サンパウロに先住民の“いま”を伝えるミュージアムがオープン

  • 文:仁尾帯刀
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バニワ族の現代アート作家デニルソン・バニワによる映像作品。

南米一の商業規模を誇るサンパウロは、前世紀に積極的に各国移民を受け入れてきた背景もあり世界有数の民族的多様性を誇る。“移民の街”と称される一方で、忘れられがちなのがこの街に現在も先住民コミュニティーが存在することだ。今年6月末日にサンパウロに「先住民文化ミュージアム」がオープンした。

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グァラニー族の土地問題やアイデンティティについて訴えるシャダル・トゥパン・ジェクペーの個展。

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かつてコロンブスがアメリカをインドと間違えたことから南北アメリカ大陸の先住民はいまでも俗に“インディアン”や“インディオ”とまとめて呼ばれることが多い。しかし先住民も多様性に富んでおり、ブラジルでは現在220種族の約81万7千人が暮らしている。このミュージアムは、同州のみならずブラジル各地の先住民の文化への理解を深めることを目的として設立された。

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ミュージアムの案内人であり、アクティビストであるソニア・アラ・ミリンさん。

“先住民”という先入観から民俗学的な展示品を想像してミュージアムを訪れると、実際に目にしたのは先住民系現代アート作家による個展だった。

「このミュージアムは先住民のいまを伝えることを目的としています。サンパウロなどの都会ではあたかも存在していないかのように扱われてきた私たちの文化を紹介していきます」と語るのはミュージアムの案内人ソニア・アラ・ミリンさん。サンパウロ市ジャラグア地区のグァラニー族コミュニティーのリーダーのひとりだ。

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シャダル・トゥパン・ジェクペーのステンシルの作品。ポルト・アレグレのストリートにゲリラ的に展示してきた。

開催中の企画展のひとつはブラジル南部ポルト・アレグレで活動するシャダル・トゥパン・ジェクペーによる個展。ジェクペーは、白人系住民の多いポルト・アレグレ市を拠点に、街中で先住民の存在を顕示すべくステンシルを多用したストリートアートを展開してきた。

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ミュージアムの敷地内では、ブラジルの異なる地域からの先住民が装飾品を販売。

ミュージアムの運営はおもに先住民系スタッフたちが行い、企画内容も先住民系メンバーによる協議会が決定する。既に複数の講演会を行ってきたが、中南米グアテマラの先住民女性活動家による「先住民組織におけるデジタル・コミュニケーションの役割」についての講演など、国境を越えた先住民間の連帯を感じさせる企画もあった。

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グァラニー族の暦について説明する案内人の一人 © Agência Galo/Paulo Lannes

「このミュージアムのオープンは私達にとってひとつの勝利です。私達先住民は、土地権利や偏見などさまざまな問題を抱えています。しかし、まずは私達のことを知ってもらうことが大切です」とアラ・ミリンさん。文化への理解を促すというソフトパワーとともに闘うミュージアムであることが感じられた。

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ミュージアムは州のスポーツ局の局舎だった7階建ての建物を利用。

先住民文化ミュージアム(Museu das Culturas Indígenas)

住所:R. Dona Germaine Burchard 451, Água Branca - São Paulo/SP
TEL:(11)3873-1541
https://museudasculturasindigenas.org.br