都市と郊外にそれぞれ家を構える二拠点生活や、ひとつの家に留まらない多拠点生活が、コロナ渦を経て一般化。その一方で、もちろん従来からある、週末をセカンドハウスで過ごすというライフスタイルも進化している。
その両者に適応する面白い取り組みが「NOT A HOTEL」だ。2021年に、別荘を30日単位から最大12人でシェア購入できるサービスをローンチ。これまで、宮崎の青島、栃木の那須というリゾート地に、それぞれ別荘兼ホテルの販売を開始。販売した40億円分の物件権利のうち、開始2ヶ月で約30億円分の権利が売れたという企業経営者を中心に人気のサービスだ。そして今回、初の都市型のコンドミニアムとなる「NOT A HOTEL FUKUOKA」の販売開始を発表した。
この福岡でのプロジェクトは、小山薫堂が代表を務めるオレンジ・アンド・パートナーズと福岡でホテル事業を営むIMD Allianceの合弁会社「Good Life & Travel Company」によるフランチャイズ事業だ。
果たしていま、都市でのシェアリング型コンドミニアムにはどのような可能性があるのか。6月某日、NOT A HOTEL代表の濱渦伸次と小山薫堂の二人がトークショーを開催し、語り合った。まず濱渦がこのプロジェクトのきっかけを振り返る。
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「僕は以前はZOZOのグループ会社で社長を勤めていたんですが、本当に自分のやりたいことをしたい、ホテル事業をやりたいと思いNOT A HOTELを起業したのが2020年4月なんです。当時日本では最初のロックダウンの真っ最中。移動が制限され、経済的にも沈み込むなかで新事業を始めるなんて、周りからは気が狂ったんじゃないかと強く責められたんですけど、そのときにオレンジ・アンド・パートナーズに勤めている高専時代の先輩にどうしたらいいですかね、と相談をしにいったら、実は薫堂さんの会社でも福岡でホテル事業を考えている、と。気が狂っているのは自分だけじゃなかった、と安心しました(笑)」
パースを見せてもらうと、それは濱渦が思う“自宅でもあり別荘でもあり、ときにはホテルにもなる新しい暮らし”であるNOT A HOTELが強く共感できるものだった。ぜひ一緒にやらせてくださいと、両者のコラボレーションがスタートしたという。
「食に精通されている薫堂さんが福岡で企画をされている、という点が僕としてはピンときました。コロナ渦で多拠点生活をする方が非常に増え、その中で最たる拠点が福岡だと思っているんです。自分の周りにも数名いますし、支社を福岡に構えて年の3分の1や5分の1を福岡で過ごすという人も多い。そんな場所なので、都市型のNOT A HOTELをやるのであれば福岡でやりたいなとずっと思っていました」(濱渦)。
一方、小山薫堂はなぜ福岡という場所に焦点を当てていたのだろうか。また、濱渦が強く共感したというコンセプトとは。
「実は僕は熊本出身でして、福岡はもう敵なのですが(笑)。でも、振り返ってみると九州で何かするときはだいたい福岡が拠点になるんですよ。ヨーロッパに行くときにパリを拠点にするように。福岡から新幹線でどこかに言ったり、レンタカーで移動したり。本当に便利で、それでいろいろなお店があって、ハシゴして回ったらこんなに楽しいところはない。そんな福岡に自分の拠点があったらどんな場所がいいかなと考えたら、“blank”というコンセプトにたどり着いたんです」(小山)
人生には余白が必要だと小山はいう。余白をうまく持ちながら生きているときに、そこに良いものが生まれたり、いい邂逅や出会いがある、と。肉で例えると脂身のような、そこに旨味が凝縮されていたり、余白があるからこそ新しいことに挑戦できたり、新しい興味が生まれたりする。そんな余白のような拠点が福岡にあったらいい、それが小山が福岡に求める拠点のコンセプトだった。
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「隠したいお店もいっぱいあるんですが、でも、僕がいくお店ってだいたい決まってるんですよ。まず必ず最初に行く“安兵衛”というおでん屋さん。おじいちゃんとおばあちゃん、その息子さんと奥さんの家族4人でやっててすごく古い感じなんですけど、まずここでおでんをつまんでから出かけていくんです。美味しくて、雰囲気も良くて、そこに行くと本当に幸せな気持ちになる。最近ワインを始めたんですが、グラスがお店に似つかわしくないチョイスだったので、おじいちゃんの誕生日にワイングラスをプレゼントしまして。次の年はそば猪口を。もう毎年誕生日にプレゼントすると決めていて、自分の足跡を残していきたいと思っているんです。で、ここに言ったあとに行くのがイタリアンの“フリッジ”。ここでは岐阜の生ハム職人の多田さんの貴重なペルシュウがいくらでも食べられる。そしてまた面白いのが“つどい”。ここは不思議な雰囲気のお店ですが、カップ麺を化学調味料を一切使わずに再現するという変なコトをしている(笑)。一流の技をさり気なく披露していて、それがいい。そして、最後はバーでシメるんですが、そのバーはここでは内緒にしておこうかなと(笑)」(小山)
「“つどい”は知っています。世界的なアーティストも来るお店ですよね」と濱渦。「安兵衛」にも訪れたことがあるという。良いお店の情報は口コミで伝わっている様子。
