これ飛行機? 驚きの「ステアバイワイヤシステム」搭載のRZなど、レクサスがいまおもしろい

  • 文:小川フミオ
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レクサスがいまおもしろい。2035年にオールラインナップの電動化を目標に掲げる同社。ユニークな技術を次々に現実のものにしようとしている。

「電動化技術によりクルマの可能性を最大限引き出すこと、それが、レクサスにとっての電動化です」。2021年12月14日に開いた記者会見(「バッテリーEV戦略に関する説明会」)の場で、ブランドホルダーの豊田章男氏はそう語り、ニュースになったのは記憶に新しい。

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東京・台場での「バッテリーEV戦略に関する説明会」には、トヨタとレクサスのEVコンセプトモデルがずらりと並べられた

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「モーターが生み出すリニアな加減速、ブレーキのフィーリング、そして気持ちの良いハンドリング性能を組み合わせることで、運転そのものの楽しさを追求し、レクサスらしい電動車をお届けしてまいります」

そのときの記者会見の席上、レクサスインターナショナルの佐藤恒治プレジデントは、上記のように述べた。

電動車というと、ハイブリッドや水素を燃料とする燃料電池車も含まれるが、佐藤プレジデントは、目下のところ注力しているのは、バッテリー駆動のEVだとした。

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12月の記者会見で、レクサスは2035年までに100パーセント電動化と発表された

「バッテリーEVは、電動化がもたらすクルマの進化、その特徴が最もわかりやすく表現されたモデルとして、今後のレクサスの象徴となっていくと考えています」

そのつぎが、2022年5月。「ラウンドテーブル」(小さな規模の記者会見)と題した発表会において、ジャーナリストを前に、レクサスインターナショナルは未発売を含めて4台の新型車を公開した。

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「ラウンドテーブル」会場に勢揃いしたデザイン部部長の須賀厚一(右端)らチーフエンジニアの面々

このラウンドテーブル会場にもちこまれた未発売のモデルとは、4月にオンラインで公開されたピュアEVの「レクサスRZ」と、このとき初めてお披露目された新型「レクサスRX」。21年10月発売の「レクサスNX」と、22年1月の「レクサスLX」と並べて置かれた。

これらは「次世代レクサス」(「ネクストチャプター」とも)と呼ばれる。ラウンドテーブルに集まった、各車のまとめ役をつとめたチーフエンジニア級のひとたちと、レクサスデザイン部部長の須賀厚一氏は、ネクストチャプターとは、「クルマは“素性”を徹底的に良くするべき」というマスタードライバー、豊田章男氏の考えを核にしたものと”証言”していた。

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走りのよさが際立つ最新の「NX」

ネクストチャプターの“頭出し”は、新型NX。ボディ設計やシャシー設計の担当者が、テストコースに詰めて、クルマづくりに励んだ結果だ。はたして、スタイルはSUVだけれど、ハンドリングのよさは出色で、どんな道でも楽しさが際立つモデルに仕上がっている。

NXは「LEXUS初のPHEVを導入し、HEVとともに電動車の普及を加速」させていくとレクサスが謳うモデル。同時に6種類ものパワートレインが発表されたのは衝撃的だった。なかでもレクサス初のプラグインハイブリッドの設定も話題に。私にとって印象に残っているのはハンドリングのよさだ。電動車でも操縦性がなにより大事という考えがよく表れていると思った。

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現在もっとも大型のSUVである「LX」

続くLXも同様。全長5100ミリ、全高1885ミリと余裕あるサイズのボディを持ちつつ、悪路走破性と、オンロードでの快適性を両立させたモデルだ。基本的なコンポーネンツを共用するのはトヨタ・ランドクルーザー。それでも、上記の目的のために、徹底的に開発で煮詰めていった結果、変えるべきところは専用パーツに変えることで、2つのモデルは似て非なるものになった。

「世界中のどんな道でも楽に、上質に」をコンセプトに、ドライバビリティと乗り心地を追求したとされるモデルで、オフロード性能と同時に、高速道路など日常使いでの上質さを追求しているモデルだ。ドバイなどでは、おそらくかなり引き合いが高いだろう。あいにく注文が多すぎて、現在、受注を停止中と、すごいことになっている。

