたんですが、結局それをすべて無しにして、引きのワンカットにしました。元の編集の方が見やすいし、笑えたんだけど、引きのワンカットにすることでこの作品のこだわりが明確に伝わると思ったんです。

言語化がなかなか難しいのですが、実は長回しのカットは事件の鍵になるカードのための画作りになっているんです。観る人がそのことに気付くことって、実は作品を読み解く力に繋がっていて、答えを与えられることだけではなく、自主的に考えることに繋がると思うんです。テレビドラマとしてはなかなかない演出ですが、そこは『オリバーな犬』だからこそやれる挑戦を選びました。

――すごく面白い瞬間です。よりリアリティが増すというか、ある種の作為が抜かれたということでもありますよね。僕たちが生きている日常でも、落ちているものに気づくのはその瞬間だけど最初からそこに落ちているわけで。

オダギリ:それを映像で表現するのって難しいんですよね。例えば人間の日常って、相手の動きが読めることはそんなにないじゃないですか。でも映像におけるカット割りって、俳優の動きを前提に考えたものになってしまいがち。そうなると、だんだんすべてが虚構に見えてくるんです。

たとえば「何かを拾う」という芝居で初めからそこにフォーカスが当たっていて人物が入ってきたら、もうそれは予定調和な動きでしかない。リアルな芝居を切り取ることではなく作為的な噓になってしまう。その辺り、編集しながら「何が正しいのか?」はとにかく考えますね。人間を撮りたいのか、画を見せたいのか、ストーリーを追わせたいのか……本当にやるべきは何なのかを迷いながら一つひとつ答えを出していくしかないんでしょうね。

――ただ、そうした重労働を乗り越えられるのもそうですが、自ら「これやったら大変だろうな」を選択できるのは、チャレンジ精神が上回っているからなんでしょうね、きっと。

オダギリ:そうですね。基本的には「面白そう」が勝ってしまいますね。

***

仕上げ作業の合間を縫って、インタビューに答えてくれたオダギリジョー。〆切当日の朝まで試行錯誤は続いたという。神は細部に宿るを地で行く彼のこだわりを、ぜひ何度となく観賞していただきたい。

『オリバーな犬、(Gosh!!)このヤロウ』 シーズン2

放送予定:9月27日<第5話>、10月4日<第6話>
NHK総合毎週火曜 午後10時~10時45分
脚本・演出・出演:オダギリジョー
出演:池松壮亮、オダギリジョー、永瀬正敏、麻生久美子、本田翼、岡山天音、玉城ティナ、くっきー!ほか

公式Instagram:https://www.instagram.com/nhk_oliver/

番組公式HP:https://www.nhk.jp/p/ts/ZPZJP2WJ9R/

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