絵本作家のかこさとしの初期から晩年までの代表作が集結。Bunkamura ザ・ミュージアムにて展覧会が開催中

  • 文:はろるど

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パン屋さんを経営しながら、子育てに奮闘する夫婦と4羽の子どもたちを描いた物語。かこの絵本でも根強い人気を残る作品だ。

「だるまちゃん」シリーズや『地下鉄のできるまで』 といった科学絵本など、実に600冊を超える作品を世に送った絵本作家のかこさとし(1926〜2018年)。子どもの頃から絵を描くことを愛し、科学に興味を抱くと、大学では工学部に学び、科学者としての道を歩もうとする。しかし戦争によって多くの人々や仲間が失われると、一時、航空士官を目指していたかこは深い自責の念にとらわれ、戦後は子どもたちのために役立とうと社会福祉活動に関わっていく。そして展覧会に出展した『平和のおどり』という絵をきっかけに出版社から声がかかり、初の絵本『だむのおじさんたち』を刊行する。33歳の時のことだった。

Bunkamura ザ・ミュージアムで開催中の『かこさとし展 子どもたちに伝えたかったこと』では、若き日に描いた油彩画や、20年に渡って携わったボランティア運動の一種である「セツルメント活動」時代の紙芝居、さらにこれまで世に出ることがなかった絵本の原画とともに、初期から晩年までの代表作が集結。絵本作家としてだけでなく、かこさとしという人間がどのように生き、何を表現し、そして未来に残したかったのかをひもといている。自らを「ヒコー少年」と呼んでいたかこの絵本にかける想いが伝わるような展覧会だ。

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かこは戦時中、戦闘機から飛び降りた日本兵の落下傘が開かず、そのまま亡くなるのを目撃し、深い悲しみに襲われた。その時の経験を元にした作品で、死後に発見され、2021年に絵本として出版された。

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川崎セツルメントにて、アコーディオンの音とともに、歌って遊ぶかこと子どもたちの様子を写している。

セツルメントとは、地域住民の暮らしのために、医療や福祉、教育の場、託児所などを作るといった社会運動のことだ。かこは1952年から川崎のセツルメントで活動すると、毎週日曜日の子ども会にて、自作の紙芝居や幻灯を上演して人気を集める。しかしいつも子どもたちは夢中になって聞いてくれるわけではない。つまらなければそっぽをむき、面白ければ目を輝かせ、たとえ悲しい話でも心に触れれば興味を持ってくれる子どもたちに向けて、かこはテーマや物語作り、それに絵や発声方法にまで研究を重ねて紙芝居作りに尽力する。そしてセツルメントで出会ったたくさんの子どもたちの面影を、代表作である「だるまちゃん」と「からすのパンやさん」シリーズへと重ねていく。このセツルメントでの子どもたちとのふれあいこそ、かこのインスピレーションの源泉とも言って良い。

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道路を開削してトンネルを作り、地下鉄がつくられる様子を地上の季節の変化とともに描いた絵本。実際の工事現場を取材して制作された。

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古く繊細な紙に描かれた原画は移動や展示に耐え得ないため、原寸大による精緻な複製が作られた。今回は複製を公開。虫眼鏡で見たくなるほどの細かな描写に驚くとともに、凄まじい情報量に圧倒される。

たくさんの絵本の原画が並ぶ中、異彩を放っているのが、本展で初めて公開された「宇宙進化地球生命変遷放散総合図譜(通称:生命図譜)」と呼ばれる作品の複製だ。科学者としての知識や経験を活かして科学絵本を多く制作したかこは、さまざまな命がどのように歩んできたのかを探求しようと、約5mにも及ぶ大画面に生命の図譜を制作。ビックバンにはじまり、太陽系形成や地球誕生から、ヒトや動物、鳥や魚、また虫や微生物の進化のプロセスを細かな文字とスケッチにて描きこんでいる。しかも幾度となく推敲を重ね、90歳を超えても描き続けたという、まさに最晩年の集大成というべき絶筆だ。ここに宇宙から命の誕生を一望し、人間の行方を考えようとした、かこの未来に向けたメッセージを感じとりたい。

『かこさとし展 子どもたちに伝えたかったこと』
開催期間:2022年7月16日(土)~9月4日(日)
開催場所:Bunkamura ザ・ミュージアム
東京都渋谷区道玄坂2-24-1 B1F
TEL:050-5541-8600(ハローダイヤル)
開館時間:10時~18時 ※金・土は21時まで。入館は閉館の30分前まで。
休館日:7月26日(火)
入場料:一般¥1,400(税込)
 ※会期中すべての土日祝および8月29日(月)~9月4日(日)は一部オンラインによる入場日時予約が必要。
https://www.bunkamura.co.jp/museum/exhibition/22_kako/

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