豊かさとはなんだろうか。
都会の喧騒を離れ、自然溢れる地域での時間を過ごすと、そんなことを考えてしまう。
口に入れる食べ物が実際に育つ環境を知り、地域の伝統を学び、飲む水や排泄物まで、生きていく上での地球の循環を感じながら生活をする。少し仕事を離れ、地球と共に生きることに向き合う環境を自ら作ろうと思っても、意外と難しい。地域の方と触れ合いながら、自然に心休まる時間を過ごすことができる。そんな時間を長野県・野沢温泉村の自給自足キャンプ「LIFE FARMING CAMP」で体験してきた。

この旅の大きな特徴の一つが、地元で暮らすガイドと日夜を共にすること。決められたコースを解説してくれるだけではなく、参加者らがその日その場所で気付いた出来事から、その地域の暮らしがどんどん具現化されていく。道中に見かけた植物が夜のディナーで出てきたり、たまたま通りかかった地域の方と、立ち止まってお話しすることも。

野沢温泉村を「守る」森を知るトレッキング
冬場はスキー場となっている山を車でどんどん登っていく。冬場はコースとなっている草原から、木々が生い茂る山に一歩足を踏み入れると、じめっとした日本の暑さから一気に空気が変わる。

まず見えてくるのが、カラマツやトドマツなど数種類の木が生い茂る林だ。ここのカラマツは2011年3月11日の大震災の復興に大きく役立ったという。当日、たくさんのカラマツが伐採され、バイオマス燃料の原材料となったり、仮設住宅の建材に活用されたそう。
そんな解説を聞きながら歩を進めると、空気が少しひんやり爽やかに変わった瞬間があった。
池田さん「ここからがブナの原生林です」
さまざまな種類の木々が生えていた林から、一つの線を堺にブナ一色の原生林に変わっていた。こんなにも空気が変わるのかと思うほど、空気、香り、湿度が変わった気がした。

ブナの原生林と水の関係
トレッキングでもう一つ印象的だったのが「ブナの林には雨が降らない」という言葉だった。
ブナの葉の特徴の一つに、葉脈にそって少し窪んでいることがある。その窪みが水を導き、雨をそのまま地上には通さず、水を集めて幹を伝って地上まで流れていくという。

残念ながら、今回の旅では雨に恵まれず、その光景をみることはできなかったが、Life Farming Campプロデューサーの小松隆宏さんによると、雨の日こそ最高のトレッキング日和だという。雨が伝うその幻想的な景色を味わえるのが最も贅沢な体験だという。
雨はゆっくりブナの木を辿って地上に流れ着き、またゆっくりゆっくりと落ち葉の層を伝って地中に浸透していく。ガイドの池田さんによると、その水は50年ほどかけて湧水として流れ出ていくらしい。トレッキングの前に湧き水を汲んでいたが、その水を飲みながら50年という時間のロマンに出かけることもできる。
この広大なブナ林が天然の緑のダムとなって、野沢温泉の豊かな水源を生み出している。
写真と共に伝える循環型キャンプ











豊かな土地の魅力を発見していく
野沢温泉村は人口約3500人。毎年移住希望者が絶えず、人口は増えているという。移住者に話を聞くと、やはり冬のゲレンデを目的に移住を決める人がほとんどだ。しかし、実際に住んでみるとその魅力は四季すべてにあるらしい。美味しい食材が豊富にとれ、豊かな自然に囲まれたこの場所は、コロナ禍でもライフスタイルがほとんど変わらなかったと教えてくれた。
地元の方と触れ合うと、四季それぞれで楽しみを発見していた。都心で過ごしていては気付けない循環型の暮らしの心地よさが、野沢温泉にはあるのかもしれない。