ネズミが語る!? 驚きと発見に満ちた『ライアン・ガンダー われらの時代のサイン』展

  • 文・写真:はろるど

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『最高傑作』 2013年 公益財団法人石川文化振興財団蔵 アニマトロニクスの漫画風目玉、瞼、眉毛が壁に埋め込まれた作品。鑑賞者に反応するセンサーによって動き、表情を変える。

1976年、イギリス生まれのライアン・ガンダー。日常生活で気に留めることすら忘れているようなあたりまえの物事への着目を出発点として、オブジェ、インスタレーション、絵画や写真など幅広い作品を制作し、世界各地の国際展に参加するなどして活躍している。「見る」ことへの考察から生まれる問いは、定まったものごとを、いままでと違った視点で考えるきっかけとなり、いつも新しい発見を見出すことのできるアーティストだ。日本でも2017年に国立国際美術館(大阪)での個展が話題を集めた。

「機械仕掛けのネズミが穴から顔を覗かせて話している?」そんな不思議な展示が行われているのが、東京オペラシティ アートギャラリーで開催中の『ライアン・ガンダー われらの時代のサイン』だ。展示室の床には黒いカッティングシートがまき散らされ、ロッカーには石が置かれ、壁から謎めいた数字の記された紙が発券される。それを受け取って先へと進むと、バックライト付きのLCDプログレスバーが内蔵された黒い立方体がたくさん並び、等身大のグラファイト製の人形やステンレスの巨大なオブジェが待ち構える。そして椅子の上には小さな蚊の彫刻が痙攣するように動き、穴からネズミが1匹、かわいらしい声で独白している。一体全体、何のことだか分からない……そう戸惑いすらを覚えるような内容だ。

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『脇役(パルタザール、ヴェニスの商人:第3幕第4場)』 2019〜2020年 リハーサルの舞台裏で出番を待つ脇役を表した等身大のグラファイト製の彫刻。人物は壁に寄りかかっていて、これまでに壁と触れた場所が汚れ、動いた痕跡として残っている。

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奥:『ばらばらになった自然のしるし(大多数は立ちすくんで気もそぞろに月を見つめる中、少数派は怒りに駆られてしるしを描く)』2022年 手前:『はじめに、言葉がある以前、そこには……』2021年 日本製デニムでできた24枚のパネルによる絵画と、石や薪、棒切れを黒いブロンズで鋳造した作品。絵画はコロナ禍で移動が制限された期間、作家が目にしたという満月を描いている。

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1巡目は解説冊子を参照しないで鑑賞し、2巡目に解説を読みながら作品を見ていくことをおすすめしたい。そうすることで、一見謎めいていた作品には、時間、お金、価値、教育、そしてよく見ないと見えないものといった、カンダーが関心を抱いていたものや現象がテーマとして取り上げられていることが分かる。すると一気に視界が開けるように、刺激的でかつワクワクするような作品世界が広がっていることに気づくのだ。また監視員が落とす手紙や壁に小さくプリントされた記号など、うっかりすると通り過ぎてしまうようなところにも作品があったりして面白い。さらに黒いキャンバスかと思えばデニムだったり、シーツに見えたのが大理石だったりと、素材と作品との意外な関係も魅力と言える。

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『2000年来のコラボレーション(予言者)』 2018年 公益財団法人石川文化振興財団蔵 機械仕掛けのネズミが展示室に開いた穴から覗き、9分にわたって独白している。声は作家の9歳の娘のもので、チャップリンの『独裁者』の演説をもとに、ポスト・シュミラークル的な視点で書き換えられている。

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同時開催中の『ライアン・ガンダーが選ぶ収蔵品展』展示風景。『ライアン・ガンダー われらの時代のサイン』とともに撮影も可能だ。

今回の個展は当初、昨年4月に予定されていたものの、コロナ禍におけるイギリスのロックダウンによって開幕前に延期となり、今年になってようやく実現した。そして延期された際に開かれた『ライアン・ガンダーが選ぶ収蔵品展』が、個展の1つ上のフロアにて再び行われ、寺田コレクションに新たな光を与えている。新作を含めて空間全体をひとつの作品として創り上げた展示は、さまざまな気づきをもたらしつつユーモアにも溢れ、はっとするような驚きに満ちた内容だ。東京では初となる個展にて、ネズミのモノローグへと耳を傾けつつ、ポトリと落ちた紙を拾って、その謎をひもといてほしい。

『ライアン・ガンダー われらの時代のサイン』
開催期間:2022年7月16日(土)~9月19日(月・祝)
開催場所:東京オペラシティ アートギャラリー
東京都新宿区西新宿3-20-2
TEL:050-5541-8600(ハローダイヤル)
開館時間:11時~19時 ※入館は閉館30分前まで
休館日:月、8/7 ※祝日の場合は翌火曜日
入場料:一般¥1,400(税込)
www.operacity.jp/ag

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