最小限の音と光の単位から生まれる無限のアート体験。池田亮司展|弘前れんが倉庫美術館

  • 写真・動画・文:中島良平

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『data-verse 3』2020年 天井高15mの吹き抜けが特徴的な展示室に、日本初公開のインスタレーション作品を展示。宇宙空間からミクロの脳内世界までへと誘う光と音の表現に身を浸したい。

1990年代以降にダムタイプで活動を開始し、現在はミュージシャン/メディアアーティストとして世界各地で作品を発表して高い評価を受ける池田亮司。弘前れんが倉庫美術館を会場に、その空間の特性を活用したサイトスペシフィックな展示がこの春から開催されている。

DNA情報や素粒子、銀河光線や太陽物理などというおもに科学領域に関するデータを作品に取り入れ、音と光による作品で鑑賞者を陶酔へと導くインスタレーションが会場を埋め尽くすのだが、その構成が痛快だ。入口の『point of no return』(2018)で閃光とブラックホールの闇によって釘付けにされたかと思ったら、次の通路空間では『data.flux[nº1]』(2020)の数字の波に飲み込まれる。そして、天井高15mの吹き抜けの大空間に向かうと、2021年にアート・バーゼルで発表された『data-verse 3』(2020)が日本初公開されているのだが、その没入体験は圧巻だ。

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『point of no return』2018年 通常は床にカーペットを敷き、鑑賞者の足音も吸収するように音響を徹底するが、建築との共鳴を目指した今回は、あえて床をそのままに反響もインスタレーションに取り入れた。

NASAやCERN(欧州原子核研究機構)をはじめとする科学機関から公開データを収集し、加工、変換などの操作を経て作品化しているそうだが、ときには航海図であったり、脳内断面図であったり、DNAの形成をスキャンしたようなデータであったり、監視カメラが記録したような画像であったり、その種類にも限りがない。だが、データだ。観測した事実であって、そこに解釈を加えて編集した情報ではない。池田は音と光を最小単位に—音をサイン波に、光をピクセルに—還元し、データをもとに作り上げたフレームにはめ込むことで作品を制作する。音楽を作曲し、映像を構成し、空間を作り上げるという広い意味でコンポーザーと呼びたくなる作家なのだ。

池田本人が「正解はありませんし、究極的に意味のないものがアートですから、意味を求めずにコンサート会場を訪れるように楽しんでいただきたい」と語るように、正しい鑑賞法はない。ただデータの波に飲み込まれる。自然に対する畏怖と似たような感覚が生じるかもしれないし、膨大なデータを全身から注入されて恍惚の放心状態になるかもしれない。インスタレーション動画を見て少しでも興味を持ったら、躊躇することなく弘前に足を運んでほしい。今回の個展でしか味わえない体験を逃したら後悔するはずだ。

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展示室2階より。画面右手の2フロア分の吹き抜け越しに見える作品は『data-verse 3』(2020)。床面に投影される映像インスタレーションは『data.tecture[nº1]』(2018)。文字通り、光を浴びながら体験できる作品だ。

池田亮司展

開催期間:2022年4月16日(土)〜8月28日(日)
開催場所:弘前れんが倉庫美術館
青森県弘前市吉野町2-1
TEL:0172-32-8950
開館時間:9時〜17時
※入館は閉館の30分前まで
休館日:火曜日
※8月2日は開館
入場料:一般¥1300
http://www.hirosaki-moca.jp