このラウンドテーブルで発表となったのが、新型レクサスRX。「低重心でふんばり感のあるフォルム」(デザイン部長の須賀氏)がスタイルの特徴だ。

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現在開発中の新型「RX」は新テーマの「スピンドルボディ」採用

新型RXの機能面で注目すべきは、「RX500h Fスポーツ ・パフォーマンス」なるモデルの設定。2.4リッター4気筒ターボエンジンのハイブリッド全輪駆動で、ふたつの新しいメカニズムが用意される。

ひとつは、従来のハイブリッドシステムとちがい、6段オートマチック変速機が組み合わされること。モーターとこの変速機のあいだにクラッチを設けて、ダイレクトな感覚で、エンジンとモーターとの切り替えができるようにしている。もうひとつは、4輪駆動力制御の「ダイレクト4」が搭載されること。

「5代目となる新型RXでは、ラグジュアリーSUV市場のパイオニアであり、LEXUSブランドを牽引するグローバルコアモデル」(レクサス)とされるRX。内輪話では、「モデルチェンジするにしても、売れているから、基本的には従来のままでいい」と北米のディーラーに言われたそうだ。

それに対して、ブランドホルダーでありマスタードライバーとして車両の評価もする豊田章男氏は、ドライバーが”対話”をしながら走れるような、ダイレクトで上質な感覚をしっかり作りこんでほしい、と注文をつけたという。開発者の努力がどのようなかたちで実を結んでいるか。早く乗ってみたいものだ。

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2022年秋に発売ともいわれる「RX」は従来の雰囲気を残しつつ、新しいデザインイディオム採用

「車名にある”パフォーマンス”のなかに込めたのは、レスポンスのよさ、伸びやかな加速で、気持ちいいね、と言ってもらえる体験ができるという作り手の意図です」(開発を担当したチーフエンジニアの大野貴明氏)

スタイリングもあたらしい。とりわけ、「スピンドルボディという塊(かたまり)造形とグリルの冷却機能を両立すラジエターグリルと一体化した新しいデザインテーマ」と説明される意匠が目をひく。

あんまりしつこく書くと、レクサスの広告みたいになってしまうが、一所懸命、キャラクターの確立を目指す姿勢は、クルマ好きの目で見て、嬉しくなってしまうものだ。

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2022年中には発売とされているレクサスのBEV(バッテリー駆動のEV)である「RZ」

BEV「RZ」も、やはり、レクサスのこだわりが生んだモデル。基本コンポーネンツは、トヨタbZ4Xと共用するものの、モーターの出力はRZがもっとも高いうえに、bZ4Xが前輪駆動あるいは前輪駆動ベースの4WDであるのに対して、レクサス車は常時、前後輪を駆動する全輪駆動を採用。

前後のモーターの駆動力を制御して、あらゆる場面で気持ちよい走りを実現するための技術「ダイレクト4」が搭載されている。「人の感性に寄り添った独自の乗り味の進化」をめざしていると、レクサスではこのクルマについて語る。なるほど、プロトタイプに乗ったかぎりだが、印象としては、走っていて、すいすい、あるいは、くいくい、っていうかんじで小さなカーブだろうとこなしてしまう。

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パワフルなモーターとバッテリーの組合せで走りもよい「RZ」

”EVは誰でも作れる”なんてことを言うひともいるかもしれない。それは間違っているというのがレクサスの開発陣の考えかただ。駆動力制御など、複雑な技術を入れることで、独自の走りのキャラクターが生み出せる。

「BEVを軸とするブランドへの変革の起点となるモデル」(レクサス)と位置づけられるだけあって、RZ(のプロトタイプ)を走らせると、多方面によく出来ているのに感心する。

乗り心地がよく、加減速がよいうえに、アクセルペダルやブレーキペダルを踏みこんだときの姿勢制御がきちんと出来ているからだ。たとえば、カーブを曲がるのが楽しい。カーブとカーブのあいだの直線では、加速性のよさと、しっかりした減速が味わえた。

