フェラーリがハイブリッドのオープン「296GTS」を鈴鹿で発表した、納得の理由

  • 文:小川フミオ
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特別なクルマには特別なお披露目のやりかたが似合う。そう実感させてくれたのが、フェラーリの新型車「296GTS」の発表会。日本では、フェラーリ乗りの祭典ともいえる「フェラーリ・レーシングデイズ2022」開催前夜の2022年6月24日に、三重県の鈴鹿サーキットで開催されたのだ。

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メディアに296GTSをお披露目するフェラーリジャパンのパストレッリ代表取締役

「鈴鹿サーキットを選んだ理由は、フォーミュラ1レースでおなじみであり、フェラーリにとっても由緒ある場所だからです」

フェラーリジャパンのフェデリコ・パストレッリ代表取締役は、発表の背景について教えてくれた。

サーキットでは、入口のゲートからメイン会場まで、いたるところにフェラーリ・レーシングデイズのサインスタンドが立っていた。それとともに、レースファンにはおなじみ、フェラーリのコーポレートカラーである黄色に”跳ね馬”の意匠のバナーが並んだ。

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鈴鹿サーキットでお披露目された296GTS

お披露目されたフェラーリ296GTSは、日本初公開。欧州では4月に発表されてはいるものの、おそらく実車はごくわずかしか存在していないだろう。

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2021年に登場した「296GTB」をベースに、電動格納式のトップをそなえたオープン仕様。車名は、グランツーリスモ(GT)に、スポーツタイプのオープンを意味するスパイダー(S)を組み合わせたものだ。ちなみにGTBは、クーペ(ベルリネッタ)と呼ばれる。

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スポーツカーを愛した故スティーブ・マクイーンが所有していた「275GTB」

フェラーリがこのサブネームを使い出したのは、1966年の「275GTB/4」や同年の「330GTS」あたりにさかのぼる。フェラーリにとって「GT」とは、レース出走を目的とはしていないスポーツカーを意味している。

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げんに今回の「296GTS」も美しいスタイルと、居心地のよさそうな内装が目をひく。「1963年の250LMといった名車を巧みに参照」したと、フェラーリジャパンが用意してくれたプレスリリースには記されている。

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もっとも手前がミドシップのレーシングカー、250LM(LMはルマンの略)

250LMは、キャビン背後にエンジンを搭載するという当時としては画期的なメカニカルレイアウト(構造)をもったモデル。同時に、ピニンファリーナが手がけたボディは、いまの目で見ても美しい。

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現代の296シリーズは、もりあがったリアフェンダーとそこに開けられたエアインテーク(エンジンのために空気を採り入れる孔)、それに太めのリアクォーターピラーなど、象徴的な要素をデザインに採り入れていると説明されているのだ。

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ハードトップは時速45キロまでなら走行中でも14秒で開閉可能

もちろん、296シリーズは、レトロ趣味で作られた趣味的なモデルではない。最新の技術をそなえている。代表的なものはエンジン。フェラーリ初の6気筒で、ハイブリッドシステムが組み合わされている。

フェラーリは、1967年に「ディーノ」という小型スポーツカーを発表。ただし、このクルマの2リッターV型6気筒エンジンはフィアットとの共同開発。そこでフェラーリでは、今回の296シリーズのエンジンを「フェラーリ歴史上初めてのV6」としているのだろう。モデル名は、2.9リッターの6気筒を意味している。

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2992ccV型6気筒は、最高出力488kW、最大トルク740Nmを発生。今回はハイブリッド化により電気モーターを組み合わせ、610kWのシステム出力を発生。さらに、モーターの最大トルクの315Nmが上乗せされるというから、かなりのもんだ。後輪駆動にもこだわる。

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タイトだけれど居心地のいいコクピットはフェラーリならでは

ボディ外寸は全長4565ミリ、全高1191ミリ。かなり低いドライビングポジションだ。サイズ的には市街地でも扱いやすいだろう。スパイダーボディを作ったのは、常にそうだから、というのがもっともシンプルな理由。

常に、というのは、フェラーリにとって1950年代から重要なマーケットであり続けている北米の西海岸で人気が高いからだ。太陽がさんさんと輝る同地では、スポーツモデルといっても、ルーフが開かなくてはセールスが伸びない。ルーフ固定式のクーペを好む日本市場とちがう。

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そこでフェラーリは伝統的にスパイダーを多くのモデルに作り続けている。ランボルギーニもマセラティもアストンマーティンも、もちろんメルセデス・ベンツやBMWやレクサスといったプレミアムブランドも同様だ。

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ハイブリッドとはいえエンジンは依然大事と、キャビン背後のガラスのリッドごしにちゃんと見えるようになっている

「このクルマのスタイルに惹かれたなら、躊躇せずに乗ってもらいたいと思っています。フェラーリはエクスクルーシブ(排他的)なブランドではありません。つねにどなたに対してもオープンです」

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前出のパストレッリ氏はそうつけ加えた。いま、フェラーリでは世界的に顧客の若返りを進めているそうだ。そのために、デザインだったり環境適合性だったり、施策をいろいろ進めている。一説によると、ここ数年でユーザーの平均年齢は8歳ぐらい若返ったとか。

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「ハイブリッドモデルはV8ベースのSF90ストラダーレとスパイダー、V6ベースの296GTBと、今回のGTS で、計4台のラインナップ」と語るパストレッリ代表取締役

以前は、スポーツカーはあるていど歳をとってから乗るもの、と言われていた。収入があるていど入り、自制心も身につき、たんにスピードのスリルだけを追い求めないひとが、スポーツカーオーナーとして向いているというのだ。

ポルシェもいっときは、ユーザーの平均年齢が54歳などと言われた。でもおそらく中国市場などが開放されたことで、スポーツカーオーナーの若返りは進んでいるはず。

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ランボルギーニのオーナーの平均年齢は30代という説もある。フェラーリが296シリーズでもっていきなり同じターゲットを狙えるか。それはよくわからない。ただし言えるのは、歳をとってからオープンで乗っても、スタイリッシュだということだ。

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「アセットフィオラノ」という軽量パーツや空力パーツを付加した特別モデルも用意される

Specifications
Ferrari 296 GTS
全長×全幅×全高 4565x1958x1191mm
2992cc V型6気筒+ハイブリッド 後輪駆動
最高出力 610kW@8000rpm(システム合計)
最大トルク 740Nm@6250rpm+315Nm(モーター)
価格4313万円