「僕が久しぶりに地方で美味しいお寿司屋さんだなと思ったのが“鮨 唐島”です。福岡は、古くからの良いお店もある一方で、新しい良いお店がどんどんできる。新陳代謝がすごくあって、新しいものを受け入れる文化がある。だからみんな福岡好きですよね」(濱渦)
「最近行って感動したお店といえば、NOT A HOTEL FUKUOKAから歩いていける場所にある、“食堂セゾンドール”。グルメな知人にまだ行ってないんですか? とバカにされて、つい先日行ってきたんですが、この1年間で行ったお店で一番良かった。入った瞬間にこの店はうまい、って感じられる厨房のいいオーラがあって、シェフは60代で料理の見た目はイノベーティブな感じなんですが、食べるとクラシカルな美味しさがあって。一皿ごとに食べて驚きがある。それで10品くらいでるんですけど、1万2000円なんですよ」(小山)
「福岡って富裕層ほどコスパにシビアですよね。だから福岡のお店は総じてコスパがいい点も特徴ですね」(濱渦)
「僕はこのお店を見つけたことで、NOT A HOTEL FUKUOKA」が欲しくなりました、と小山はいう。やはり福岡の魅力はその利便性の高さと食。良いお店がどんどんできるから、食べ歩きも楽しい。ゆっくり滞在する拠点が欲しいというのは多くの富裕層に共通するところだろう。
そんなNOT A HOTEL FUKUOKAが位置するのは西鉄薬院駅から歩いて10分ほどの住宅街。植栽豊かな外観を持つ5階建て。7月14日からの第一期販売では、1階と2階、そして最上階のペントハウスが販売される。それぞれどのような部屋になっているのか、簡単に紹介したい。
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「+DOMA」:日常と非日常をつなぐ、無境界の家
1Fにある「+DOMA」。ホテルで1階の部屋というのは珍しいが、エントランスから部屋に入ったあとは、部屋からは共用部を通らずに建物の外に出かけられるという、街とのシームレスな設計をコンセプトにしている。ペット用のテラスも備える。
「172㎡という広さについては、本当にこのサイズでやるのか議論になりました。福岡の部屋はやはり出張のために最適化されているケースが多くて、こんなに広い部屋はなかななないんです」(濱渦)
「ペットを連れて滞在したい人にはよいですよね。僕は天高の高い、あの暖炉があるスペースが好きです」(小山)
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「+CHEF」:来客で賑わう美食の家
62.4㎡の広々としたリビング/ダイニングの中央に8名がけのシェフズテーブルを設置した部屋。知り合いのシェフを呼んで腕を奮ってもらうもよし、自らの手で料理を振る舞い自分自身がホストとなってゲストをもてなすもよし。気心の知れた仲間や友人と楽しむこともできる。また、全部屋共通だがワインセラーも完備されている。30㎡の広々としたテラスダイニングもあり、キッチンから窓越しにそこでくつろぐ友人たちの姿を見やることもできる。大勢のゲストが訪れたときのために、パウダールームはダブルシンクだ。
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「+DESK」:大人のためのもうひとつのオフィスであり、ホーム
オンとオフを両方楽しめる部屋には大きなビッグテーブルを設置。スタッフを呼んでミーティングをすることができ、TVモニターはもちろんオンラインミーティングのためのモニターにすることも可能。集中して仕事をするための書斎もあり、窓の外のテラスにはハンモックを設置。没頭と開放のスイッチをシームレスに切り替えられる設計。
「ソロサウナもあるんですよね。僕はサウナをするために行きたい部屋です」(濱渦)
「一番仕事がしやすい、ワーケーション向きの部屋ですね。買います。候補のひとつです」(小山)
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「+PENTHOUSE」:回遊する家
贅沢なルーフトップテラスを備える「+PENTHOUSE」は総面積253㎡。エントランスからの直通・専用エレベーターがあり、リビングからベッドルーム、バスルーム、そしてルーフトップテラスからアウトドアリビングへと回遊しながら楽しむことができるのが特徴。ガラス窓を多用しており採光もよく、建物の外観を特徴づける豊かな植栽も目に楽しい部屋だ。アウトドアリビングにはファイヤープレイスを備え、たくさんの友人を招いてバーベキューもできる。
「僕はやっぱりこのペントハウスがいいなと思っています。シェアリングだからでしょうか。価格設定が意外と安いという印象です」(小山)
経営者や富裕層から注目を集めていることもあり、高い部屋から売れていくのが特徴という、NOT A HOTEL。購入することでNOT A HOTEL NASUや、NOT A HOTEL AOSHIMAといった他の拠点も利用することができ、それは今後拠点が増えた場合、追加された拠点の利用も可能になるという。また、これまでNFTによる1日所有権という販売プランも展開しているなど、独自の取り組みも面白い。新しいライフスタイルを提案するNOT A HOTELの今後の展開には注目だ。