7人の写真家が撮る「新時代の紳士の肖像」を、『浅間国際フォトフェスティバル2022 PHOTO MIYOTA』で見る

  • 写真・文:中島良平
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7名の写真家が年齢も職業も異なる7名の現代の紳士を撮影した企画展、『NEW GENTLEMEN – 新時代の紳士の肖像』の展示風景。俳優の井浦新を撮影したのは木村和平。

浅間山の麓に位置する御代田町の複合施設「MMoP(モップ、Miyota Museum of Photography)」で、「浅間国際フォトフェスティバル2022 PHOTO MIYOTA」が9月4日まで開催されている(バーチャルイベントの「PHOTO ALT(フォトオルト)」も同時開催中)。

コロナ禍での2年間の縮小開催を経て、2019年以来3回目となる今回のテーマは「Mirrors & Windows」だ。自身を見つめる「鏡」であると同時に、社会を覗く「窓」としても機能する写真の意味と役割、その力について改めてとらえようという意図が込められている。

今回のフェスティバルのメインスポンサーであるグッチの協賛のもと、アート写真メディア『IMA』のディレクションによって、7名の写真家がグッチのアイテムを身につけた7名の現代の紳士たちを撮りおろした企画展示『NEW GENTLEMEN – 新時代の紳士の肖像』を中心に見ていきたい。

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野村佐紀子の被写体を務めたのは、ミュージシャンで役者の金子ノブアキ。

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沢渡朔が小説家の吉田修一を銀座で撮影

「銀座のAKIO NAGASAWA GALLERYに13時に集合して、まずはすぐそばの三越あたりに向かいました」と、『パーク・ライフ』『悪人』などで知られる芥川賞作家の吉田修一を撮影した沢渡朔は話す。普段沢渡が撮影するのは、女優やグラビアアイドル、モデルなど圧倒的に女性が多い。男性では、30代だった頃の小澤征爾が指揮棒を振る様子、役者としてのキャリア50周年を迎えた三國連太郎など、やはり時代ごとの紳士たちを撮影してきた。

「吉田さんはグッチが似合っていましたね。そんなに演出するわけではなくても、銀座で撮影するだけで『現代の紳士』になりますよ。映画のワンシーンじゃないですが、そんなイメージでストーリーを感じながら撮影するのは楽しかったですね」

銀座から有楽町のガード下にも移動して撮影したという。石造の建物の重厚さと昭和を感じさせるムードとの対比が組み合わさり、街のストーリーも伝わってくる。

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暑い日に撮影が行われ、着用する洋服は秋物だったので、吉田がしんどくならないようスピーディーな撮影を心がけたという。
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展示を前に説明する沢渡朔。

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細倉真弓が目指すのは、かたちを見るためのポートレイト

その銀座で、「一冊の本を売る本屋」として知られる森岡書店を経営する、森岡督行も被写体として登場。撮影したのは、ヌードという被写体を無機的に画面に収めた表現などで知られる細倉真弓だ。

「若い男性のヌードを撮影することが多いのですが、パーソナリティにフォーカスするのではなく、身体のおもしろさ、質感などに着目します。今回もやはり、森岡さんのパーソナリティを引き出すような写真を撮るのではなく、ホワイトキューブのシンプルなスタジオで、グッチの服や靴が物質としてあって、そこに森岡さんがどう関係するかという『かたち』に着目しました」

写真を撮り始めた頃から、ポートレイトは好きだった。しかし、写真に写るものからパーソナリティを読み解くような見方に違和感を覚え、純粋に表面に見えているものを見たいという思いで多くの写真に触れた。写真を通して被写体の情報を知りたいわけではない。視覚表現としての写真を、極端にいえば原理主義的に突き詰めて撮影を行うのが細倉のスタイルだ。

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森岡を撮り下ろした作品と組み合わせたのは、細倉が自分の手を被写体にしたフォトグラム作品。光と影が逆転した表現が通常写真と組み合わさり、ネガ・ポジの関係を結ぶ。
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写真集『NEW SKIN』『Jubilee』『KAZAN』などでヨーロッパでも注目される細倉真弓は、磯部涼のルポルタージュ『ルポ 川崎』で撮影を担当したことでも話題となった。

「被写体の表情や感情が写る瞬間ももちろんあると思うんですけど、それよりも私が撮影時に意識したのは、森岡さんの身体の可動域や角度によって異なるラインです。森岡さんがどのような『かたち』なのか、森岡さんからどのような『かたち』が生まれるのかを探りながら撮影をしました」

グリッド状の構造体で、歩きながら見える作品が変わってくる立体的な展示で、森岡の写真と自身の手を撮影したフォトグラム作品が関係し合う様子も印象的だ。

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森山大道は、街を撮影して大きく引き伸ばした展示空間と、実際の街の両方で俳優の志尊淳を撮影した。
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左官職人の久住有生を撮影したのは水谷吉法。
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小林健太の被写体となったのは、建築家の石上純也。自ら設計を手がけた神奈川工科大学KAIT工房・KAIT広場が、ロケーションとして選ばれた。

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屋内外で実現した魅力的な展示の数々

『NEW GENTLEMEN – 新時代の紳士の肖像』以外にも、屋内外で複数の魅力的な展示が行われている。ウクライナで生まれ、幼い頃に家族でアメリカに移住したイェレナ・ヤムチュックは、2014年から2019年にかけてウクライナのオデッサで、そこに住む人々と街の景色を撮影した。青春時代を祖国で過ごせなかった憧憬の念を込めて撮影した作品が、戦時下のこの時期には異なる意味合いを帯びてくる。皆が無事に家に戻れるようにという思いを込め、家のような木箱のインスタレーションで作品を発表した。

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イェレナ・ヤムチュック『ODESA』(2014-2019)
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ライカの協賛で行われた大杉隼平の展示は、世界の街角をライカのカメラで覗いて撮影した『a blink in life』を旧式のバス内で行われている。

石内都の初期3部作のひとつである「連夜の街」は、1981年に発表された元遊郭の建物の内観と外観をとらえた名作。35mmのポジフィルムで撮影されたシリーズから未発表のカラー作品が選ばれ、褪色のデジタル修復と高精細スキャンによって、遊郭の空間を擬似体験できるようなインスタレーションとなった。

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石内都『連夜の街』(1981-)展示風景より
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色のコンポジションを重視して画面づくりを行うヴィヴィアン・サッセンは、ヴェルサイユ宮殿で発表した『Venus & Mercury』(2019)を出品。

韓国出身のキム・ジンヒが出品した作品のタイトルは、『Finger Play』。韓国で流通する新聞や雑誌から女性の手に関係するイメージを引用し、自身が撮影したての写真とコラージュし、刺繍を施すことで、他者とのつながりやコミュニケーションを表現した。

多様な表現から物語を読み取り、自分を写す「鏡」であり社会を覗く「窓」でもある写真作品の数々を美しい自然の中で存分に味わってほしい。

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キム・ジンヒ『Finger Play』(2019-2020)

浅間国際フォトフェスティバル2022 PHOTO MIYOTA

開催期間:2022年7月16日(土)〜9月4日(日)
開催場所:MMoP(モップ)
長野県北佐久郡御代田町大字馬瀬口1794-1
開場時間:10時〜17時
※屋内展示の最終入場は入場は16時30分まで
入場料:¥500
※一部建物のみ有料、小学生以下無料
休館日:水(8月10日を除く)
※屋外展示は自由に鑑賞可能
https://asamaphotofes.jp/miyota/