コンポーネンツを共用するトヨタbZ4Xが、基本的に前輪駆動であるのに対して、RZはあくまで全輪駆動。bZ4Xよりさらにパワフルなモーターでもって4つのタイヤを常時駆動。ダイレクト4を使いながら、EVだからこそ味わえる、レスポンス抜群の操縦性を実現することをめざして開発中だそうだ。

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円形でないハンドルはかなりユニークだ

2022年6月末に私が体験したのは、さらにもうひとつ、注目すべき技術を搭載したRZのプロトタイプ。「ステアバイワイヤシステム」という、最先端のステアリング(操舵)システムだ。

現代のクルマの大半に搭載されているステアリングシステムは、ステアリングホイールと、操舵輪(前輪)を動かすステアリングラックとの間に、歯車のついたステアリングシャフトがあって、物理的に結合されている。ステアリングホイールを回すと、歯車が動いて操舵輪を右あるいは左に動かす。

ステアバイワイヤシステムは、上(ドライバーが握るハンドル)と下(歯車を動かす部分)に1基ずつのモーターが採用されている。物理的な結合はなく、電子信号でもって、ドライバーの操作は、下のモーターに伝えられるし、車輪が感知した路面状況などは、モーターの動きでドライバーの手に返ってくる。

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テストコースに設定された小さなカーブもステアバイワイヤシステムだと腕の動きだけで曲がれてしまう

ハンドルとあえて書いたのは、通常の円形のステアリングホイールでないからだ。輪っかの上と下の部分が切り取られたような、台形の輪郭をしている。

ドライバーはだいたい”9時15分”の位置で握ることが推奨されていて、握ったら、ほとんどの動きにおいてハンドルの持ち替えは不要。左右約150度ぐらいの角度のみで、小さなカーブも曲がってしまう。

「従来のステアリングホイールはぐるぐる回すものですけれど、ステアバイワイヤシステムだと”腕を振る”という感覚で運転できてしまいます。ただしどのぐらい動かすと自然に運転してもらえるかなどは、徹底的に煮詰めました」

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持ち替えなしでほとんどの操作が行えるようにデザインしたという

レクサス車の意匠など、人間工学的な分野の検証も行うレクサスのTAKUMI(タクミ)である尾崎修一さんは、開発の背景を語ってくれた。

「円形のステアリングホイールとは意匠的にできるだけ離したいと思いました。でも、入力感覚、コントロール性、操舵性、の3つはおそろさかにしてはいけないもの。ドライバーの身体感覚とマッチすることをつねに念頭に、すべてを決めていきました」

初めてコクピットに腰をおろすと、ふだんあるはずのステアリングホイールのリムがないのは、ちょっと不思議な感覚だ。でも、複雑な断面形状で造型された”ハンドル”(レクサスの開発陣は”ハンドル”と呼ぶ)を握って走りだすと、腕の振りでクルマが向きを変えていく感覚に”ハマる”。

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ダイレクト4がe-AXLEと呼ばれる前後のモーターによる駆動力をコントロールするので曲がる性能がとてもよい

いっぽうで、違和感はすぐに薄れる。回す動作はなくなったものの、ナチュラルに動く感覚ゆえ、クルマとの一体感が感じられるからだ。

レクサスRZには、しかし、従来の円形ステアリングホイールのモデルも設定される予定だ。ただし「ダイレクト4とより相性のいいのはステアバイワイヤシステム」と、開発をまとめたチーフエンジニアの渡辺剛氏は言う。もっとスポーティにも振れるなど、電気の技術を活用すれば、いわゆる味つけの自由度がうんと広がるからだ。

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左から、チーフエンジニアの渡辺剛氏、ステアバイワイヤシステム開発主担当の山口武成氏、レクサスのTAKUMIの尾崎修一氏

「よりひととクルマとが一体になった気持のよい新しいドライビング体験」をめざすというレクサス。まだまだクルマには進化の余地があることにも、うれしい驚きを感じさせてくれるのだ。